題 どうすればいいの?
ど、どうすればいいの?
私は朝起きて、ベッドの下に転がる死体を見て青ざめた。
一面の赤い血が広がる絨毯の上に横たわる死体。
しかも、それは私が昨日激しく喧嘩した悪友だった。
毎日のように喧嘩してて、昨日もいつものように些細なことで口喧嘩になって・・・。
2人とも居酒屋で飲んだ後で私が財布忘れたって言ったら責められて、そこで言い合いになったんだ。
何かそのまま激しく口論して、部屋に入ってそれから・・・。
記憶がない。
何で・・・・。
私殺しちゃったの?
喧嘩はしてたけど、そんなに殺したいほど憎んでたわけじゃなかったはずなのに・・・。
でも酔ってたら何しでかすか自分でもわからないしそもそも肝心の記憶がない。
動かなきゃいけないことは分かっているのに、私はそのまま動けずに固まっていた。
「にゃあ」
「きゃあああ!!」
いきなり猫の鳴き声がして、私はベッドの上で飛び上がった。
何故か家に猫がいる。
どうして?
猫?
ん?
猫は悪友の元へと行くと、悪友のほっぺたについた血をペロペロなめた。
「ん、んん〜?」
すると、死体が声を上げた。
私はびっくりして固まったままだ。
「くすぐったいなぁ」
って言いながら、死体だったはずの悪友は大きなあくびをして起き上がる。
「げっ、なにこれっ、服がケチャップだらけじゃん〜」
「え?ケチャップ?」
私が尋ねると、悪友が呆れたように私を見る。
「覚えてないの?昨日飲みの帰りに喧嘩中この猫が捨てられててさ、かわいそうって拾って帰って来たじゃん。でさ、チキンナゲットあげようと解凍したついでに私たちも食べようって話になったじゃない。そしたらこの猫が暴れてケチャップ踏んでそのへんケチャップだらけになってさ〜」
「あ〜断片断片だけ覚えてる」
覚えてるけど・・・今言われても途切れ途切れにしか思い出せない。
「そのまま寝たんだっけ?」
私が悪友に聞くと、
「うん、多分。2人とも怒って追いかけてたのが最後は笑いながら猫追いかけてさ、その後疲れて倒れた気がするけど覚えてないわ」
「よかっっっったぁぁぁぁ。私、あんたが倒れてるの見て、マジで人殺したかと思ったわ。だってケチャップ一面にうつ伏せで倒れてるって完全に死体じゃん」
その言葉を聞いて悪友は笑い出す。
「あはは、何それ、あんた面白すぎっ、そんなわけないでしょ。さすがに仲悪いけど殺人って、あははっ、あー面白いっ」
悪友が笑い転げるので、私はむくれる。
「そんな笑わなくてもいいでしょ、朝起きて人生終わったって絶望したんだからっ」
「あはは、ごめんごめん、確かにあんたにとっては一大事だもんね、まったくさー、この猫ちゃん拾ってきたからえらい目にあったよねぇ」
悪友は傍できょとんと見てる猫を抱き上げて私に視線を移す。
「ホントだよもう、今日大学で飼える人いないか聞かないとね」
私はにゃーんと呑気に鳴く猫を恨めしげに見て言う。
わかってる。猫に罪はないわよ。
「その前に、シャワー行きだね、私もあんたも」
死体に気を取られて気づかなかったけど私も服のあちこちにケチャップのしみが出来ていた。
私は一つため息をつく。
「とりあえずあんたが生きてて本当に良かった」
朝から恐怖体験をしてしまった私は心から安堵したのだった。
題 宝物
「君は僕の宝物だよ、自慢の彼女だよ」
彼氏は私に何度もそんなこと言ってくれる。
「そんなことないもん」
私は彼の目を見ながら卑屈に言う。
「なんで?」
彼は柔らかく笑って私の髪をクシャッとなでた。
「僕が宝物って言ったら君は僕の宝物だよ」
「んんん・・・」
そんな笑顔で言われると私は言葉が何も出なくなってしまう。
でも、あなたは輝いてて、とてもステキで、私を大事にしてくれて、いつもいつも大好きだ。
そんなあなたに私は宝物なんて言われる価値なんてない。
私はね、私はもちろん宝物だって思ってるよ、あなたのこと。
だって、もったいないくらい素晴らしい人なんだから。
私があなたの本当の宝物になれるのは一体いつなんだろう。
そう思ってしまう。
