題 スリル
スリルを求める私は、今日も彼氏と家でホラー映画を見てる。
ゾンビが今主人公の家に侵入しようと、ドアをガンガン斧で割っている。
「ユナ〜入ってくるよっ!!」
「あ、うん、楽しいね〜」
「楽しいわけあるかっ!!怖いって、いつもながら」
彼氏は半泣きで私の袖にしがみついてくる。
ゆらゆら揺らされて画面が二重に見える私はしかめっ面で彼氏の手をほどいた。
「邪魔だって、今良いところなんだから」
「良いところじゃない、ヤバい所だからっ、そもそもユナが半強制的に見せたんだから僕の恐怖を緩和させる義務もあるでしょ」
「何言ってるの」
半泣きで私にしがみつく彼氏を呆れた目で見る私。
なんでゾンビが家壊して襲って来るくらいで怖いの?私はもっとグログロなの観たいけどダメっていわれちゃうから、これで我慢してるんだけど・・・。
このレベルでこんなにパニックならもっと激しいのにステップアップしたいっていう私の野望は潰えたかな・・・。
私は隣で涙を浮かべる彼氏を見てため息をついた。
そうこうしているうちに、ゾンビが入って来て、主人公達に襲いかかってくる。
「ぎゃあああああ」
「!!」
いきなり隣で叫び声が上がって、私はソファから飛び上がる。
「怖い怖い怖い・・・」
彼氏が必死の形相で私に哀願の眼差しを向ける。
「いや、コウタの方がよっぽど怖かったから・・・」
さっきの叫び声でまだ心臓がどくどく言っている私は胸を抑えながら言うと、テレビの電源を切った。
「あ・・・」
ホッとしたようにため息をつくコウタ。
「もう、分かったよ、コウタとホラー映画は無理だね、コウタの叫び声の方がよっぽど心臓に悪いもん」
「最初からそう言ってるだろ〜?まったくアユミはさ〜人の言う事聞かないよね、そういうとこあるよ」
テレビの電源がオフになると、コウタの態度はいきなり大きくなる。
「あ、そういう事言うならまためくるめくホラーの世界へいざないましょうか?」
「あ、嘘です、ごめんなさい」
私がテレビの電源に手をかけるのを見ると、コウタは途端に謝ってきた。
「うんうん、そうだよね?仕方ない、じゃあやることなくなったし、ランチでも食べに行こうか?」
ホラー映画見れなくなったら、もうすぐお昼どきだし、何かお腹空いてきた。
「おー。行こーぜ、ほら、こないだ美味しいイタリアンあるって言ったろ?そこにしよう」
「いいねっ、鞄持ってくるから玄関先行ってて」
すっかり元気になって、先ほどと態度が全然違うコウタにクスッと笑うと、私は鞄を取りに急いだのだった。
11/12/2024, 1:49:58 PM