題 ゆるい炭酸と無口な君
シュワっ
そんな音はとても清々しい割に、無口な君が手渡してきたのはぬるい炭酸だった。
「なんだよ、これ、ぬりぃっ」
俺はそう言って1口そのコーラを口に含んで缶を突き返す。
缶を受け取った君は口をへの字に曲げて言った。
「だって、遅かった、部活」
「あー」
俺は頭をかきながらいう。
この暑い中、俺が部活終わるの待ってたからぬるかったのか。
一体いつから待ってたんだろう。
不満そうな顔で俺を見つめる幼なじみのユマ。
「悪かったよ、待たせたか?」
俺の言葉に口をへの字にしたまま頷くユマ。
肩までの黒髪がサラッと揺れる。
「今日練習長引いてたんだから先に帰ればよかったのに」
俺がそう言うと、ユマは首を振る。
「コーラ、買っちゃった」
「渡すために待ってた訳?」
俺が確認すると再び頷く。
俺は部活用品が入った荷物を手で持ち上げる。
「暑い中ずっと外にいたら熱中症になるぞ。お前は水分とったの?」
俺が聞くと、ユマはフルフルと首を振った。再びユマの黒髪がゆらゆらと揺れる。
こいつはそういう所があるやつだ。
俺の物は買ったりするのに、肝心の自分のことがおざなりになったりする。
「それ、かせ」
俺はユマの手にあるぬるい炭酸を手にする。
一気にぬるい炭酸を喉に流し込む。
だいたい炭酸ってあまり水分補給としては意味をなしてない気がする。
俺は喉にしゅわしゅわぬるい感触が広がっていくのを感じながら思う。
ポカリとかの方が全然効率的に水分補給できる。
ついでにユマの分も買ってくればよかったのに。
なんて思いながら、空き缶を片手にユマを見る。
「行くぞ。飲んだし、今度はお前の水分補給の番だ。自販機言ってポカリ買うぞ」
「え⋯⋯」
ぽかんとするユマ。
「え、じゃないって。こんな炎天下にずっと水分なしで待ってるなんて無茶なんだよ。何か水分飲まなきゃ」
俺は、動かないユマの手を握って自販機へと歩き出す。
「⋯⋯優しいね」
俺に手を引かれながら歩き出したユマがぽつりと言う。
「⋯⋯優しいのかぁ?むしろお前は自分にもっと気を使えよ。俺の事より、お前が倒れたら困るだろ?」
オレはそういいながら歩く。
ユマはまたポツリと言う。
「⋯⋯ありがと」
⋯⋯無口な幼なじみは、いつもいつも世話がやける。
俺のこと気づかってるようで結局俺が気遣ってないか?と思ってしまう。
⋯⋯それでも、俺はユマの世話を焼くのがそんなに嫌じゃない。
ぬるい炭酸を持ってずっと待っていてくれるようなユマの性格が本当はどこか嬉しいからなのかもしれない。
8/3/2025, 11:11:57 AM