題 はなればなれ
もう離れたくないよ・・・。
いつも思う。
何度も思う。でも無理で・・・。
離れなきゃいけなくて。
遠距離に住むあなたとは少ししか会えないから。
いつも話してるけど、毎日電話してるけどメールしてるけど、こうして会える時間は僅かすぎて、全然足りない。
こんなに早く時間って過ぎるんだっけって位に一瞬で別れの時が、やってきてしまう。
いくら会ってても足りないよ。
ずっと一緒にいたいけど、今はまだ無理だから・・・お互い仕事があるから動けないんだけど。
でも、離れれば離れた瞬間に会いたくなるのがもう不条理すら感じる。
こんなにすぐ会いたくなるなら会うことに意味があるのかな。
会うのは一瞬でその後別れると辛くて辛くてまた会いたくて声じゃ足りないのなら、会う意味って辛いだけじゃないのかな。
・・・破滅的思考だ。
分かってるよ、分かってるつもり。
でも、足りないんだよね、あなたが。
圧倒的に足りなさすぎてそんな思考になってしまうんだよね。
いっそ離れたら、考えなくていいのかなって。
現実のあなたと触れて話していたいって思う自分の気持ちが溢れすぎてしまう。
溢れて溢れて飲み込まれてしまったら私はどうなってしまうんだろう。
たまに自分が怖くなる。
あなたはどう思っているのかな?
あなたには話せていない。
そんなこと重いだろうし負担だろうし。
私達の終着点ってどこだろうね?
いつまで続くんだろうね?
私があなたよりあなたのこときっと好きで、こんなに思っていること、あなたは分かってないだろうな。
でもね、もう会いたいから、「今日はありがとう。もう寂しいな、またすぐ会おうね、愛してる」ってメールする。
う〜ん、この文面じゃ相手には伝わっているかも。
願わくば相手も同じくらい私のこと大好きでいてくれますように。
題 子猫
「子猫ちゃん、どこいくの?」
そんな言葉をかけられた日曜の午後、渋谷。
私は最大限の冷たさを持って相手を一瞥する。
そしてそのまま歩いて去ろうとした。
「あ、待ってよ、ねえ」
相手の男性は慌てた声を出すと、私の目の前まで走ってくる。
「・・・何か?」
「何かじゃないよ、何で無視するの?」
「だってくだらないこと言ってたから、何?子猫ちゃんって」
私がため息をつきながらそういうと、相手・・・私の彼氏は目をウルウルさせて反論してきた。
「だって、ほら、僕にカッコ良さがないって前きみちゃん言ってたでしょ?だから、カッコイイ男性が主人公の小説読んだんだよ、そしたら、子猫ちゃんって言ってたから」
「いや、普通に、日常で使ってる人いるかどうか位わかるでしょ!」
私は彼氏のトンデモ理論に即座に強い口調で返答した。
いないでしょ、子猫ちゃんって・・・しかも、私の彼氏だ・・・。
絶望しかない。
「ええっ、そんなの、他のカップルの会話聞き耳立ててるわけじゃないから分からないよ〜!でも、僕頑張って本読んだんだよ、褒めてよ?」
「もー、聞かなくても分かるでしょっ」
とか言いながら、弟系の可愛い顔にふわふわっとした髪の毛でこちらを見つめてくる彼氏の顔に負けてしまう。
あぁ、そうよ、私はいつもこの顔に負けちゃうのよ。
もう、何でそんな可愛い顔なのよ!?
「・・はいはい、偉いよ、ちゃんと私の言う事聞いて調べてくれてありがとう、でも、今度それしたい時は私に参考書籍聞いてくれるかな?」
彼氏の、ふわふわの髪の毛を撫でながら私はちゃんと次回の改善点を忘れずに伝える。
「うんっ、分かった。ありがと、いつも優しいきみちゃん」
とっても嬉しそうに彼氏が私に笑いかけるものだから、私も釣られて口角が上がってしまう。
なんだかんだ言っても、私は彼氏に、メロメロなのだ。
題 秋風
「寒いっ」
ベンチで座って公園デートをしていた私たち。
秋風が一筋ピュ〜っと私たちの間を通り抜けた。
「大丈夫?どこか入ろうか?」
横にいた彼氏がすぐに上着を脱いでかけてくれる。
もう、相変わらず優しいんだから。
私は笑顔で彼氏に頷く。
「うん、どこかカフェに行きたいな♪」
「いいよ、行こうっ」
彼氏は微笑むと、私の手を取って歩きだす。
ゆっくりいつも歩いてくれる。
慈しむように楽しそうに私の顔を見る。
・・・そんなに私の顔見たって楽しいことなんてないだろうに。
でもね、私も彼氏の顔をみていると嬉しくなっちゃう。
ウキウキして、思わず腕に思い切り飛びつく。
「えっ?何?」
彼氏が照れながら私を少し驚いたように見る。
何だかウキウキして仕方ないから飛びついちゃったんだけど・・・素直に認めるのは恥ずかしいな・・・。
そう思った私は、
「えっと、寒くて!・・・うん、やっぱ秋は、寒いよね」
「そうだね、寒かったらもっとくっついていいよ?」
とことん優しい彼氏。
「ありがとっ」
嬉しくてぎゅううっと腕を抱きしめて彼氏に満面の笑みを向ける。
「あ、それ無理・・・」
「え〜?!無理って何よ?」
私が彼氏がそっぽ向いたのを見て抗議の声を上げると・・・。
「違うって、可愛すぎて直視できないの・・・」
「あ・・・」
直球な彼氏の言葉に、私の方が今度は照れてしまう。
「・・・そういうこと言われると照れるんだけど・・・」
「うん、分かってる。僕も照れてる・・・」
なんて言って歩みを止めてしまった私たち。
お互いに視線はあさっての方向で照れあってるけど・・・。
さっきの秋風の寒さはどこへやら。
ひんやりした凍えるような寒さは消えていっていつのまにか全身はポカポカ暖まっていたんだ。
題 また会いましょう
また会いましょうね
その約束は果たされていない。
私は会いたいのに、いつか会えるんだろうか、あなたに。
あれはいつのコンサートだったかな?
