題 優しくしないで
「だからほっといてよ!」
私は眼の前で途方に暮れたように手を差し伸べるウミにそういいはなった。
「どうして?だって危ないよ、歩道側においでよ、僕が車道側に寄るから。荷物も重いでしょ?持つよ」
・・・このたらしめ。
キッとウミの顔を睨むはずが、可愛らしい笑顔に、その勢いは急速に緩む。
「ね?ほら、ちょうだい」
そう言うと、ウミは私の手にしてる手提げバックを持って行く。
今は買い物の帰り道。近所に住んでいる幼馴染のウミに出会ったところだ。
正直、私はウミが苦手。
だって優しい。優しすぎる。
私だけなら・・・いいのにさ。
「あっ、ウミく〜ん!」
そこへカズハがやってきた。
「カズハちゃんだ!」
ウミは私に向けた笑顔と同じ笑顔をカズハに向けた。
「あ、カナエもいるんだ、どうしたの?ウミくん、何してたの?」
カズハは、作り声で可愛くウミに話しかける。
私には・・・出来ないな。
「カナエちゃんが買い物帰りだったからこれから一緒に帰るんだ。カズハちゃんは、これから習い事だっけ?今日はピアノだよね、頑張ってね。また上達したら聞かせてよ」
「ウミくんって、本当に細かいことまで覚えていてくれるよね♪そういうところ大好きっ!頑張ってくるね〜!」
カズハに笑顔で手を振り続けるウミを冷たい目で見る私。
「何?」
私の視線に気づいたウミが尋ねる。
「ううん、知らないまま罪って大きくなっていくんだなって思ってるだけ」
「え?」
当惑したようなウミの表情に意地悪な気持ちになってしまう。
「カズハ、ウミのこと好きなんじゃないかな?ウミ、あんなにカズハに優しいんだし、付き合ってあげれば?ウミもまんざらじゃないんでしょ?」
「えっ、いきなり何言い出すの?!」
ウミは、びっくりしたように大声を上げる。
「・・・ていうかさ、カナエちゃんは嫌じゃない?僕が誰かと付き合ったら」
その次にそう聞かれて、私が今度は当惑する。
「何でそこで私が出てくるの?」
「だってさ・・・」
ウミは一歩私に近づいてくる。
そして私の手を取ると、ウミの顔の前まで持ち上げた。
「僕が他の人のものになっちゃうんだよ?」
ウミの顔が間近にあって、当惑とドキドキが大きくなっていく。
「僕は・・・嫌かな。カナエちゃんが他の人のものになるのは」
私の手を握りながら伏し目がちに言うウミの言葉に心臓が爆発しそうだ。
「だっだって、ウミ、みんなに優しいじゃない!なのに何で私にそんな事言うの?」
私がわめき声に近い言葉を放つと、落ち着いた表情でウミは微笑む。
「・・・気づかなかった?僕はカナエちゃんにいつでも一番優しいよ。もし彼女になってくれたらもっともっと優しくするよ、約束する」
私の心臓が破裂しなかったのは奇跡かもしれない。
何も言えないでいる私をクスッと笑って見ると、ウミは手を離してくれた。
「考えておいてね?カナエちゃん」
そう言って歩き出したウミの後ろ姿を、私は溢れ出す様々な気持ちを怒涛のように感じながらただ呆然と見ていた。
一番優しくされてたの?
色んな気持ちが混在する中で、その言葉が何よりも嬉しかった。
5/2/2024, 2:46:50 PM