題 眠れないほど
題 夢と現実
ねぇ、オトナになったら何になる?
そうだなぁ、ケーキ屋さんかお嫁さん!!
そんなセリフ幼稚園で言ってたっけ。
可愛かったなぁ。
大学の講義の帰りにクスリと一人で笑う。
広々としたキャンパスと青い空を見て思う。
私は今、あの夢ってどうしたんだろう。
ケーキ屋さんなんてなったとしても時給低いし、お嫁さんなんて、それこそ収入安定しないと、子供だって作れないし、結婚なんてまだまだ先だ。
夢になんて出来ないと思う。
こんなに現実的思考になってしまった自分に一つ小さいため息をつく。
もっと自由に生きられたら、私、ケーキ屋さんになってたかな?
ショートケーキやスポンジケーキ作るパティシエの専門学校に行って、今、目を輝かせてお菓子作りしてたかな。
それとも、付き合ってる彼氏と結婚のことを話して、何年後には結婚したいね、なんて情報誌見ながら話してたかな。
私、今は経済学部で勉強してる。
親がケーキ屋さんなんてだめだって専門学校行かせてくれなかった。
結婚だって・・・今彼氏がいない私にとっては夢の夢物語だ。
はぁぁ。
大きなため息が出る。
経済の勉強はためになるんだろう。
そうだね、現実を生きるならそれが正解なんだろう。
でもね、私は必ずしも正解を求めてはいなかったんだよ。
親の正解のまま生きていたかったわけじゃないんだよ。
私の夢は宙ぶらりんなままだ。
分岐した道にはもう戻れないのかもしれないけど・・・だけど、確かにそこにあった選択肢。
選べなかった未来を思ってもう一度大きなため息をつくと、私は大学の門をくぐって帰路へとついた。
題 さよならは言わないで
「ごめん、もう別れよう」
私が彼氏とデートしている時に急に言われた言葉。
「え?嘘だよね」
一緒にこれまで普通に話してて、急に言われた。
それってデートの最初に言うべきじゃないの?
何で一緒に映画行って、感想言い合って、カフェに入って一息ついてる時に言われなきゃいけないの?
完全にタイミング違うよね?
という気持ちとともに、嘘であってほしいという気持ちもある。
付き合って2年たって、そりゃ、マンネリ感なきにしもあらずだけど、別れるなんて・・・そんなの、急に気持ちの整理がつかない。
「えっと・・・嘘、でしょ?」
彼の深刻な表情を見て多分本当のことなんだろうな、と思いながらも再度問う。
彼は私を真剣な眼差しで見つめる。
「他の人好きになっちゃったから」
「それは・・・きついかも」
聴いた瞬間こぼれてしまう言葉。
聞きたくなかった。
ドラマみたいなセリフを耳にしながら、私はどこか他人事のように聞いていた。
「ごめん・・・」
「いや、謝られても」
としか言いようがない。
謝ってもこの事実は変わらないんだから。
私がどうしようと、もう相手が決めたことなんだから。
・・・仕方ないよね。
「分かった、今までありがとう」
って言うと、相手が焦った顔をする。
・・・ん?なぜ?
「どうして?別れるんだぞ?」
「うん、だから今までありがとうって・・・」
「じゃなくて、待ってとか、嫌だとかないのか?」
「え・・・」
その発想はなかった。
・・・というかさー。
「私がすがって、あなたは気持ち変えるの?私の方選ぶの?そうはならないよね。なら、そんなことしたって仕方ないじゃない。あなたはもう他の人を選んじゃったんだから」
・・・自分の心が冷静なことが自分で怖い。
恐ろしく冷静でいる自分。
目の前の彼に心が動かない。
「あっそ、ほんっとお前って可愛くないよな。じゃあな」
彼はそう言い捨てると、そのまま会計もせずカフェから出ていってしまう。
そっか、こんな終わり方なんだ。
今までたくさんデートしたのに。
沢山好きって言ってくれて、一緒に笑い合ったのにさ。
別れるときってこんなにあっさりしてるんだね。
あなたこそ、私に対して、そんなに気持ちなんてなかったんじゃない。
なのに私を責めるの?
