題 さよならは言わないで
「ごめん、もう別れよう」
私が彼氏とデートしている時に急に言われた言葉。
「え?嘘だよね」
一緒にこれまで普通に話してて、急に言われた。
それってデートの最初に言うべきじゃないの?
何で一緒に映画行って、感想言い合って、カフェに入って一息ついてる時に言われなきゃいけないの?
完全にタイミング違うよね?
という気持ちとともに、嘘であってほしいという気持ちもある。
付き合って2年たって、そりゃ、マンネリ感なきにしもあらずだけど、別れるなんて・・・そんなの、急に気持ちの整理がつかない。
「えっと・・・嘘、でしょ?」
彼の深刻な表情を見て多分本当のことなんだろうな、と思いながらも再度問う。
彼は私を真剣な眼差しで見つめる。
「他の人好きになっちゃったから」
「それは・・・きついかも」
聴いた瞬間こぼれてしまう言葉。
聞きたくなかった。
ドラマみたいなセリフを耳にしながら、私はどこか他人事のように聞いていた。
「ごめん・・・」
「いや、謝られても」
としか言いようがない。
謝ってもこの事実は変わらないんだから。
私がどうしようと、もう相手が決めたことなんだから。
・・・仕方ないよね。
「分かった、今までありがとう」
って言うと、相手が焦った顔をする。
・・・ん?なぜ?
「どうして?別れるんだぞ?」
「うん、だから今までありがとうって・・・」
「じゃなくて、待ってとか、嫌だとかないのか?」
「え・・・」
その発想はなかった。
・・・というかさー。
「私がすがって、あなたは気持ち変えるの?私の方選ぶの?そうはならないよね。なら、そんなことしたって仕方ないじゃない。あなたはもう他の人を選んじゃったんだから」
・・・自分の心が冷静なことが自分で怖い。
恐ろしく冷静でいる自分。
目の前の彼に心が動かない。
「あっそ、ほんっとお前って可愛くないよな。じゃあな」
彼はそう言い捨てると、そのまま会計もせずカフェから出ていってしまう。
そっか、こんな終わり方なんだ。
今までたくさんデートしたのに。
沢山好きって言ってくれて、一緒に笑い合ったのにさ。
別れるときってこんなにあっさりしてるんだね。
あなたこそ、私に対して、そんなに気持ちなんてなかったんじゃない。
なのに私を責めるの?
気づくと、手にしたコーヒーカップにポトリと涙が一滴落ちていた。
冷静なんて嘘だ。
嘘だよ。心を一時的に殺したんだ。
別れたくなんてなかった。もっと一緒にいたかった。
でも、そんなみっともないこと言えなかった。
今さらこんなに悲しいなんて、苦しいなんて・・・
後から後から溢れてくる涙をハンカチで拭いながら私は思う。
さよならなんて言わないで欲しかった。
一緒にずっといたかった。
どんなにマンネリでも、私はあなたが大好きだった。
その気持ちは、溢れ出す涙とともに膨れ上がる。
拭ってもこみ上げてくる悲しみと蘇ってくる思い出。
でももう言われてしまったから。
さよならを言われる前には戻れない。
私は涙がどんどん染み込んでいくハンカチを手に、しばらくカフェの席を立つことも出来ずに彼との思い出を思い出しては悲しい涙を流していたんだ。
12/3/2024, 1:23:10 PM