題 君と出会って
君と出会って何年だろう
長かったような短かったような
いつも笑顔の君は僕に今日も笑いかける
「ねえ、今日は何して遊ぼっか?」
幼い頃から何度も何度も見てきた笑顔。
僕は君と出会って何もかもが変わった。
今までの価値観も、人に対する見方も。
それは君が教えてくれたから。
君が僕のそばにいてくれたから
僕は理解できたんだ。
そういう意味では僕は君にとても感謝している。
僕は君に笑い返す。
「分かった」
そうして君は僕を池に突き落とす。
道路に不意に突き飛ばす。
虫をカバンに入れる。
僕は君に出会って分かってしまった。
君は人を愛せない。
そんな人もいるんだと。
諭しても懇願しても泣いても怒っても君の気持ちも瞳も揺るがない。
そして抵抗すればするほどよりひどいことになると僕は知ってしまったから。
だから、作り笑顔で、分かったと魔法の言葉を放つ。
君が唯一本当に嬉しそうな笑顔を見せる言葉。
僕は君と出会ってしまった。
もし過去に戻れるなら、戻って出会うなと伝えたい。
君に出会う前に戻れるなら・・・。
そんなことは考えるだけ無駄なんだ。
僕はいつかこの街を一人で出ていくだろう。
その時君はどうするの?
僕がとっくに一人で行動できることを知ってる?
僕がいなくなった後の君の姿を見ることが出来なくて残念だ。
僕は嫌な笑いを浮かべている自分に気づいて頭を振った。
君は不審そうに見ている。
僕にももしかして君の毒が回っているのかもしれない。
強い悪色の毒が・・・。
だから早く、早く君と離れなければ・・・。
残された時間は少ない・・・。
題 優しくしないで
「だからほっといてよ!」
私は眼の前で途方に暮れたように手を差し伸べるウミにそういいはなった。
「どうして?だって危ないよ、歩道側においでよ、僕が車道側に寄るから。荷物も重いでしょ?持つよ」
・・・このたらしめ。
キッとウミの顔を睨むはずが、可愛らしい笑顔に、その勢いは急速に緩む。
「ね?ほら、ちょうだい」
そう言うと、ウミは私の手にしてる手提げバックを持って行く。
今は買い物の帰り道。近所に住んでいる幼馴染のウミに出会ったところだ。
正直、私はウミが苦手。
だって優しい。優しすぎる。
私だけなら・・・いいのにさ。
「あっ、ウミく〜ん!」
そこへカズハがやってきた。
「カズハちゃんだ!」
ウミは私に向けた笑顔と同じ笑顔をカズハに向けた。
「あ、カナエもいるんだ、どうしたの?ウミくん、何してたの?」
カズハは、作り声で可愛くウミに話しかける。
私には・・・出来ないな。
「カナエちゃんが買い物帰りだったからこれから一緒に帰るんだ。カズハちゃんは、これから習い事だっけ?今日はピアノだよね、頑張ってね。また上達したら聞かせてよ」
「ウミくんって、本当に細かいことまで覚えていてくれるよね♪そういうところ大好きっ!頑張ってくるね〜!」
カズハに笑顔で手を振り続けるウミを冷たい目で見る私。
「何?」
私の視線に気づいたウミが尋ねる。
「ううん、知らないまま罪って大きくなっていくんだなって思ってるだけ」
「え?」
当惑したようなウミの表情に意地悪な気持ちになってしまう。
「カズハ、ウミのこと好きなんじゃないかな?ウミ、あんなにカズハに優しいんだし、付き合ってあげれば?ウミもまんざらじゃないんでしょ?」
「えっ、いきなり何言い出すの?!」
ウミは、びっくりしたように大声を上げる。
「・・・ていうかさ、カナエちゃんは嫌じゃない?僕が誰かと付き合ったら」
その次にそう聞かれて、私が今度は当惑する。
「何でそこで私が出てくるの?」
「だってさ・・・」
ウミは一歩私に近づいてくる。
そして私の手を取ると、ウミの顔の前まで持ち上げた。
「僕が他の人のものになっちゃうんだよ?」
ウミの顔が間近にあって、当惑とドキドキが大きくなっていく。
「僕は・・・嫌かな。カナエちゃんが他の人のものになるのは」
私の手を握りながら伏し目がちに言うウミの言葉に心臓が爆発しそうだ。
「だっだって、ウミ、みんなに優しいじゃない!なのに何で私にそんな事言うの?」
私がわめき声に近い言葉を放つと、落ち着いた表情でウミは微笑む。
「・・・気づかなかった?僕はカナエちゃんにいつでも一番優しいよ。もし彼女になってくれたらもっともっと優しくするよ、約束する」
私の心臓が破裂しなかったのは奇跡かもしれない。
何も言えないでいる私をクスッと笑って見ると、ウミは手を離してくれた。
「考えておいてね?カナエちゃん」
そう言って歩き出したウミの後ろ姿を、私は溢れ出す様々な気持ちを怒涛のように感じながらただ呆然と見ていた。
一番優しくされてたの?
