心の中でいつも言ってる。
でも言葉には出来ない。
恋人になったのに素直になれない私。
「ちょっと、昨日連絡くれなかったじゃない?なんでよ?」
昼休み、違うクラスの私と彼は中庭で待ち合わせてご飯を食べる。
昼食を持って中庭に来た私は、彼の顔を認識した途端、きつい口調で彼にくってかかっていた。
「仕方ないだろ。昨日は部活遅くて、そのまま家帰って宿題してたら睡魔に襲われたんだから。朝びびったのなんの。慌ててシャワーして学校来て宿題してたんだぞ」
そう聞くと、部活大変だったんだな、とちらっと同情の気持ちが湧くものの、私の口からは気持ちとはうらはらな言葉が出ている。
「だからって大事な彼女に一言連絡あってもいいじゃん?昨日、電話しようって言ってたから待ってたんだよ」
私だって、部活まあまあ遅かったけど、家帰ってからずっと彼氏との電話を楽しみに待ってたのに。
でも、彼氏は、そこまで私のこと思ってくれなかったんだなという思考になってしまう。
もともと友達だった私達は、付き合った後もいまいち甘い雰囲気になり切れない気がしてる。
「まぁ、それは・・・悪かったよ。昨日の宿題、あり得ない位出てて、終わらせないとって結構焦っててさ」
言い訳のように聞こえてしまって、私の機嫌はなかなか治らない。
「私って、あんたの何?友達なの?友達ならしょーがないよねっ、別に連絡忘れても謝ればいいもんねっ」
言いながら、可愛くないな、と思う、自分のこと。
でも、本当に大事に思われてるかなという不安が心を占めていて・・・。
「友達・・・だよ」
「え?」
彼氏の言葉にドクっと心臓が爆音を上げる。
友達?に戻りたいってこと?
パニックになって青ざめる私に気づかず、彼氏は私を見る。
「友達だし、親友だし、恋人だよ。だからこそ甘えちゃったよな。ごめん、お前のことだから待っててくれたんだろ?」
私の頬に自分の手をあてて、私にいたわるような視線を向けてくる彼氏。
急にそんな顔を向けられて、私はこみ上げてくる涙を抑えられなかった。
「泣くなって」
彼氏が私を抱きしめる。
だって、不意にそんな優しいこと言われたら。
どうしていいか分からなくなる。
「今日は絶対電話するから待ってて」
優しく背中をさすりながら言ってくれる彼氏に、私はただ頷く事しか出来ない。
愛してる。
やっぱりあなたを愛してる
言葉にはなかなか出来ないけれど、無限のI love youは、私の心にいつも渦巻いているんだよ。
街へ行きたい。
今日は休日。
いつもは家と職場の往復だから、見慣れた景色しか見られない。
だけど、今日は久しぶりのお休み。
いつもは足を伸ばせない街へ行くんだ!
彼と街でデート。
朝目覚めた時からウキウキで、幸せに包まれて起きた。
楽しみすぎて、早く起きすぎたせいでご飯ものんびり食べられた。
メイクして、服を選んで、持って行く物を整理して・・・。
1日を思ってため息をつかなくていいから、こんな日は、本当に幸せだって思う。
今日はどこに行こうかな、と考える。
会ってから決めようね!と話していて、彼氏も、どこ行こうか?と楽しそうだった。
お互い忙しくてなかなか会えなかったから、余計にワクワク感が膨らんでいる。
街に行ったら、まずはカフェがいいかな?水族館もあるし、映画でもいいな。
美術館っていうのも楽しいよね・・・。
ちょっと遠出してテーマパークっていう手も・・・。
彼氏が行きたい場所を聞くのも楽しみだな♪
鼻歌を歌いながら、家の電気を消して、靴を履いて、家を出る。
会社を出るときとはえらい違いだな、と苦笑しながら。
「行って来ます!」
私の弾んだ声と共に、パタリ、とドアが閉まり、カチャリと鍵がかかった音が部屋に響いた。
「何でそんな事言うの?」
