題 夢見る心
「サンタクロースはいるんだよ!」
私がそう言うと、友達2人がプッと吹き出した。
「まーたミナが変なこと言い出した」
「ねー、いないって言ってるのにね」
二人の笑い顔を見ながら、私は重ねて言う。
「サンタクロースはいるよ、だって、いつもプレゼントいつもくれるもん」
「だーかーらー、それは違うんだって何度も言ったじゃん」
しつこい私の言葉にイライラしたようにサユミが言う。
「そうだよ、強情だな。中学生にもなって恥ずかしくない?」
タエがさゆみに同調する。
「恥ずかしくないよ、全然」
私は真っ直ぐな視線で2人を見つめる。
「もういいよ、行こう」
2人は行ってしまう。この話題になると、いつも喧嘩になっちゃうなぁ。
でも・・・。でも、そうなんだもの。
私には妖精が見えるんだもの、小さい頃から。
だから、サンタクロースだっているんじゃないかなと思ってる。
妖精は、そのへんをいつもうろうろしてて、羽根が生えてたり、動物みたいな可愛らしい姿のもいるし、赤い帽子被ってるのもいる。
小さい頃はそれを話してたらお母さんに叱られてたから、今は言わないけど、不思議な存在は確かに実在するんだ。
妖精たちとは話せない。見えるだけで特に干渉もしてこない。
確か、サンタクロースは、妖精に手伝ってもらってプレゼントを作ってもらってるんだったよね?
絵本で見たことがある。
それなら、いてもおかしくない。実際にこの目で見たことはないけど、私は信じてる。
でも、もう友達にもサンタはいるって言わないほうがいいのかも。
サンタクロースも、妖精も、他の人には見えないから、いないも同然のものなんだよね。
私には日常に溶け込んでいるけど、他の人には見ることが出来ない。
まるで夢の世界のようだ。
私はずっとこの夢の世界で過ごしていよう。
いや、過ごしていたい。
不思議で、どこか美しさの中に怖さもある妖精の世界。
この世界に私は魅了され続けているんだ。
題 届かぬ想い
どうせ私の想いは届かない。
届くわけないんだ。
だって・・・
「席につけ〜!」
教室に入って来た担任の先生をこっそり盗み見る私。
いつもと同じくカッコいい。
この学校で一番人気がある先生。
面白いし、優しいし、生徒に平等だ。
だからこそ、望みなんてない。
生徒が先生に告白したなんてウワサは聞くけど、全部ダメだったらしい。
そりゃ、未成年に手を出したら先生逮捕されちゃうし、そんなことしないって分かってる。
でも、この気持ちは止められないんだ。
どうしたらいいんだろう・・・。
見ていられたらいいと思ってる。
でも、最近、告白した子達の気持ちも分かるんだ。
もう苦しくて、どうにかしたくて、想いを告げて終わりにしたいって。
そう思ってしまうほど、先生が好きだ。
「おい。高田」
私がボーッとしていると、名前を呼ばれる。
先生がこちらを見つめていた。
「は、はいっ!!」
私は慌てて返事をする。
「高田は国語教科係だろ?ちょっと手伝ってくれるか?」
「はい」
私は起立して、先生の後に続く。
先生の担当の国語教科係も、凄い人気で、執念のジャンケンで勝ち取った地位だ。
「どうした?さっきは、眠かったのか?」
私がボーッとしていたことを言ってくれている。先生って優しい。本当に生徒をよく見てる。
こうして、細かく声をかけてくれるから好きになっちゃうんじゃないか、と理不尽な怒りも湧いてくる。
「いえ、ちょっと考え事を」
「そっか、今の時期っていろいろ悩みあるよな」
「先生も・・・悩みあるんですか?」
私はふと、質問してみたくて尋ねた。
先生も悩むことあるのかなって。
「ああ、実はな、先生、今度結婚することになったんだけど、結婚式のことで相手と結構意見が違ってな。難しいんだなって思ってるよ」
「あっ・・・」
私は一言発したまま、固まってしまう。け、結婚?結婚って言った?
