題 空恋
私は空に恋してる。
そう、空ほど自由な存在はない。
受け入れてくれる存在もいない。
大好きだ。
小さい頃から、夕日の柔らかい光を映す薄いピンク色の空、夏のカラッとした空気と共に、もくもくした雲をうかべるキャンバスのような真っ青な空。
秋の落ち葉と共に、コバルトブルーの輝きをまとって、とても遠く遠く、どこまでも広がるような空。冬の柔らかい淡雪をふわふわと落とす、淡いホワイトグレーに変わる空。
大好きだ。
空と一緒にいたい。いつまでもいつまでも。
そしてその願いは絶対に叶うんだ。
だって私は空とずっと共にある。
空は私から逃げない。空はいつも私を見てるし、私も空を見てる。
空の美しさは、いつだって私の視界をとらえて離さない。
ということを隣にいる幼なじみに言うと、思い切り顔をしかめられる。
「またその話?聞き飽きたわ」
ツンっとそっぽを向くナオキ。
うーん、空の話以外はそんなに機嫌悪くないんだけど。
「だって今日の空はね、とっても淡くて雲もフワフワでソフトなイメージだったんだよっ、愛しいっ」
「空が何してくれんだよ?ミキに」
そう、これ言われる。ナオキいつもそう言ってくる。
「何もしてくれなくていいんだよ!だって好きなんだもん、ただそこにいてくれればいいんだ」
「そんなん、楽しくないだろ、理解できないわ」
ナオキはつまらなさそうにカフェで飲んでたアイスカフェオレをストローでかきまぜた。
「理解してもらいたいって思ってないもん」
私もいつもと同じ反応をする。
「おまえさ、彼氏とか欲しいと思わないの?」
不意にカフェオレに視線を落としたままナオキがそう問いかけてくる。
「彼氏?えー、いらないよー!空がいるもん」
「空は人間じゃないだろ」
なぜかナオキはキレたような顔をして私に強い口調で言う。
「だから言ったでしよっ、私は人間じゃなくても、ただ、そのままそこにあってくれればいいんだって。それで満足なんだよ」
「そんなん⋯。会話もできないし、触れ合ったりできないだろ」
会話⋯、触れ合い⋯。
ナオキに言われて考える。初めて思った、そんなこと⋯。
「確かにね⋯」
私はナオキの言葉に考える。
空と会話⋯必要なかった。
触れ合い?⋯風や空に丸ごとつつまれてる感覚になっていた。
私が考え込んでるのを見て、ナオキの瞳に光が差す。
「そうだろ?やっぱ空なんて彼氏の代わりにならないだろ?やっぱ彼氏探したほうがいいって⋯」
「やっぱ考えたけど、空がいるだけで、話せなくても触れ合えなくてもいい。いつも心で話しかけてるし、空全体にどんな時でも包まれてるもんっ」
「⋯⋯⋯」
ナオキは私の言葉を受けてピタリと黙ってしまう。
私はカフェの窓から壮大な空を見上げる。
今日も素敵だ。
「⋯⋯⋯オレは諦めないからな」
ポツリとナオキが言う。
「え?何?」
空に見とれてた私はナオキに向き合うと、ナオキは、
「何でもない」
とぶっきらぼうに言った。
なんだろう、と少し頭を傾げつつ、私はもう一度、狂わしいほど惹かれる空に目を移す。
いつまでもいつまでもそばにいるよと固く空に誓いながら。
題 青い風
ふと風がふくのを感じた。
「どうしたの?」
彼氏がそう問いかけてくる。
「今風が吹いたの。緑の風」
爽やかな5月、風に今色がついたように私には見えた。
「風に色?ああ、新緑の色がそう見えたのかもな」
彼氏がそう言う。
「違うの!風に色がついてたんだってば」
私はなぜかムキになっていた。
どうしてか分からないけど、わかって欲しい気持ちがあったのかもしれない。
彼氏は曖昧な笑みを浮かべて頷いた。
「わかった、分かったよ、色が付いてたんだな」
⋯わかって貰えてないと思った。それでも私はその返答で満足するしかなった。
夏はミントグリーン、秋はカラシ色。
私の目はおかしくなったのかもしれない。
空気に淡い色が付いて見える。
そして⋯⋯彼氏はそんなこと言う私を面倒くさがって⋯⋯。
別れを告げられた。
その時⋯⋯。
空気がディープ・ブルーになった。
視界が濃い青になった。
ああ、私が正しかったんだと思った。
葉っぱや花や空の色を投影するしてるとごまかせないくらい本当に濃いブルーだったから。
空気に色が付いて見える。
それは私の感情が、心の動きが、色として見えていたのかもしれない。