色んな気持ちが混在する中で、その言葉が何よりも嬉しかった。
題 楽園
私は信じていたんだ。
ここよりいい場所はないって。
何一つ不自由なく手に入る自分の家
学校では勉強もできて、友達も沢山いる。
だからここ以外の場所を望んだことがなくて
望んだことがないからこそ
楽園というワードを聞くと
考えてしまう。
ここじゃない何処かに
私の楽園があるのかもしれないって
そんな馬鹿げた思考に支配されてしまう。
私が当たり前だと思っていた全ては偽りで
価値がまるでなくて、いらないもので。
私はなにもしないでただ一人でいられる、快適な空間を手に入れることで楽園を認識するのかもしれない。
楽園という響きに希望を感じる。
自分にとっての答えであり、完結した場所なんだろう。
そこに行けばめでたしめでたしで、お話が終わるような
物語の最後のページ。
到達したい
今満足してるくせにそう感じる。
考えてしまったからにはこの欲望はずっと頭に残り続けるんだろう。
高望みともいえるし、存在すらしていない場所かもしれない。
そんな不確かな霞のような場所を望み続けてしまうのかな。
私の楽園
どこにあるんだろう
いつか・・・いつかでいい
死ぬ瞬間までには到達してみたい
題 風に乗って
フワリ
風に流されてどんどん浮かんでいく
地面がだんだん小さくなって僕の身体はいともたやすく上へ上へと飛ばされる
爽やかな風が全身を覆って
雲の彼方へと吹き付ける
その勢いに逆らわず僕は眼下を見下ろしながらくるくると回転する地上を見ていた
どこもかしこもステキに見える
僕の瞳にはキラキラと光る町が
草が、花が、雨の水滴が淡い輝きを放って
歓迎の色を浮かべているように見える
どこへいこうか
どこへでもいけそうだ
どこへ降りようか
どこへ降りてもきっと僕の人生は約束される
僕は風の勢いとともに
速度を落としていく
ゆっくり、ゆっくり、静かに落ちていく
フワフワした体が
降下を続けて・・・
ある場所に着地した
そこは花と草が生い茂る光こぼれる楽園のような場所
その場所に降り立つだけで幸福感が溢れる
やっぱりそうだ
やっぱり僕の人生は約束された
この花の楽園で
僕は幸せに生きていけるんだ
ある公園の片隅に
タンポポの綿毛が舞い降りた
地面に舞い降りた綿毛は
静かに根を張る準備をしている・・・
題 刹那
私はたかしが嫌いだった。
だっていつも意地悪ばかり言う。
全然優しくない。
小学校からそうだ。何を言っても否定されるし、うるさいって二言目には言われる。
私とたかしは犬猿の仲だって周りには言われてた。
それなのに、中学、高校と一緒になってしまったのは、なんの因果なのか・・・。
だけど、高校になった今、私もたかしももう小学生みたいないがみ合いはない。
お互いに、無関心だ。
ほぼ関わらない。私達が同じ中学高校だと知らない人に、その事実を伝えれば、ほぼ100%びっくりされるだろう。
私も別に今更関係を改善したいとも思わないし。
そんなある日、男女混合の球技大会が行事で開催された。
前日眠りが浅くてあまり寝てなかった私は朝から体調が悪かった。
もともと低血圧気味でふらふらしがちなんだ。
友人が私の体調を心配してくれるのを、大丈夫と笑顔で強がって、球技大会の試合に参加する。
男女混合の同じチームにはたかしがいた。
でも、私達はもちろん無視。
ただのクラスメートよりも関係値悪い気がする。
ともあれ、試合は始まり、私はふらふらとバレーボールの球を一生懸命目で追う。
でも、もう足がもたついて何が何だかわからなくなってきていた。
あ、もうこれ倒れるな・・・。
と思って倒れ込んだ刹那、誰かに抱きかかえられた。
「先生!夏木が倒れたので保健室連れていきます」
「あ、ああ、頼む・・・」
試合が中断され、補欠を呼ぶ声を後に、私はふわっという感覚共に、間近にたかしの顔を見ていた。
どうして・・・。
関わりたくなかったんじゃないの?
何で・・・。
私が物問いたげにたかしを見ていると、たかしは視線を落とした。
「大丈夫か?」
「あ、うん、ありがと・・・」
私は弱々しい声でお礼をいう。
「気にすんな。無理するなよな」
・・・これって本当にたかしなの?
別人みたい。
「小学校の時と全然態度違う・・・」
私が思わず声に出すと、たかしは困ったような顔をした。
「悪い、俺も子供だったから。反省してるよ」
「そっか・・・」
何となく後に続く言葉が思いつかなくて黙ってしまう。
「じゃあ、これからは普通に話そうよ」
私はたかしに言葉を続ける。
本当は小学校から、ずっとそうしたかった。
だってもともとたかしのこと嫌いじゃなかった。
「そうだな」
たかしは見たことのないような顔を私に向けた。
その優しい眼差しに落ち着かない気持ちになる。
それでも、嬉しい気持ちの方がずっと強くて・・・。私はフッと軽く目を閉じて、今後はたかしと良い友人になれればいいなと心から願っていた。