「せ、先生が結婚するの?」
間違いであってほしいと、確認すると、先生は嬉しそうに頷いた。
「ああ。ついにかな。大分待たせたからなぁ」
「そう、なんですか・・・」
私はそれから20分ほど、記憶が飛んでしまっていた。
何を言ったんだろう。それから、教室に戻って、先生がみんなに結婚することを話していた。
私はどこか遠くでそれを聞いていた。
先生を好きだった女子達からの悲鳴が上がる。
言えばよかったのかな?好きって。
そしたら私は気が済んだのかな?
振られてそれで、諦めて、今祝福できてた?
分からない。
でも、さっき結婚のことを話す先生の顔が見たこともないくらい幸せそうだった。
ショックなのと同時に、そんなに幸せそうな顔を出来るような相手で良かった、と思ったんだ。
その相手は私じゃなかったけど、その気持ちを一瞬でも持てたから、きっと今は無理でも先生のこと祝福できる。
私は泣きそうになる顔をパシパシと軽く叩きながら、自分に何度も言い聞かせていた。
題 神様へ
神様へ
1つだけ願いを叶えてほしい。
それは・・・。
私、男の子になりたい!
小さい頃から、全然女の子のグループに馴染めなかった。
だって、折り紙とか、塗り絵とか、したくないし!
何かグループの子以外と話すとグチグチ言われるし。
私はかけっことか、サッカーとか、戦いごっことか、度胸試しとかそういうのが大好き。
毎日服をどろんこにしてはお母さんに叱られてた。
でも、そんなの関係ないよ。私には。
遊んでたら自然とそうなるんだから。
スカートは色んなとこ登ったり、狭い茂みを通る時引っかかるから嫌い。
高校生になった今も履くことはない。ズボンスタイルのみ。高校はズボンスタイルも制服モデルにあるから助かってる。
こんな性格だから、友達も男の子ばかり。
なんなら、女子にも、私は男の子だと認識されてるかも。
性別は女だけど、髪も短いし、いつも男の子みたいなシャツとズボンの組み合わせ。
学校は・・・そんなに問題ない。
私が男の子と話しててもみんな受け入れてくれるし。
女の子は、別にグループに入ってなければいざこざもなく、みんな優しい。
問題は家だ。
親は、ずっとうるさい。女の子なんだからって。
女の子なんだからもっとおしとやかにしなさい、服装可愛くしなさい、髪の毛ももう少し伸ばしなさい。
もう、ほんっとうにうるさいの!
どうにかならないかな?
お父さんもうるさいよ。言葉遣いとか、男子といるとどうしても荒くなるんだけど、ついつい言っちゃうと注意される。
だから、いっそ男の子だったらこんなことで悩まなくていいでしょ?
神様がいるなら、私を男の子にしてほしいんだ。
て言ったら、友達の寛太に凄い否定された。
「そんなのやめとけって。何考えてるんだよ?」
「え?そこまでじゃないでしょ?寛太も、私が男なら一緒に男子サッカー部入れるし嬉しいでしょ」
私がそう言うと、寛太は少し考える。
「う〜ん、確かに。それは嬉しいけど。お前、強いし、サッカー部最強だろうな。けどさ、よく考えろよ。初美は、女の子好きなの?恋愛対象だぞ?」
「あ・・・んーまぁ、別にいいよ。男になったら女の子を好きになるんじゃない?」
私があっけらかんというと、寛太は「いいのかよ・・・」
と呆れたように言った。
「いいか!今はっきり言っておく!初美は女でいいんだよ。初美みたいに話しやすい女子の友達って貴重だし。男になる必要ないだろ」
いつになく強い調子で話す真剣な寛太の顔をジッと見る。
「なっ、何だよ」
寛太が焦ったように私に言う。
「いや、寛太がそんな真剣な顔するなんて珍しいなって」
「お前、そりゃ、男になりたいって神様に祈るくらいなら結構切実に考えてるってことだろ?あ、そうだ!」
「ん?」
私は何かを思いついたような顔の寛太に首を傾げて問いかける。
「親に女子らしくさせられるのやなら、結婚相手はそういうの気にしない人を選べばいいじゃん!」
「あー確かに・・・」
私は同意した。そういう発想はなかったなぁ。