好きなアーティストのコンサートに行ったとき、たまたまその時一人で・・・横にいた同じく一人の子と少し話して気が合って、そのまま一緒にアーティストを応援したんだ。
最後まで一緒に。
とても目が大きくて、印象的な顔をしていて、笑い声が可愛くて、とっても楽しかった!
その後、一緒にカフェに行ってお茶したんだ。
話は尽きなくて、あっという間に終電間際で、2人ともびっくりして走って駅まで行ったんだ。
慌てて電車に飛び乗ったから、その時にどちらともなく呼びかけた言葉・・・。
また会おうね
また会いましょうね
あれから・・・。あのアーティストのコンサート何回も行ってるけど、あの子には会えない。
そりゃあ何百人も来ているから、そんなに簡単に会えるわけないんだけど。
印象的な子で話も合ったから、また会えたらいいなぁ、とか思っちゃうんだよね・・・。
気持ちだけじゃ会えないんだよね。つくづく連絡先聞いておけば良かったなって思う・・・。
「ミヤコっ」
友達に呼びかけられる。
「あ、サナ」
友達がひらひらチケットを持って立ってた。
「行こうよ」
そう、今日はまた例のアーティストのコンサート。
今日こそ会えないかなぁ?
なんて、今までダメだったんだもん。無理だよね。
そう思いながら席を探して歩いていると、不意に腕を掴まれた。
「?!」
「見つけたっ」
振り返った先には、私が探し求めてた目が大きくて笑顔が可愛いあの子が笑ってた。
「あ・・・」
私があまりに急で固まっていると、あの子は、私の手をとって、ブンブンと上下に揺らした。
「会いたかった!探してたんだけど、1回もあれから会えなかったね」
「うんっ、私も、探してたっ」
私も相手の言葉に言葉を重ねる。
そして、次の瞬間にはスマホをズイッと差し出した。
「ねぇ、今日は終電逃さないうちに連絡先交換してくれない?」
「あははっ、もちろん」
その子はニッコリ笑って携帯を取り出してくれる。
そして、私たちは、無事に連絡先を交換した。
「会えてよかったね」
ニコッと笑うあの子に、私は笑顔で返す。
「もう会えないかなって諦めてたけどね」
ありがとう、神様、もう一度あの子に会えて嬉しい。
繋がらない縁も繋がる縁もあるけど、こうして私とあの子は繋がれたから。
この縁を大事にしていきたいって思ったんだ。
題 スリル
スリルを求める私は、今日も彼氏と家でホラー映画を見てる。
ゾンビが今主人公の家に侵入しようと、ドアをガンガン斧で割っている。
「ユナ〜入ってくるよっ!!」
「あ、うん、楽しいね〜」
「楽しいわけあるかっ!!怖いって、いつもながら」
彼氏は半泣きで私の袖にしがみついてくる。
ゆらゆら揺らされて画面が二重に見える私はしかめっ面で彼氏の手をほどいた。
「邪魔だって、今良いところなんだから」
「良いところじゃない、ヤバい所だからっ、そもそもユナが半強制的に見せたんだから僕の恐怖を緩和させる義務もあるでしょ」
「何言ってるの」
半泣きで私にしがみつく彼氏を呆れた目で見る私。
なんでゾンビが家壊して襲って来るくらいで怖いの?私はもっとグログロなの観たいけどダメっていわれちゃうから、これで我慢してるんだけど・・・。
このレベルでこんなにパニックならもっと激しいのにステップアップしたいっていう私の野望は潰えたかな・・・。
私は隣で涙を浮かべる彼氏を見てため息をついた。
そうこうしているうちに、ゾンビが入って来て、主人公達に襲いかかってくる。
「ぎゃあああああ」
「!!」
いきなり隣で叫び声が上がって、私はソファから飛び上がる。
「怖い怖い怖い・・・」
彼氏が必死の形相で私に哀願の眼差しを向ける。
「いや、コウタの方がよっぽど怖かったから・・・」
さっきの叫び声でまだ心臓がどくどく言っている私は胸を抑えながら言うと、テレビの電源を切った。
「あ・・・」
ホッとしたようにため息をつくコウタ。
「もう、分かったよ、コウタとホラー映画は無理だね、コウタの叫び声の方がよっぽど心臓に悪いもん」
「最初からそう言ってるだろ〜?まったくアユミはさ〜人の言う事聞かないよね、そういうとこあるよ」
テレビの電源がオフになると、コウタの態度はいきなり大きくなる。
「あ、そういう事言うならまためくるめくホラーの世界へいざないましょうか?」
「あ、嘘です、ごめんなさい」
私がテレビの電源に手をかけるのを見ると、コウタは途端に謝ってきた。
「うんうん、そうだよね?仕方ない、じゃあやることなくなったし、ランチでも食べに行こうか?」
ホラー映画見れなくなったら、もうすぐお昼どきだし、何かお腹空いてきた。
「おー。行こーぜ、ほら、こないだ美味しいイタリアンあるって言ったろ?そこにしよう」
「いいねっ、鞄持ってくるから玄関先行ってて」
すっかり元気になって、先ほどと態度が全然違うコウタにクスッと笑うと、私は鞄を取りに急いだのだった。