そうだとしたら分かってなんてもらえなくて当然か。
それでも、いつか分かってもらえる人がいたら⋯⋯。
そうなんだね、色が君には見えるんだね、と信じてくれる人がいたら⋯⋯。
私はその人に心を開きたいな。
題 sunrise
「夕日が沈むよ、きれいだねー」
私は彼氏を振り返ってそう言う。
「そうだね」
手を繋いだまま、彼氏が優しく笑いかけてくれる。
その笑みに、テンションが上がってしまって仕方ない。
優しい夕日の色が私と彼氏を包む。
その柔らかさが余計私の心を穏やかにする。
「一緒に見れて嬉しいよ」
彼氏がそう言う。
その言葉に私は一気に幸せの感情の頂点に押し上げられる。
「わ、わたしも、私もだよっ」
焦って手を握る力に力を込めると、彼氏は楽しそうに笑う。
「そんなに焦らなくても」
「もー、だって嬉しすぎたんだもん」
彼氏の手を引き寄せて、私の両手で包む。
「ありがとう。いつも私といつもいてくれて。こんなふうに綺麗な景色を一緒に見てくれて」
「もちろんだよ。カリンといる時間はいつも幸せだから、こっちこそ感謝したいよ」
そう言ってくれる彼が本当に愛おしい。
違うよ、私の方が感謝なんだよ。
返しきれないほどの愛を感じさせてくれた人。
隣にいてくれるだけで奇跡みたいに感じる人。
一緒いてくれるから、夕日が特別なものに思えるよ。
私は彼に微笑みかける。
「これからもずっと夕日を一緒に見て欲しいな」
彼は頷いて笑いかけてくれる。
「もちろん、僕からお願いしたいくらいだよ」
二人で向かい合って微笑み合う。
そんな幸福な時間があることを、今はただただ感謝したいなって思えたんだ。
題 どうしても
どうしても思ってしまう。
あの時あなたと一緒にいたら⋯⋯。
あなたと一緒に行けていたら⋯。
そしたら、私は今ここにいなかった。
きっとあなたのそばで、ずっと安心して、なにも心配なくて、本当に溶け合えるような、あなたしかいないようなそんな祝福の日々を過ごせていられたと確信できるから。
だから切なくて⋯。
時間を戻せるならあなたの隣に何百回でも行くけど。
それでも、そんな事は現実的じゃない。
私には私の道があって。
本当にあの時に戻ったとしたら、また同じ道を選んでしまいそうだ。
あなたとの道を選びたかったこの過去だけが
後悔だけの気持ちが私を取り巻いているけれど。
その時その状況で、私なりに考えての結論だったことも確かなんだ。
そうでなきゃ何百回考えたとしても、迷いなく私はあなたを選んだはずだから。
そう出来ないのなら、それはそういう運命だったのだろう。
私の選択はその時それを最善と考えたのだから。
考えてしまうのは後悔と未練。
あなたへの情がそうさせるんだ。
それだけ大好きだった人だっていうのも事実なんだよ。
幸せな時を沢山貰ったのも事実なんだよ。
出会えたのは祝福だって今でも思ってるから。
過去にはもう戻れないとしても、今はもう隣にお互い別のパートナーがいるとしても
あなたへの気持ちは本当に大事な大事な宝物。
心の宝石箱に閉まっておくね。
だから、幸せになってね。
会えてない時間分の祈りをあなたに送るよ。
こうしてふと思い返した時、思い出した時。
あなたがいつまでもいつまでも幸せでいてくれますように。
私の大事な人にいつまでも幸せの波が届き続けますように。
そういう風に思えると、なぜだか心がとっても暖かいんだ。
後悔はあってもね、私も今幸せでいるよ。
題 静かな情熱
私の心は穏やかだ。
まるで海みたいだ。
炎のように燃えたかった気がする。
情熱の赴くまま人を愛したかった気がする。
それでもあなたといる時はとてもとても波が凪いでいて
静かすぎて、心地よくてまるで寝てしまいそうで。
でもほかの人にはそんなことはなくて。
あなただけなんだ。
だからそう思うの。
あなたが特別だとかんじるのは。
他の人には感じないものを感じるからだって。
その気持ちは不思議な感覚。
もしかして前世からの知り合いなのかもね。
懐かしいような、この場所にあなたといる事がまるで決まっていたかのような。動かないような。
だからこそここにいたくなる。
いつまでもあなたとこの優しい海に浸るような感覚で
ずっとずっとここに居ようよ