題 冬のはじまり
冬のはじまり
「あ、ねえねえ見て」
私は隣にいる彼氏の袖をつつく。
今日はひときわ寒い日。
もうすぐ12月になろうかというこの時期、毎年、寒すぎて、こんなに寒かったっけ?!という話題を友人とする。
厚手のコートを着て、街で歩いてるけど、暖がほしくて、横にいる彼氏の暖かい手を思わず取ってしまうほど。
「冷たっ雪女かよ?」
とか言う彼氏だけど、手は繋いでくれたまま。
いーんだもんっ、あったかいほうが暖める義務があるんだからね?!
なんて思いつつ、空を見上げると、何かチラチラしたものが・・・。
ホコリ・・・いや?!粉雪みたい・・・。
「雪っ雪っ」
「え?うん、雪女って言ったけど?」
私の言葉に怪訝そうな顔で言う彼氏に私は激しくブンブンと首を振ると、空を指差して言う。
「見て、ほらっ」
「え・・・?」
彼氏が上を見上げる。
「ね?ね?細かいチリみたいな雪が降ってるでしょ?」
「ホコリなんじゃないの?」
確かに、あまりに細かすぎてその指摘に明確な反論ができない私がいる。
いや・・・でも。
手を伸ばしてみると、ヒラヒラというほどもないくらい細かく手の上に着地した粉雪らしきものは、かすかな冷たさを手のひらに残して消滅した。
「冷たいもん、絶対雪だよ、うわぁ、こんなに早く雪が降るなんてっ、今年はホワイトクリスマスかもねっ」
なんだか雪が降ったことに嬉しすぎてニヤニヤしてしまう。
「寒っ、楽しそうだな・・・クリスマスまで風邪ひくなよ」
ロマンの欠片もないコメントを残す彼氏に、ちょっと不満気な顔をしてみせるけど、彼氏は私の手を更にギュッと強く包むと、自分のポケットに手を繋いだまま入れる。
「クリスマス、おまえと過ごしたいからな」
「あ・・・うん・・・」
急な直球な言葉に思考が一時停止して、照れて曖昧な言葉しか出てこなくなる私。
そんな私を見て少し笑うと、彼氏は、
「雪見れて良かったな、じゃあ、暖かいものでも飲むか?」
と言う。
私はそんな彼氏の言葉に、幸せを感じながら頷く。
「うん!」
そして、クリスマスまでしっかり暖かくして、大好きな彼と元気にデートしたいなって心から思ったんだ。
題 おわらせないで
「やだ、別れたくない」
「いや、もう遅いから帰れよ」
「やだっ、絶対離れないっ」
わたしはぎゅうううっと彼氏に抱きつく。
ちらっと上を見上げると困惑しきった顔の彼氏。
「門限あるんだろ?送ってってやるからさ」
「だって別れたくないんだもん」
ずっと一緒にいたいから。
会えば離れたくない。
帰る時間にこんなやりとりが続く私達。
困らせちゃってるよね?分かってる。
でもさ、感情ってどうにもならないじゃん。
・・・好きなんだもん。
離れたくないんだもん。
その気持ち、私にはどうしようも出来ないんだもん。
しがみついていると、彼氏がはぁとため息をつく。
不安になって上を見上げると、彼は優しいちょっと呆れたような顔で、私の頭をポンポンする。
「分かったよ、あと5分だけ座って話そうか?」
「うん!」
いいの、1秒でも別れの時が伸びるなら、駄々こねたかいもあったよ。
困らせてる自覚があるから私も彼氏に罪悪感も沸くんだけど、嬉しさの方が勝ってしまう現金さ。
ちょっと自分が嫌になる。
「・・・ごめんね、いつも別れるのごねて」
そう言うと彼氏はニコッと笑って私を見る。
「そこが可愛いとこでもあるからな」
「ホント?」
「・・・ん〜ホントだけど、5分経ったら帰ろうな?ずっとごねられると俺負けそう・・・」
彼氏が複雑な顔して私を見るのが愛しくてたまらない。
「分かった、ほどほどにごねるようにするね〜」
「方向性間違ってないか?」
そんな風につぶやく彼氏の言葉も耳に入らず、私はこうして一緒に今いられること、そして、ごねるのも可愛いと言ってくれた彼氏に心は舞い上がっていた。
私と彼氏の別れの儀式はこの先も続きそうだ。
題 愛情
「好きだよ」
そんな言葉は呪いだ。
だって・・・だって、何とも思ってなかったのに、そう言われた次の日から意識してしまっている私。
しかも、告白した当の本人は話しかけてこないくせに、私のことチラチラ見てる。
今日だけで教室で何度も視線がかみ合ってしまっている。
そんなこと言わないで欲しかった。
だって、友達だったから。
凄く大好きな友達だったから。
間違いだって言ってくれないかな。
そんな考えすら湧いてきてしまう。
ダメだよね。
相手が真剣に言ってくれたなら考えなきゃ。
そう思うのに・・・そう思うのに、考えられない。
恋愛って何?今いくら考えても答えなんて浮かばないよ。
相手のこと、大事だし、友達としてとても大切にしていきたいけど、それ以上・・・それ以上かぁ。
はぁ、とため息を一つ。
無理だ、私には今気持ちに応えることは出来ない。
でもそしたら友達じゃなくなっちゃうかな?
チラッと相手を見ると、また視線がかち合った。
・・・気まずい。
気まずさ絶好調・・・。
どうしたらいいのっ?!
私は授業中にも関わらず頭を抱えてしまう。
友達として、ずっと仲良くしていたいのに、無理かなぁ?
そう言ってみる?そしたら受け入れてくれるかな?
