僕は荒廃した土地を見回した。
ここはもう駄目だ。
地上は100年前に核戦争が起こって、地球の緑も荒れ果て、砂漠化も相まって住める状態じゃなくなっていた。
ここが昔は緑に溢れていたなんて伝説、僕には到底信じられない。
僕たちはかろうじて生き残っていた植物の種を地下で栽培して生きている。
地上に出るには、こうしてマスクをして出ないといけない。
何もない、砂だけ。遠くに崩れた建物が見える。
遺伝子異常を起こした動物が動いている。
あの動物達は何を食べているんだろう、と疑問に思う。
僕たちは地下に巨大な都市を建設している。
地上が荒れ果てて住めないと判断して、地下に潜ってなお、人類は増えている。
どんな事があっても生き物が絶えることはないんじゃないのか、と思わせる。
核戦争を乗り越えてなお、まだ生きている人類に想いをはせる。
この先何百年、何千年経ったとしても人類の命のリレーは続いていくんだろうか。
この先、地下核戦争が起こらないとも限らないだろうに。
そう考えて、背筋が寒くなる。
もし地下に住めなくなったら今度はどこへ住みだすのかな。
人間の生命力の強さと、戦争の愚かさにため息をつき、僕は地下への階段を降りながらマスクを外した。
「君のこと、忘れないから」
そう言い残して勿忘草を一輪渡して去って行った彼氏。
次の日には、連絡が取れなくなっていた。
それまでケンカ一つしないで仲良く話していたのに。
私はショックすぎて、怒りと、悲しみと絶望と苦しい気持ちに苛まれていた。
あれから三ヶ月。
全然心の痛みは和らがない。
あれから、もらった花の花言葉を調べてみた。
私を忘れないで、と真実の愛、という複数の意味があるらしい。
忘れないで、なら、別れても忘れないでね、という意味かなと思うし、真実の愛、なら待っていてという意味ともワンチャン捉えられる。
でも、連絡つかない時点で、もう終わりなんだろうな、と、私は諦めのため息をついた。
ピンポーン、ピンポーン
その時、チャイムが、けたたましく連打された。
私が玄関に行くと、当の元彼?がそこに立っていた。
「ごめん!まさか届かないなんて・・・僕のこと忘れてない?他に彼氏とかできてないよね?!」
彼氏は、私が扉を開いた瞬間に私を抱きしめてそう言う。
「は・・・?生憎あなたに振られたショックで彼氏なんて作れる状況じゃなかったわよ」
「違うよ、僕は振ってなんてない!」
彼氏の声が大きくなり、マンションに響きそうだ。私は彼氏に玄関に入るように言う。
「ごめん、興奮して・・・。急に会社から海外へ短期出張が入って・・・。君と離れたくないし、君に会ったら離れたくないって泣き言言いそうだから、一言だけ告げて、後は手紙に出張のことと、連絡先とか書いていたんだよ。会社から携帯支給されてたから、普段の携帯は契約休止してて・・・」
「えっ・・・?手紙?届いてないよ」
私は彼氏の言葉にびっくりして問い返す。
「そうだよ、今帰ってきてびっくりしたよ!僕のポストに君に送ったはずの手紙が戻ってきてるんだもの!!道理で君から連絡こなかったはずだよ。てっきり君に嫌われてしまったと思って、僕も連絡できなかった・・・」
「紛らわしいのよ!今までどれだけ悩んだと思ってるのっ!」
「本当にごめん、だけど、君に話すの辛くて、本当に好きだから離れたくなかったんだ・・・許してくれる?」
彼氏は私を抱きしめた。私は混乱する気持ちと、やっぱり彼氏のことが好きだという気持ちをいだいていた。
「・・・今まで辛かったけど、あなたのことはずっと好きだった。だから、許すしかないみたい」
私の言葉を、聞いて、彼氏は何度もありがとう、と抱きしめる。
「ちなみに、あの勿忘草の意味ってなんだったの?」
その後、家で、2人でお茶を飲んでいる時に私は聞いてみた。
「もちろん、永遠の愛、だよ」
彼氏の言葉に、私はせめてあの時言葉で言ってくれれば良かったのに・・・と思う。
「でも、今度出張の時はそんなことにならないように誓うよ。その時は君も連れて行くから」
「えっ、それって・・・」
私が質問しようとすると、その言葉は彼氏の優しいキスで塞がれてしまった。
