題 モンシロチョウ
ヒラヒラ
私は寝転がりながら上を通り過ぎるモンシロチョウを見ていた。
春のある日。
学校の中庭の柔らかい芝生のある小山になっているところに横たわっていた。
側には桜の大きな木。
もう既に葉は散って、葉桜になっている。
5月の夏にはまだ早い、柔らかい日差し。
5月の風が爽やかで気持ちいい・・・。
私は目を静かに閉じた。
「こらっー!何やってるの。サボってたらだめでしょう?!」
そこへ響く怒鳴り声。
私は顔をしかめて片目を開く。
横には腕組みをした委員長が立っていた。
生真面目なんだよね。
三つ編みして、分厚い眼鏡かけて、本当に真面目を絵に描いたような委員長。
「委員長もサボりじゃん」
私が言うと、委員長はムキになったように反論する。
「違います!先生が窓からサボってるあなたを見つけたから、私はあなたを連れ戻すように言われたのよ!」
「あーここから、見えちゃうんだ、失敗失敗」
私がそう言って、教室の窓を見上げると、委員長はさらに声を荒げた。
「ちょっと!何言ってるのよ、一緒に戻るわよ」
「委員長、少しは肩の力抜いたら?そんな真面目に生きてて疲れない?ほら、そこ飛んでるモンシロチョウみたいにさ」
ひらひらとモンシロチョウは、白い羽を動かして、自由に花の間を行き交っている。
「あなたみたいにサボってばかりいたら、ろくでもない人間になるでしょう?!」
委員長は、顔を赤くして抗議している。
「はいはい、うるさいな。分かったよ、戻ればいいんでしょ」
私はうるさく喚く委員長に辟易して、起き上がると、制服についた芝をポンポンとはたいた。
「教室に行けばいいんでしょ」
「もうさぼっちゃだめよ!」
そう強い口調でいう委員長に、私は首をすくめて答えた。
「それは保証出来ないかな。私は自由でいたいから。カゴに入れられたモンシロチョウみたいなのは真っ平ごめんだから」
「あなたって人は・・・!?」
ワナワナと震える委員長の横を通り過ぎて、私は靴箱へと歩き出した。
気づくと道の脇の芝生に咲いた花の所で、何匹かのモンシロチョウが花の蜜を求めて飛んでいるのが目に入る。
「自由っていいよね」
私はその姿を見て、ポツリと言葉をこぼした。
「早く行くわよっ」
後ろから委員長がせっついてくる。
「囚われてるのは窮屈じゃない?」
私が振り返ると、委員長は怪訝な顔をして問い返してくる。
「何言ってるの?」
「・・・ううん、わからないならいいよ」
再び私は前を見ると、ひらひらと舞うモンシロチョウの横を通り過ぎて囚われの教室へと歩き出した。
5/10/2024, 12:58:19 PM