題 愛を叫ぶ
私は隣の席の高田くんがすき。
すごく好き。
でも、好きだけどその気持ちをつたえられない。
だって恥ずかしいもん。
でも気持ちは溢れて溢れて仕方ない。
だから、どうしていいか分からないでいた時、王様の耳はロバの耳っていう本を読んだの。
王様の耳がロバって知ってしまった男が喋りたい衝動を井戸に叫ぶことで発散したって。
それで私は、帰宅途中に見つけた木にポッカリと空いた穴に向かって口をつけて叫ぶことにしたんだ。
「高田くん〜好き〜!」
何回か叫んだら気持ちが落ち着いたんだ。
それで気が済んで何日か過ごす。
でも、また少しすると好きな気持ちが溢れてくる。
そしたら、そうして木の穴に向かって叫ぶっていうことで気持ちをコントロールしていた。
そんなある日。
私がいつものように、「高田くん〜!好きだよ〜!」
と叫ぶと、コホンって咳払いが聞こえた。
「えっ?!」
私は急いで辺りを見回す。誰もいない・・・。木の反対側に回り込んでみると、そこには高田くんが木の下に座って本を読んでいた。
反対側は完全に死角だった・・・。
逆側から木のところまで来てたから分からなかった・・・。
「た、高田くん?!聞いてた??」
「・・・うん、なんなら、ここ大体来てるから・・・」
なんてこと!
全部高田くんに聞かれてたとは・・・!
「あの・・・忘れてもらうことは・・・」
「忘れられると、思う?」
「あ、ですよね・・・」
2人の間に気まずい沈黙が流れる・・・。
何で家で叫ぶことしなかったんだろうって後悔の気持ちが流れ込んでくる。
よりによって本人にバレちゃうなんて・・・まだ違う人なら口止めも出来るのに・・・。
「僕、何でずっとここに来てたか知ってる?」
「え・・・」
そういえば、何でだろう?私の声が聞こえてたなら気まずいよね、普通・・・。
「君に気づいてほしかったし、君の告白、毎日聞けるから」
そういう彼の顔は赤くなっている。
「はっ、えっ・・・」
私が動揺して言葉にならない言葉を発すると、彼は私をしっかりを見た。
「君のこと、好きなんだ。僕も。付き合ってほしい」
・・・夢見たい。
夢かも、とほっぺをつねると彼に笑われた。
「もちろん、よろしくねっ!」
私は当然そう返事をする。
王様の耳はロバの耳の話は、結局井戸は国中に繋がっていて、みんなに秘密がばれちゃったんだっけ?
私は・・・バレて良かったな。
そうじゃなければこの気持ちをずっと持て余していたと思うから。
私は愛しい彼の顔を見てにっこり笑顔で笑いかけた。
幸せの絶頂だ。結果オーライだよね!
題 モンシロチョウ
ヒラヒラ
私は寝転がりながら上を通り過ぎるモンシロチョウを見ていた。
春のある日。
学校の中庭の柔らかい芝生のある小山になっているところに横たわっていた。
側には桜の大きな木。
もう既に葉は散って、葉桜になっている。
5月の夏にはまだ早い、柔らかい日差し。
5月の風が爽やかで気持ちいい・・・。
私は目を静かに閉じた。
「こらっー!何やってるの。サボってたらだめでしょう?!」
そこへ響く怒鳴り声。
私は顔をしかめて片目を開く。
横には腕組みをした委員長が立っていた。
生真面目なんだよね。
三つ編みして、分厚い眼鏡かけて、本当に真面目を絵に描いたような委員長。
「委員長もサボりじゃん」
私が言うと、委員長はムキになったように反論する。
「違います!先生が窓からサボってるあなたを見つけたから、私はあなたを連れ戻すように言われたのよ!」
「あーここから、見えちゃうんだ、失敗失敗」
私がそう言って、教室の窓を見上げると、委員長はさらに声を荒げた。
「ちょっと!何言ってるのよ、一緒に戻るわよ」
「委員長、少しは肩の力抜いたら?そんな真面目に生きてて疲れない?ほら、そこ飛んでるモンシロチョウみたいにさ」
ひらひらとモンシロチョウは、白い羽を動かして、自由に花の間を行き交っている。
「あなたみたいにサボってばかりいたら、ろくでもない人間になるでしょう?!」
委員長は、顔を赤くして抗議している。
「はいはい、うるさいな。分かったよ、戻ればいいんでしょ」
私はうるさく喚く委員長に辟易して、起き上がると、制服についた芝をポンポンとはたいた。
「教室に行けばいいんでしょ」
「もうさぼっちゃだめよ!」
そう強い口調でいう委員長に、私は首をすくめて答えた。
「それは保証出来ないかな。私は自由でいたいから。カゴに入れられたモンシロチョウみたいなのは真っ平ごめんだから」
「あなたって人は・・・!?」
ワナワナと震える委員長の横を通り過ぎて、私は靴箱へと歩き出した。
気づくと道の脇の芝生に咲いた花の所で、何匹かのモンシロチョウが花の蜜を求めて飛んでいるのが目に入る。
「自由っていいよね」
私はその姿を見て、ポツリと言葉をこぼした。
「早く行くわよっ」
後ろから委員長がせっついてくる。
「囚われてるのは窮屈じゃない?」
私が振り返ると、委員長は怪訝な顔をして問い返してくる。
「何言ってるの?」
「・・・ううん、わからないならいいよ」
再び私は前を見ると、ひらひらと舞うモンシロチョウの横を通り過ぎて囚われの教室へと歩き出した。
題 忘れられないいつまでも
私はいつもどうしていいか分からなくて途方にくれる。
いつまでもいつまでも忘れられないから。
もう成人してしばらくたつのに・・・。
中学の時に付き合っていた彼が忘れられない。
ふとした時に顔が浮かんでくる。
その度に首を振って記憶から消そうとする。
だって、もう何年前のことなんだろう?