友達からでいいからって言われちゃうかな?
そしたら・・・また考えなきゃいけないよね。
頭が混乱して仕方ない。
とにかく今分かっていることは一つ。
好きだよって言う言葉は呪いだ。
私の気持ちは今すごーく縛られて囚われている。
この終わりのないように見える答えのタイムリミットはもうすぐ近づいている気がする。
終業のホームルームまでには答えを出さないとなぁ。
私はもう一度ため息をつくと、どうしたらいいのか再び出口のない回答を絞り出すべく考え始めた。
題 微熱
「寝てろよ」
学校の保健室で寝てるってメールした途端、駆けつけてきた彼氏は開口一番こう言った。
「いや、微熱だから大丈夫、ちょっとふらふらしただけだし、ごめんね、心配かけて」
私はちょっとだけほてった自分の体を保健室のベットから起こした。
「微熱だって熱は熱だろ?寝てろって。今日は授業終わったら俺がつきそって帰ってやるから」
セナは心配そうな顔で私の顔をのぞき込みながら額に手を当てた。
「そんな大げさにしなくていいよ、ちょっとだけ熱があるから、念の為休みに来ただけなんだから、大げさだってば」
私はセナがあまりにも心配そうな顔で言うので、あわてて否定する。
授業全部休むなんて、勉強遅れちゃう。
他の人のノート写させてもらうの悪いし。
「あのな、俺は分かってるんだからな。ミノリは、滅多に弱音吐かないんだから。そんなミノリがこうして保健室来たってことは、結構具合悪いってことだ。・・・だろ?」
・・・鋭い。
確かに、ちょっとフラフラしてて、座ってるのしんどかったから、保健室行きを先生に申請したよ。
・・・でも、寝たら少しは良くなったし・・・。
「寝たら良くなったとか思ってるだろ?」
超能力者?!と一瞬思う。
セナが私が思ったことをそのまま言う。
「たまには休めよ。いつもがんばりすぎなんだから。勉強だって夜遅くまでやってるって言ってたろ?だから、疲れもでたんだって。最近寒いし。俺、お前に風邪酷くなって辛い思いさせたくないんだ」
「セナ・・・」
いつになく優しい彼氏の言葉にジーンとする私。
私頑張りすぎかな?確かに周りの人にはいつも頑張ってるねって言われるけど・・・。セナはそんな私のこと、見抜いてくれてたんだね。
「ありがとう、セナ、大好き」
嬉しくて笑顔で笑いかけると、セナは俯いた。
「いやっ、そっ、そんなことっいきなり言うなよなっ、心の準備あるし・・・それにミノリ可愛すぎなんだって」
そんな事を言われて逆にこっちが照れてしまう。
「あ・・・ごめんっていうか、そっちこそ・・・いきなり可愛いとか言わないで・・・」
わたしがそう言うと、セナは、だって本当なんだから・・・とボソッという。
・・・なんだか熱が上がってしまいそうだ。
セナはハッと気づいたような顔をすると、私をベットに優しく寝かせて、額に手を当てた。
「大丈夫か?だから、今日は一日休んで、後で俺と一緒に帰ろう、迎えに来るな」
「・・・うん」
優しいセナの気持ちが伝わって、私は素直に頷く。
「よし、じゃあ授業戻るわ」
セナはチャイムの音に立ち上がった。
「ありがとう」
私はセナに声をかける。
セナは笑顔で頷くと保健室を出ていった。
・・・ありがとう、と再び思う。
私の弱い所、頑張りすぎて休めない所を見ていてくれて、寄り添ってくれてありがとう。
大好きだ。
私の彼氏がセナで良かったと改めて思った。
題 太陽の下で
太陽の下私は眩しく感じながら日陰を選んで公園のベンチで休んでいた。
ここに座って太陽を見上げると、あこがれのような気持ちが湧いてくる。
太陽は全ての生き物にエネルギーを与えているから。
そのエネルギーはみんなに元気を与えて、活力を与えてくれるから。
そんな人、周りにいる。
ひまわりみたいでみんなに憧れ好かれ、元気の塊みたいな女の子。
私は違うから。
私はエネルギー発電なんて出来ないから。
どちらかと言うと人からエネルギーもらいたいって思ってしまうから。
だから少し暑い位のこの日差しが少し羨ましくも妬ましい気持ちで見ている。
太陽には決してなれない私。
私の好きなあの人もあの太陽のように明るい人に惹かれてる。
毎日可愛いって沢山言ってて・・・へこむなぁ。
私はベンチに座って頭上の日陰の元になってくれる木を見上げる。
こんな風に優しく出来たら良いのに。
太陽みたいにはなれなくても、木のように優しくそよそよと吹いて、人に安らぎの空間を感じさせられるようになれればいいのに。
太陽のようなあの子が好きな人が、振り向いてくれる保証なんて何もないけど。
でも、何かあれば、そしたら自信がつくと思ったんだ。
私は自分を好きになりたいの。
いつも醜い感情であの人と太陽のようなあの子を見ていたくないから。
だからお願い・・・。
木を見上げて私は祈るような気持ちで語りかける。
私もこの木みたいに癒しを与えられるように、何かを人に与えられるようになりたい。
そして、あわよくばあの人を振り向かせたい。
そんな私のエゴ満載の願いが届いたかどうかは分からないけど、木は風にさらさらと揺られて優しく木の葉を揺らした。
そんな光景を見ていたら、私は柔らかな優しさを分けてもらった気がしたんだ。
やっぱり木の癒しの力は偉大だ。
なんだか、根拠はないけれど、いつの間にか少し自信がわいていたから。