題 宝物
「君は僕の宝物だよ、自慢の彼女だよ」
彼氏は私に何度もそんなこと言ってくれる。
「そんなことないもん」
私は彼の目を見ながら卑屈に言う。
「なんで?」
彼は柔らかく笑って私の髪をクシャッとなでた。
「僕が宝物って言ったら君は僕の宝物だよ」
「んんん・・・」
そんな笑顔で言われると私は言葉が何も出なくなってしまう。
でも、あなたは輝いてて、とてもステキで、私を大事にしてくれて、いつもいつも大好きだ。
そんなあなたに私は宝物なんて言われる価値なんてない。
私はね、私はもちろん宝物だって思ってるよ、あなたのこと。
だって、もったいないくらい素晴らしい人なんだから。
私があなたの本当の宝物になれるのは一体いつなんだろう。
そう思ってしまう。
今、あなたはとても優しくしてくれるけど、私の本当の姿を知ったら私のことなんてもう飽きちゃうんじゃないかって思う。
「ねえ、何かまたマイナスなこと考えてるでしょ?」
私のことなんてお見通しな彼が私を見てにこやかに言う。
「・・・考えちゃうよ。だって私にとってタケルは本当にパーフェクトな彼氏なんだからね」
「僕にとってもクルミはそうなんだけど」
「私、全然何も出来ないもん、タケルの役に立ててないし」
「僕が役に立つかどうかで彼女を選んでると思ってるの?」
心外そうな彼氏の顔。
「だって、じゃないとカンペキになれないし」
「違うって・・・」
歩きながら話してたら、いつの間にか公園のベンチの前にいた。
何となく2人で座ると、タケルが真剣な顔で私を見た。
「クルミは、そのままでいいの。欠点も長所もあるし、出来ないとこも出来る所もあるけど、そのすべて、ありのままが僕にはカンペキに見えるんだよ。だから、僕がカンペキって言ったら、クルミはありがとうって笑顔で言ってくれればいいんだ」
言い終わるとイタズラっぽい顔で私の顔を覗きこむ。
もう・・・
もう・・・・そんなこと言えちゃう所がもうカンペキなんだから。
私の視界がゆらゆら歪む。
嬉しい言葉に、涙が、ポタリと自然とたれていた。
「クックルミっ?!」
タケルが、焦ったようにポケットからハンカチを出して、私の目をそっと拭ってくれる。
「大丈夫?何か気に触った?」
こんな時まで優しすぎる彼氏に胸の高鳴りが激しくなる。
胸に愛情が満ちて仕方ない。
「やっぱり、私よりタケルの方がずっとずっとカンペキだよ。・・・でもね、そんなカンペキなあなたに言われた言葉、私は受け取りたいから、自分のこと否定しないようにするね。タケルが、好きでいてくれる自分を好きになりたいから」
そう半泣きで言うと、タケルの顔は本当に嬉しそうな笑顔になった。
「ありがとう、その言葉、とっても嬉しいよ」
ああ、もうっ。
私は思わずタケルに抱きつく。
ここが外とかどうでもよかった。
「ありがとう。大好き。私の彼氏でいてくれて私、世界一幸せだよ」
「僕のセリフ取らないで」
タケルがそんなこと言うものだから、顔を見合わせて笑ってしまう。
私の唯一無二の宝物。
目の前の世界一大事な宝物をずっと大切にしていきたいと思ったんだ。
11/20/2024, 11:25:14 AM