今考えてどうするの?
付き合えるわけじゃない。
考えてどうにかなる訳じゃない。
だったら、何も考えないほうが楽だから。
考えれば切なくなって、どうしようもなくなってしまう。
私はどうしたらいいんだろう・・・。
そんなふうに八方塞がりの日々を送ってたある日。
同窓会のお知らせが届いた。
元彼が来るかもしれない・・・。
そう思って、私は会に参加することにした。
当日、みんなで集まって居酒屋で乾杯してると、元彼が遅れてやってきた。
そのまま、入口近くにいた私の横の空席に座る。
「久しぶり!」
「う、うん・・・」
私を見て、声をかけてくる元彼。
記憶の中の彼よりかっこよくなっていた。
私はどうしていいかわからなくてドギマギするばかりだ。
「元気だった?」
と彼。人懐っこい笑顔。
思い出した。わりと人見知りな私は、後ろの席だった元彼とよく話してた。というか、彼が話しかけてくれてた。
だから、私は彼が好きになって、彼から付き合う?って言ってくれて付き合ったんだ。
別れた理由は、違うクラスになって、声かけるのためらってしまって・・・自然消滅。
元彼と話してると、楽しい気持ちが蘇ってくる。
沢山話したいっていう気持ちになる。
「変わらないんだな」
元彼は私の事を頬杖をついてじっと見た。
「え?何が?」
じっと見られてドキッとする。
「優子が。顔変わんないし、笑顔が可愛いとこも変わってない」
「えっ!」
私は元カレを見る。
「・・・酔ってる?」
「酔ってないよ!なのにさ、優子、違うクラスになってから避けだしたじゃん?結構ショックだったんだぞ」
「えっ、避けたんじゃないよっ、違うクラスだから、声かけづらかっただけだよ!」
私は慌てて弁解する。
「え?そうなの?それで振られたと思ってたよ、俺・・・」
元彼のその言葉に、私は激しく首を降る
「そんなことないっ!というか声かけてくれたら良かったじゃない」
私が逆に元彼に言うと、元彼はふいと視線を反らした。
「・・・だって嫌われてたらと思ったら声かけるの怖かったんだよ・・・」
「そ・・・なの」
沈黙
え?じゃあ、お互い好きだったってこと?
自然消滅じゃ・・・。
でも今はさすがに彼女いるよね?
でも・・・今しか・・・。
「あのさっ!」
「あのっ!」
私と、元彼は同時に話し出す。
そして、あ、という顔でお互いに顔を見合わせた。
「何?優子」
「そっちこそ・・・」
私が言い出しづらくてそう言うと、元彼は、強張った顔で言う。
「じゃあ・・・今度どっか遊びに行かない?・・・彼氏とかいる?」
「いない!いいよ!!」
私は元彼の言葉に即座に頷いた。
「良かった・・・」
元彼のホッとして笑顔を見て、私も思わず笑顔になる。
ずっと忘れてなくて良かった。
今日、ここにこれて良かった。
体中が幸福感で満たされている。
私は、元彼・・・ではなく彼氏と笑顔で、遊びに行く場所の相談を始めたのだった。
題 初恋の日
昔大好きだった人がいた。
小学校の頃大好きだった。
優しくて、かっこよくて、私に親切で。
だから私も彼が大好きだった。
低学年のときはいつも遊んでたけど、彼は途中で引っ越してしまっていた。
そんな彼が今眼の前にいる。
私が通う塾に入塾してきたんだ。
凄く偶然で、最初私は驚いて何も言えなかった。
だって・・・
だって・・・。
「男の子・・・じゃなかったの?」
彼が着ていたのはセーラー服。
紛れもないスカート。
てことは性別は女の子だよね・・・?