今、あなたはとても優しくしてくれるけど、私の本当の姿を知ったら私のことなんてもう飽きちゃうんじゃないかって思う。
「ねえ、何かまたマイナスなこと考えてるでしょ?」
私のことなんてお見通しな彼が私を見てにこやかに言う。
「・・・考えちゃうよ。だって私にとってタケルは本当にパーフェクトな彼氏なんだからね」
「僕にとってもクルミはそうなんだけど」
「私、全然何も出来ないもん、タケルの役に立ててないし」
「僕が役に立つかどうかで彼女を選んでると思ってるの?」
心外そうな彼氏の顔。
「だって、じゃないとカンペキになれないし」
「違うって・・・」
歩きながら話してたら、いつの間にか公園のベンチの前にいた。
何となく2人で座ると、タケルが真剣な顔で私を見た。
「クルミは、そのままでいいの。欠点も長所もあるし、出来ないとこも出来る所もあるけど、そのすべて、ありのままが僕にはカンペキに見えるんだよ。だから、僕がカンペキって言ったら、クルミはありがとうって笑顔で言ってくれればいいんだ」
言い終わるとイタズラっぽい顔で私の顔を覗きこむ。
もう・・・
もう・・・・そんなこと言えちゃう所がもうカンペキなんだから。
私の視界がゆらゆら歪む。
嬉しい言葉に、涙が、ポタリと自然とたれていた。
「クックルミっ?!」
タケルが、焦ったようにポケットからハンカチを出して、私の目をそっと拭ってくれる。
「大丈夫?何か気に触った?」
こんな時まで優しすぎる彼氏に胸の高鳴りが激しくなる。
胸に愛情が満ちて仕方ない。
「やっぱり、私よりタケルの方がずっとずっとカンペキだよ。・・・でもね、そんなカンペキなあなたに言われた言葉、私は受け取りたいから、自分のこと否定しないようにするね。タケルが、好きでいてくれる自分を好きになりたいから」
そう半泣きで言うと、タケルの顔は本当に嬉しそうな笑顔になった。
「ありがとう、その言葉、とっても嬉しいよ」
ああ、もうっ。
私は思わずタケルに抱きつく。
ここが外とかどうでもよかった。
「ありがとう。大好き。私の彼氏でいてくれて私、世界一幸せだよ」
「僕のセリフ取らないで」
タケルがそんなこと言うものだから、顔を見合わせて笑ってしまう。
私の唯一無二の宝物。
目の前の世界一大事な宝物をずっと大切にしていきたいと思ったんだ。
題 キャンドル
灯りが灯るとなんだかそこは幻想的な世界。
いつもの場所なのにいつもの場所じゃない。
ちゃぷん
私はお風呂の湯に身体を沈めながら、お風呂の中のあちこちに置いたキャンドルを見つめる。
色々な色と香りがするキャンドル。
ガラスのキャンドル受けに入ってゆらゆらと炎を揺らす。
あらかじめ電気は消していたから、今感じられるのはほんわりとしたキャンドルの淡い光だけ。
その様子が優しく感じて、私は目が離せない。
お風呂の暖かさが心まで届いていくようで、瞳に映るキャンドルの煌めきがその暖かさを加速してくれるようで。
こんなに癒される事があるんだ、と思わず微笑んでしまう。
今日は少しだけお高めの入浴剤を入れたんだ。
キャンドルに合わせて、虹色にきらめく入浴剤。
今もオーロラのようにキラキラしててキレイなお湯にため息をつく。
(どうしてこんなに癒される事がこの世の中にあるんだろう。私は今、幸せ過ぎて癒し過ぎてこのお風呂ゾーンからぬけられないよ)
電気が消えて天井に水のユラユラが反射している。
そんな癒される光景を見ながら、私はただ、暖かさと優しさに身を委ねていた。
上がらなきゃ、明日はまた仕事なんだから、上がったらネット通販しなきゃ・・・。
そんな煩雑な考えが遠のいていく。
ま、いっか、あと少しだけ・・・。
こんな癒しから抜け出すなんて拷問だもん。
そう思いながら目をつぶった私の入浴タイムはまだまだ続くのであった。
題 たくさんの思い出
思い出が抱えきれない。
たくさんの思い出が私の頭をよぎる。
あなたと一緒に過ごした時間が長すぎて、何度も何度も反芻する。
あなたの笑顔、言葉、優しさ、癒し、存在感が、私を救ってくれた。
あなたの言葉、怒り、冷たさ、無関心、傍にいない時間が私を苦しめた。
同じあなたなのに何でこんなに変わってしまうの?