ゆーらゆら
私はブランコに揺れながら真夜中の公園で星空を見ていた。
ゆらゆらしていると何もかも忘れてしまえる気がした。
明日は会社に行きたくないなぁ。
そう思いながら星空を視界一杯に入れていると、何だか星空と一体化しているような感覚になる。
ここまま溶けて空と混ぜられて永遠に空に留まれればいいのに。
空から人々を眺めるのは楽しいだろうな。
私は揺れ動くブランコの振動をゆるやかに感じている。
そうしているとだんだんブランコの揺れが落ち着いてくる。
ふぅー。
私はため息をついた。
何でこんなに苦しいんだろう。
毎日会社に行くのが辛くて。
一日一日をやっとこなしている。
ブランコが止まってもしばらく私は動けないでいた。
「明日行けばお休みだから」
「明日行けば祝日だから」
「あと少しで定時だから」
こんな誤魔化しでどこまで頑張れるんだろう。
幼い頃を思い出す。
こんな風に同じように、ブランコに揺られていたけど、
小学校の時は無邪気の塊で明日の心配をすることがなかった。
ただ、私は明日が楽しみで、希望に満ちた明日が確約されているのだと思っていたのに。
それでも明日は無情にやってくる。
私はため息を付いて幼い頃の楽しい記憶がつまったブランコを振り返る。
そして、重い体を引きずって、家への帰り道を辿りだしたのだった。
もう少しでたどり着く!
私はゼイゼイ言いながら山頂への道を目指していた。
なぜ運動音痴な私がこんなに頑張って山に登っているかというと・・・。
「ほら、頑張れ」
恋人の会社の先輩に山登りに誘われたからだ。
恋人に嫌われたくなかった私は、二つ返事でオッケーして、山登りの準備を即席でネットで調べて必要な物をネットショップでそろえたのだ。
でも・・・実は私は超インドア派。
家にいるのが趣味、あ、昼寝、ゲームも好きな家を愛してる女だ。
本当は、先輩の誘いじゃなければ断っていただろう。
土日で泊まりで行くことになり、ドキドキしながら臨んだ当日。
日頃の運動不足で1日目はあえなくホテルについてすぐ疲労で泥のように眠ってしまった。
2日目は、1日目の筋肉痛も加味されて、もう私はボロボロになりながら山頂までの苦行を強いられていた。
先輩が話しかけてくれてたけど、もう、それに答えるのもしんどくて・・・。
山頂の案内が見えてきた時には長い旅路をようやく乗り越えて到着したような希望に溢れていた。
「もうすぐ山頂だぞ、頑張ろう」
先輩の声に頷く。
最後の力を振り絞って登り切ると、そこからの景色に言葉を、失う。
「あ・・・」
雲が一面眼下に広がっている。雲の間から緑の森がずっと向こうまで連なっている。
上を見ると空をとても近くに感じて、間近に迫っているように見える。
下も上も雲に挟まれていて、まるで空中にいるかのような錯覚を抱く。
「すっごい・・・!」
「だろ?」
私が感嘆の声を上げると、先輩は、得意そうな声を上げた。
「俺はこの景色を見るために登っているといってもいい」
「そっかぁ。この景色を見ちゃうと、確かに・・・あっ」
私は同意しかけていると、足に限界がきてふらつく。
「大丈夫か?」
すぐに先輩が来て私を抱きとめ、支えてくれた。
「はい・・・」
私は先輩を見上げると、先輩は私の顔を見て、複雑な表情をしている。
「どうしたんですか?」
「ごめんな。本当は君があまり山登りとか好きじゃないって分かってたんだ。だけど、どうしても俺の好きな景色を見せたくて、ワガママ言ってしまった」
私は先輩の頬をなでた。
「いいんです。えと、またすぐ来れるかというと・・・何年後かとかなら行けるかもですが・・・。でも、今は、先輩と山頂の景色を見ることが出来て嬉しいです」
私が上を見上げて先輩の顔を見て告げると、先輩は、顔を下ろして私にキスをした。
「好きだよ」
いきなり言われて心拍数が急上昇する私。
そんな私の姿を見て、先輩はいたずらっぽく笑う。
「さぁ、下山が待ってるから、もう少し頑張ろうな」
そう言うと、私に手を差し伸べる。
「そ、そうでした〜!!」
登ったら終わりじゃなかった!