気づくと、手にしたコーヒーカップにポトリと涙が一滴落ちていた。
冷静なんて嘘だ。
嘘だよ。心を一時的に殺したんだ。
別れたくなんてなかった。もっと一緒にいたかった。
でも、そんなみっともないこと言えなかった。
今さらこんなに悲しいなんて、苦しいなんて・・・
後から後から溢れてくる涙をハンカチで拭いながら私は思う。
さよならなんて言わないで欲しかった。
一緒にずっといたかった。
どんなにマンネリでも、私はあなたが大好きだった。
その気持ちは、溢れ出す涙とともに膨れ上がる。
拭ってもこみ上げてくる悲しみと蘇ってくる思い出。
でももう言われてしまったから。
さよならを言われる前には戻れない。
私は涙がどんどん染み込んでいくハンカチを手に、しばらくカフェの席を立つことも出来ずに彼との思い出を思い出しては悲しい涙を流していたんだ。
題 光と闇の狭間で
「私って暗いなぁ」
そんなこと考えちゃう私は天使。天界でいつもみんなの陽キャモードについてけない天使。
「ねーねー、今日は神様誘って皆でパーッと雲固めて雲ドッジしようよ~」
「いいね~!その後は純度100パーセントの雪解け水でカンパイね~!あ、ナーシャも来るでしょ?」
「あ、私仕事がまだ残ってるから・・・」
はぁぁぁ
先程の会話を思い出してため息を再び吐く。
なんでみんなあんなに明るいんだろう。
私は何で天使なのに、こんななんだろう。
「あ、今日もいた」
「あ、どうも」
天界と地上界の間の雲で出来た休憩所でいた私
に声をかけてきたのは悪魔。
悪魔だけど、別に仕事が違うだけで、そんなに敵対してる訳じゃない。
普段干渉しないだけだ。
でも、この悪魔とはよくこの休憩所で一緒になる。
・・・なぜなら
「はぁぁ、なんでみんなあんなに元気なんだろ」
「あ、やっぱり?」
悪魔のボキに言われて、私はいつもの展開だと頷く。
「今日は地獄鬼ごっこするらしい、捕まった人は地獄に放り込まれるっていう、みんな楽しそうなんだけど。その後血のカクテルパーティーだって」
「分かる~!なんだろね、毎日のお祭り騒ぎ、本当に疲れちゃう」
「うんうん、そうだよな、悪魔だって、仕事終わったら家でゆっくり眠りたいよ!」
「激しく同意っ、でもさ、家にいるとわざわざ誘いに来るじゃん?」
「そうなんだよ、だからここにいる訳だ」
「同じく」
私たちは顔を見合せて深いため息をついた。
天界と地上界の間は、仕事時間は良く天使と悪魔がそれぞれ干渉せずにグループ作って雑談してるけど、今は仕事終わりだから、まず誰も来ない。
だから、私とボキはよく仕事終わり、打ち上げ?から逃れるべくここで2人になる。
「眠い~!」
いつもの様に私が言うと、ボキも頷く。
「眠いよな、寝る?」
「うん」
手招きするボキの傍に行って一緒にボキの腕枕で眠る。
枕がない安定しない雲の上で寝るのが困難で、困ってたらボキが提案してくれた。
「ありがとうね、いつも」
私が傍にあるボキの顔を見てお礼を言うと、ボキは微笑む。
「こっちこそ、近くに眠ってる人がいる方がよく眠れるから」
私たち、傍から見るとヤバいよね?
天使と悪魔が一緒に腕枕して寝ちゃってるなんて・・・。
でも、こうして眠れる一時はちょっとした癒しの時間なの。
ただ、傍に賑やさもなく、静かな時間。
だからね、光の存在の天使と闇の存在の悪魔が一緒に寝てるなんて変かもしれないけど・・・。
この狭間でだけは・・・。
天界と地上界の狭間でだけは、このかけがえのない時間を持つことを許して欲しいと思っているんだ。
題 距離
もうちょっと離れて・・・
私が横の彼氏に言うと、彼氏は「ん?」ととぼけた顔でこっちを見る。
「どうして?」
「どうしてって近いから・・・」
「え?近くないよ」
「・・・近いから言ってるんだけど」
近くないと言い張る彼氏は、私の部屋のソファーのすぐ横に座ってて、私に抱きついてる。
「これが近くないなら何が近いのよ?」
「だって、くっつきたいんだもん、普通じゃない?」
犬系だ。
完全な犬系というか犬が目の前にいる。
「ほら、よーく見てください、ここにスマホがあります」
「ふむふむ」
「私は今このスマホでゲームをしています」
と言いながら、私はゲーム画面を彼氏に見せる。
「してるね〜あ、レベル15までいったの?えらいえらい」
なぜか頭をなでなでされる。
「そーなの!頑張って昨日やってたらハマっっちゃって・・・ってそーじゃなくてっ」
あやういあやうい。
危うく籠絡される所だった。
「私がゲームしててもさ、君がそーやって抱きついてたら動けないわけ。その結果、このゲームでもう3回もハート使っちゃってるの」
「そっか〜それは悲しかったね」
「誰のせいだと思ってるの?」
と言いながらまだニコニコして私に抱きついている彼氏を軽く睨む。
「あ、はいはい、言いたいことあるっ」
「はい、どうぞ」
彼氏が、急に手を挙げるから仕方なく指名する。
「デートの時にスマホ見てるのってどうかと思います〜!せっかく久々に会えるんだしさ〜」
「・・・うっ」
痛いところ突かれた。確かにね、それは彼氏の方が正しいかもしれない。
でも、昨日インストールしたこのネジ外してくゲーム楽しすぎて、やめられない止められない状態だ。
・・・それに、何もしてないとベタベタされまくってしまう。
それはそれで照れるしなぁ〜。
「もっと一緒にいようよ〜」
彼氏が、さらにぎゅうううっと私を抱きしめる。
「ま、まって窒息するから・・・」
私が頑張って振りほどこうとすると、彼氏は、拘束を弱めて私を見る。
「・・・僕のこと、嫌い?」
うるうるした目。
・・・・この小悪魔め。
「・・・いやっ、嫌い・・・とかじゃないけど・・・」
しどろもどろに返すと、わーいっとベッドに押し倒される。
やばい!!!このままじゃ抜け出せないっ。
「あっ、ねぇねぇ、もうすぐクリスマスじゃない!私、プレゼント欲しいなぁ、カナタくんにも買ってあげたいっ、一緒に選びに行かない?」
「えっ?!そーだねっクリスマスだ」
やった、絶対クリスマスとかイベントには飛びつくと思った。さすが犬系彼氏!
「じゃあ、行こうよ、ゆりちゃん何欲しい?イルミネーションとかも綺麗かな?」
ワクワクした目で私に問いかける彼氏。
うん、君はとってもカワイイよ・・・。
「イルミネーション、こないだ駅前ですっごく綺麗だった。プレゼントは欲しかったピアスがあるから、それでもいい?」
「もちろんっ、可愛い彼女のためならいくらでも買うよっ」
「いくらでもはだめでしょ・・・」
君のほうが可愛いと思いながら私は答える。
「行こうか?」
甘々犬系彼氏の問いかけに頷くと、私たちはどちらからともなく手を繋いで歩き出した。