私が変わったの?あなたが変わったの?
それでもね、私とあなたが別れる今思うのはあなたとの時間だよ。
初めて告白した日、緊張で手の先が冷たすぎてあなたにびっくりされた。
初デートの日、あなたが私のこと車で迎えに来てくれたけど、お互い待ち合わせ場所勘違いしてなかなか会えなかった。
お花見行こうって一緒に出かけた日、夢みたいな時間だった。
夜桜が見られる時間まであなたと私は飽きずに横にいて桜を眺めた。
あなたは私のこと、桜より綺麗ってたくさん褒めてくれた。
それから・・・沢山楽しい時間を過ごしたね。
その延長線上で付き合って、結婚して、幸せを形にしたような大切な時を抱きしめていた。
なのに・・・あなたはいつのまにか変わって。
私に冷たくて、無関心で話も聞いてくれなくなった。
一緒に出かけたがらなくなった。
私のこと、冷酷な眼差しで見るようになった。
あなたのことが、わからなくて、分からなくて私は泣くことしかできなかった。
何を言っても言葉は弾かれてしまう。
あなたの冷たい鎧が全てをガードするから。
幸せな思い出も悲しい思い出も私の中にはぐちゃまぜで今混ざっているけど。
やっぱり幸せな思い出が優勢で、私はあなたのことが、大好きだったから・・・。
あなたのこれからの時間が幸せであるように願うよ。
あなたにもらった大切な気持ちや時はもう、何物にも変えられないんだよ。
だから、あなたの幸せを祈ってる。
そして、私は私の幸せも祈ってる。
いつまでもあなたと居たかったけど、それが叶わないのなら、私は私の幸せを探そうと思うから。
次の扉へ向かうの。
ここであなたとは離れてしまうけれど、いつか再会した時は笑顔で会話出来るといいな。
親愛なるあなたへの想いを込めて。
題 冬になったら
「冬になったら何したい?」
デート中彼氏に聞かれて私は考える。
「えーとね〜まず雪だるま作りたい、あとツララ触りたい、後は雪の結晶観察して形見たい、後はねぇ、夜に降りしきる雪を静かに見るのもいいな・・・んーとそれから・・・」
「ちょっ、ちょっとストップ!」
何故か要望通りやりたいことを挙げてみたら彼氏にストップをかけられる。
「え?何で?」
私が不思議そうな顔で彼氏を見ると、彼氏は困ったような顔で話す。
「デートで何したいってことなんだけど?ミウは沢山やりたいことあるんだね」
「あ、そうだったんだ・・・」
彼氏の苦笑いに、私はかぁぁと顔を赤くする。
確かに、いまのってデートでやることではないよねぇ?
でも、冬の季節や雪降ったら心が子供になってしまって、いろいろやりたいことあるし、霜柱踏んだりツララ見たりするのも好きなんだよね。
「やりたいこと、クリスマスの時期のデートなら、一緒にイルミネーション見に行きたい!」
気を取り直してそう言うと、彼氏は笑顔で頷く。
「うん、いいね、綺麗なとこ調べとくよ。ケーキも好きでしょ?近くのカフェ行って食べよう」
「うん、あとね、夜はイルミネーション見に行くなら、午前はプラネタリウムとか映画とかどう?クリスマス系の映画とかやってるかな〜」
「プラネタリウム、いいね、でも、ミウいつも寝てるじゃん」
とジトーっという彼氏の視線を避ける私。
「あはは、毎日疲れてるんだってば〜、じゃあさ、イルミネーションはキミトが調べてくれるから、映画は私が調べるね!いいのあったら教える」
「うん、よろしく、楽しみだよな〜!」
「うん、すっごく楽しみ〜!でね・・・」
私がもじもじしながら言葉を続けると、彼はん?という表情で私を覗き込む。
「もし雪が降ってたら雪だるま、一緒に作りたい・・・」
「オッケー!一緒に作ろう」
私の言葉を受けて、彼がとびきりの笑顔で承諾してくれる。
ああ、今から楽しみだ。
早くクリスマスが来ないかなぁ。
私の心の中はもうクリスマスのことで一杯だった。