私はこの先の長い旅路を思うと絶望感を感じながら、
それでも、愛しい人と降りれるなら頑張れる、と先輩の差し出した手に自分の手を重ねたのだった。
これ、どうやって届けようかなぁ。
校舎で拾ってしまった私の片思いの相手のハンカチ。
名前とクラスがきっちり書いてある。
なぜ拾ってしまったんだろう。
ラッキーだろうって?
いや、話したことない人だもの。
違うクラスの一目惚れした男の子。
見るだけでドキドキしてるのに。
よりによってハンカチを届けるミッションが発生してしまった。
どうしよう
どうしよう
心の中でさっきからずっと叫んでいる。
私、全然心の準備してないから、このまま男の子のクラスに行ける気がしない。
ましてや話しかけるなんて。
勇気が全く出てこない。
かといって、このままここにハンカチ置いとくのも悪いと思うし、私も嫌だし。
忘れ物置き場に置く?
気づくかな、早く届けてあげたいよね。
私がその場でウロウロしてると、同じクラスの友達が声をかけてきた。
「何一人で行ったり来たりしてるの?相変わらず面白いね」
「美紀、良いところに!」
もうこの際、誰でもいい。
「このハンカチ、真島くんのクラスに行って届けてくれる?」
「真島?あ、A組だね、志穂が行ってくれば?」
そう言われて即座に首をブンブンの横に振る。
「無理だよ、美紀知ってるでしょ?私が真島くんのこと好きなこと。無理。ドキドキしすぎて死んじゃう」
「いやいや、死なないから。私だって届けるのやだよ。A組遠いし」
「お願い〜助けると思って」
「チャンスじゃない、この機会を逃さず仲良くしたら?」
美紀の非情な言葉。
「そんなレベルじゃないんだってー。真島くんの前では固まっちゃうんだってばー」
「じゃあいつまでも片思いでいいの?」
呆れたように言う美紀。
「いいよっ、私は彼を揺らがずずっと好きでいた自分を誇るよっ!」
私の言葉を聞いて、
「だめだ、こりゃ」
とため息をつく美紀。
そこへ・・・。
「あの、この辺でハンカチ落ちてなかった?」
声に振り向くと、そこには話題の主の真島くんが立っていた。
「あっ!あっ、まっ」
ことばにならない私を見て、美紀が答える。
「あるよー、志穂が持ってる」
そして、私を指さした。
「ごめん、この辺でジュース買おうと小銭取り出したひょうしに落としたみたい、ありがと」
真島くんの整った顔を間近に見て、わたしはこくこくと機械人形のように首を縦に振ることしかできない。
そして、手に真島くんのハンカチを置いて差し出した。
「ありがとう。拾ってくれてて助かったよ」
笑顔で私の手からハンカチを受け取る真島くん。
「じゃあ」
そう言って去っていく真島くんをボーッと見ていた私は、我に返ると、美紀に訴える。
「見た?見た?尊いよね〜!かっこいいし、優しい。この世のものとは思えないよ〜」
「もはやそれって恋っていうか推し活では・・・」
美紀はさっきから呆れ顔だ。
「もう、真島くんが触れた手は洗いたくない〜!」
「なに馬鹿な事言ってるの!汚いから洗いなさいよ」
そんな美紀の叱り声を聞きながら、私は真島くんにハンカチを届けるミッションが成功して、満足感で一杯だった。