題 明日世界が終わるなら
「もう勉強しなくていいわよ」
ママの声に、机で参考書をにらめっこしていた私は驚愕の顔でふりかえる。
どうやら地球はもうすぐ消滅するらしい。
聞く所によると、巨大隕石が衝突するんだって。
私は何も出来ずに立ち尽くした。
どうして?どうして?
なんで今・・・。
リビングへとふらふらと向かうと、テレビを見ながら、両親が肩を抱き合っていた。
私のことはまるで目に入っていないようだ。
こんな時ながら、パパとママはお互いが好きだったんだな、と思う。
しばらくテレビでやっている緊迫した声を聞いていると、パパが私に気づいて手招きした。
「リンカ、おいで、ここで一緒に家族でいよう。もう地球が・・・一日もないらしいからな」
私はその言葉を聞いて思う。
もう一日ないの?
どうして?なんでよ?
なんでこんなことに・・・あんなに受験勉強したのに・・・
そこまで考えて自分で笑ってしまう。
私には受験勉強しかなかったんだなって。
会いたい友人も、夢中になれる趣味もなかった。
こんな時に何も残っていない。
私はパパの差し出した手を避けて家を飛び出した。
狂気
家の外では泣いている人、怒鳴っている人、ケンカしている人、抱き合っている人、様々な人がいて、沢山の声が鳴り響いていた。
うるさいくらいの喧騒。
包丁を振り回してる人もいる。
お金を奪っている人も・・・。
お金を奪っても使い道もうないのに・・・
そう思いながら通り過ぎる。
そうして私は何となく幼い頃に遊んでいた公園に足を向けていた。
タコの遊具の中に座る場所がある。
幼い頃、良く座ってたな・・・
そう思ってくぐると、一人先客で男の子がいた。
びっくりした顔で私を見る。
「リンカ・・・ちゃん?」
「え?」
そう言われ、良く顔を見ると、何となく見覚えがあった。
「あ、トオル・・・くん?」
小さいころ、小学校低学年の頃、公園のこの遊具でよく遊んだ子だ。
「うん」
トオルくんは懐かしい笑顔で頷いた。
トオルくんは、優しくて、小学校の頃遊ぶのが大好きだった。
学校でも内気で友達が出来なかった私の唯一の友達。
受験勉強で忙しくなるまで私の心の支えだったんだ。
「久しぶり!」
私は嬉しくなって隣に坐って話す。
沢山話した。トオルくんは、お母さんが再婚して、あまり今家庭環境が良くないみたい。
最後の時に家にいたくないって言ってた。
わたしは・・・いたくないわけじゃないけど・・・
「それなら、トオルくんといてもいい?」
「うん、一緒にいようよ」
2人で手を繋いで顔を見合わせた。
優しい人。
私が救われた分、最後の瞬間は少しでも私が助けになりたいと思った。
話していた言葉が次第に無言になる。
でもどうして?
こんなにココロが満たされている。
終末の恐怖が消滅したんだ。
良かった、私にもあった、大切なもの。
忘れていただけだった。
そう思うと、私はトオルくんの顔を見上げて笑いかけた。
5/7/2024, 8:43:55 AM