ずっと、実家にいる必要ないんだもんね。自分のこと女の子らしくしろって言わない人と結婚すれば、私は私のままでいられるのか。
「よしっ、その案採用!」
私は寛太に向けてグッドの手をして突き出した。
「じゃ、じゃあさ、候補に俺入れとけよ。俺はお前、そのままでいいから」
「・・・は?」
「じゃ、じゃあな!」
そそくさと去っていく寛太。
私はしばらくその意味を理解出来ず固まった後に
「えええ〜〜〜!!!」
と絶叫したのだった。
私は恋愛なんて分からないから、寛太がそんな風に私を見てたことに衝撃を受けた。
でも、少し考えてみると、案外悪くないのかも。
寛太って話しやすいし、一緒にいて一番居心地いい。
ま、将来のことは分からないし、寛太を候補に入れといてやってもいいかっ。
私はそう考えを切り替えると、それを寛太に伝えに、教室に向かった。
題 快晴
「ねえ、快晴が良かった」
私は口を尖らせて彼氏の清彦を振り返る。
幼馴染でもあり、私の彼氏でもある清彦は、傘を片手に、なだめるような口調で私に答えた。
「仕方ないだろ。今週は天気予報ずっと雨だって話だったし」
「だってせっかくのデートなのに」
私は、自分の傘を持つ手に力を込めた。
毎日晴れますようにってお願いしたのに。
市内のテーマパークの予約チケットを買っていたから日付変更もできなかった。
「室内のアトラクションもあるらしいし、行けないわけじゃないんだから楽しもうぜ」
清彦は、もう近くに見えるテーマパークの入場口を指さして私に言う。
雨でも賑やかな音楽と沢山の人。みんな楽しそうだ。
そんな光景を見ていると、自然と私も笑みがこぼれてくる。
「そうだね!せっかく来たんだから楽しもうか!」
私達は荷物を預けてカッパを買うと、外のアトラクションも中のアトラクションも沢山乗って楽しんだ。
人は多かったけど、清彦と並んで待っている時間も楽しかった。
沢山いろんな話ができて、距離が近づいた気がして、嬉しかった。
気づくと、私達はテーマパークのほとんどの乗り物を制覇しようとしていた。
「あ・・・」
ふと気づくと雨は上がって、黒い雲の間から太陽の光が降り注いできている。
「晴れたな・・・」
隣で清彦がポツリと言う。
「な?快晴じゃなくても楽しかっただろ?」
清彦の言葉に、私は勢いよく頷く。
「うんっ!楽しかった!というか、今まで雨のことなんて忘れて楽しんでたよ」
「俺も。お前がいればどんな天気でも楽しめるって解ってたよ」
「え・・・あ・・・」
私が突然の清彦の言葉に赤面し、返す言葉を失っていると、
「行こう!あの観覧車に乗れば全制覇だ!」
清彦は、笑顔で私の手をとって引く。
「うん・・・!」
私は清彦の言葉に、笑顔を返し、握られた手に力を込めて、清彦の隣に並んで観覧車へと歩き出した。
題 遠くの空へ
遠くまで行きたい。
わたしは定期的にそう思う。
何故かな。
ううん、何故かは分かってる。
自分がずっと転勤族だったから。
2年おきに引っ越してきたから、こうして就職してからもふとどこかへ行ってしまいたくなる。
店舗が市内にしかないから、引っ越さなくていい今の職場。
どうしてだろう。
動きたい。どこか新しい場所に行きたい。
私の最近の夢はいつも引っ越す夢。
大きなデパートの屋上に引っ越して、デパートを散策したり。
新しい家に引っ越して、その奇妙な家を探索したり、引っ越しの日を迎えて必死に片付けして箱詰めしたり。
そんな夢ばかり見てる。
だから、こうしてふと空を見上げた時、違う空に行きたいって思うんだ。
転居して違う空間の空を見たいって。
それは同じに見えて、何もかも違うから。
私の心も環境も、住まいも。
そうして心機一転をリズミカルに求めているのかもしれない。
繰り返されてきた移動を、無性に望んでしまう。
もう動くことはないだろうなぁ。
わたしははぁ、とため息を一つつく。
後は、あれかな?結婚して、引っ越すとかかな?
彼氏もいない私は、羨望の眼差しで、遠くの空を見つめて、また一つため息をついた。