「あ〜久美ちゃん!久しぶり、ボク、女の子だよ、ごめん、誤解してたかな?」
一人称は、昔と一緒でボクだ・・・。
「ボク、男の子と遊ぶの好きでさ、言葉遣いも男みたいなんだけど、本当は女なんだよね。制服もほんとはズボンがいいんだけどね」
そう言って苦笑いする彼女を、私は目を丸くして見つめていた。
複雑な気持ち。
あんなに好きな人だった、初恋だったけど・・・。
男の子だったか・・・。
少し残念。
でもまた優しい彼・・・じゃない彼女と再会できて嬉しい。
本当に優しかったから。
それは性別を超えて、人間的に仲良くしたいと思わせるものだった。
「ううん、会えて嬉しいよ」
私は首を振って彼女に笑いかけた。
「これからよろしくね!また仲良くしてほしいな」
私の言葉に、彼女はニコッと笑った。
その笑顔に昔の面影を認める。
初恋のころ好きだった笑顔・・・。
「もちろん!」
私はチクッと痛む胸のかすかな痛みを感じながら彼女に笑顔で笑いかけた。
題 明日世界が終わるなら
「もう勉強しなくていいわよ」
ママの声に、机で参考書をにらめっこしていた私は驚愕の顔でふりかえる。
どうやら地球はもうすぐ消滅するらしい。
聞く所によると、巨大隕石が衝突するんだって。
私は何も出来ずに立ち尽くした。
どうして?どうして?
なんで今・・・。
リビングへとふらふらと向かうと、テレビを見ながら、両親が肩を抱き合っていた。
私のことはまるで目に入っていないようだ。
こんな時ながら、パパとママはお互いが好きだったんだな、と思う。
しばらくテレビでやっている緊迫した声を聞いていると、パパが私に気づいて手招きした。
「リンカ、おいで、ここで一緒に家族でいよう。もう地球が・・・一日もないらしいからな」
私はその言葉を聞いて思う。
もう一日ないの?
どうして?なんでよ?
なんでこんなことに・・・あんなに受験勉強したのに・・・
そこまで考えて自分で笑ってしまう。
私には受験勉強しかなかったんだなって。
会いたい友人も、夢中になれる趣味もなかった。
こんな時に何も残っていない。
私はパパの差し出した手を避けて家を飛び出した。
狂気
家の外では泣いている人、怒鳴っている人、ケンカしている人、抱き合っている人、様々な人がいて、沢山の声が鳴り響いていた。
うるさいくらいの喧騒。
包丁を振り回してる人もいる。
お金を奪っている人も・・・。
お金を奪っても使い道もうないのに・・・
そう思いながら通り過ぎる。
そうして私は何となく幼い頃に遊んでいた公園に足を向けていた。
タコの遊具の中に座る場所がある。
幼い頃、良く座ってたな・・・
そう思ってくぐると、一人先客で男の子がいた。
びっくりした顔で私を見る。
「リンカ・・・ちゃん?」
「え?」
そう言われ、良く顔を見ると、何となく見覚えがあった。
「あ、トオル・・・くん?」
小さいころ、小学校低学年の頃、公園のこの遊具でよく遊んだ子だ。
「うん」
トオルくんは懐かしい笑顔で頷いた。
トオルくんは、優しくて、小学校の頃遊ぶのが大好きだった。
学校でも内気で友達が出来なかった私の唯一の友達。
受験勉強で忙しくなるまで私の心の支えだったんだ。
「久しぶり!」
私は嬉しくなって隣に坐って話す。
沢山話した。トオルくんは、お母さんが再婚して、あまり今家庭環境が良くないみたい。
最後の時に家にいたくないって言ってた。
わたしは・・・いたくないわけじゃないけど・・・
「それなら、トオルくんといてもいい?」
「うん、一緒にいようよ」
2人で手を繋いで顔を見合わせた。
優しい人。
私が救われた分、最後の瞬間は少しでも私が助けになりたいと思った。
話していた言葉が次第に無言になる。
でもどうして?
こんなにココロが満たされている。
終末の恐怖が消滅したんだ。
良かった、私にもあった、大切なもの。
忘れていただけだった。
そう思うと、私はトオルくんの顔を見上げて笑いかけた。