もう少しでたどり着く!
私はゼイゼイ言いながら山頂への道を目指していた。
なぜ運動音痴な私がこんなに頑張って山に登っているかというと・・・。
「ほら、頑張れ」
恋人の会社の先輩に山登りに誘われたからだ。
恋人に嫌われたくなかった私は、二つ返事でオッケーして、山登りの準備を即席でネットで調べて必要な物をネットショップでそろえたのだ。
でも・・・実は私は超インドア派。
家にいるのが趣味、あ、昼寝、ゲームも好きな家を愛してる女だ。
本当は、先輩の誘いじゃなければ断っていただろう。
土日で泊まりで行くことになり、ドキドキしながら臨んだ当日。
日頃の運動不足で1日目はあえなくホテルについてすぐ疲労で泥のように眠ってしまった。
2日目は、1日目の筋肉痛も加味されて、もう私はボロボロになりながら山頂までの苦行を強いられていた。
先輩が話しかけてくれてたけど、もう、それに答えるのもしんどくて・・・。
山頂の案内が見えてきた時には長い旅路をようやく乗り越えて到着したような希望に溢れていた。
「もうすぐ山頂だぞ、頑張ろう」
先輩の声に頷く。
最後の力を振り絞って登り切ると、そこからの景色に言葉を、失う。
「あ・・・」
雲が一面眼下に広がっている。雲の間から緑の森がずっと向こうまで連なっている。
上を見ると空をとても近くに感じて、間近に迫っているように見える。
下も上も雲に挟まれていて、まるで空中にいるかのような錯覚を抱く。
「すっごい・・・!」
「だろ?」
私が感嘆の声を上げると、先輩は、得意そうな声を上げた。
「俺はこの景色を見るために登っているといってもいい」
「そっかぁ。この景色を見ちゃうと、確かに・・・あっ」
私は同意しかけていると、足に限界がきてふらつく。
「大丈夫か?」
すぐに先輩が来て私を抱きとめ、支えてくれた。
「はい・・・」
私は先輩を見上げると、先輩は私の顔を見て、複雑な表情をしている。
「どうしたんですか?」
「ごめんな。本当は君があまり山登りとか好きじゃないって分かってたんだ。だけど、どうしても俺の好きな景色を見せたくて、ワガママ言ってしまった」
私は先輩の頬をなでた。
「いいんです。えと、またすぐ来れるかというと・・・何年後かとかなら行けるかもですが・・・。でも、今は、先輩と山頂の景色を見ることが出来て嬉しいです」
私が上を見上げて先輩の顔を見て告げると、先輩は、顔を下ろして私にキスをした。
「好きだよ」
いきなり言われて心拍数が急上昇する私。
そんな私の姿を見て、先輩はいたずらっぽく笑う。
「さぁ、下山が待ってるから、もう少し頑張ろうな」
そう言うと、私に手を差し伸べる。
「そ、そうでした〜!!」
登ったら終わりじゃなかった!
私はこの先の長い旅路を思うと絶望感を感じながら、
それでも、愛しい人と降りれるなら頑張れる、と先輩の差し出した手に自分の手を重ねたのだった。
1/31/2024, 11:16:12 AM