私はクラスメートの高瀬に言い放った。
高瀬が私に対して余計な事するなと言ったから。
友達が町田くんのこと好きだから、町田くんの好きなタイプを聞き出そうとしただけなのに。
「やめとけって。そんなの、聞いた所で、好みじゃなかったらどうすんだよ?本人が聞くならまだしも、お前部外者じゃん」
「ちゃんと、優子には町田くんに聞いていいって言ったよ。いいよっていってたもん」
高瀬のトゲのある言葉に思わずムキになってしまう私。
せっかく友達の恋愛に協力しようとしてるのに、何でこんな風に否定されるのか分らない。
「本当にやめとけって、分からないやつだな」
イライラした口調になる高瀬。
「高瀬に聞いた私が馬鹿だった!もういいっ」
「あ、おいっ・・・」
私は高瀬の言葉を振り切り、町田くんのクラスへ向かう。
丁度お昼休み。
他クラスで、人数もまばらだ。
「あ、菜由!」
知り合いを見つけて、声を掛ける。
「おー、楓、どうしたの?」
菜由が笑顔で駆け寄ってくる。
「町田くん、いない?」
「町田くん?あー、今いないよぉ」
にやにやして話す菜由。
「最近同じクラスの井川さんと付き合い初めて、多分どっかで2人でご飯じゃないかなぁ?」
菜由の言葉に、私の顔から血の気がサーッと引いた。
「えっ、彼女、出来たの?町田くん」
「うん、最近ね、ラブラブだよ♪」
私はフラフラと、ありがと、、、とクラスを離れると、自分のクラスへと戻る。
私のクラスの扉の所に高瀬がもたれて待っていた。
「言ったろ?やめとけって」
「うん・・・余計な事しなきゃ良かった・・・優子に何て言ったらいいんだろ・・・」
あんなに嬉しそうに毎日町田くんの話を聞かされていたのに。
こんな残酷な現実をつきつけなきゃいけないなんて・・・。
私の涙目になる目を見て、高瀬は、私の肩を軽く叩いた。
「言わなくても良いんじゃないか?いずれ分かるだろうし。言うか言わないかは楓次第だけど」
「うん・・・余計悩みが増えてしまったよ・・・高瀬は知ってたんだね?このこと・・・」
「まぁ・・・町田は、同じサッカー部で、彼女の話してたからな」
そっか・・・
私を止めたのは、高瀬なりの優しさだったんだ・・・
「ありがと、止めてくれて、なのにごめんね、突っ走っちゃって」
私は絶望的な気持ちで謝る。
「楓らしいじゃん。人の為に頑張る所。でも、これにこりたら、恋愛の事に首を突っ込むなよ」
高瀬は優しい笑みで言う。
ううー。本当に私は馬鹿だった、でも聞いてしまったことはどうにもならない。
私は優子にどう告げようか悩みながら、高瀬に向かって神妙に頷いたのだった。
寝れないなー
私は真夜中、目が冴えて仕方ない身体を持て余していた。
ベットで何回も体勢を変えて、息を深く吸って吐いてを繰り返して、眠る時、定番の羊を数えてみても目は冴えたままだ。
やらないほうがいいと思いつつ、ベッドサイドのデジタル目覚まし時計に手を伸ばす。
さっきから30分おきに確認しているのが分かる。
さっき見た時は、1時半だったのが、今は2時5分だった。
はぁぁ、とため息をつく。
目が冴えたままの私は、なぜ目が冴えているのか、理由について考えだした。
そもそも、今日は割と学校で失敗して、宿題忘れで先生に怒られ、教室で居残りで宿題してたら、クラスメートにからかわれ、イラつきながら、すべて終わらせて、先生に提出したんだっけ。
そのまま帰宅途中、またそのクラスメートに合って軽口叩かれ、私も言い返して、かなりの苛立ちに苛まれ、
そこで、コーヒー牛乳を何杯か飲んで怒りを落ち着かせ・・・。
それから、明日の勉強しなきゃ、と今日の宿題を早めにやったんだよね。
早めに始めたついでに、予習もしとこうと、意外と頑張れる自分偉い!なんて自分を褒めちゃったりして・・・。
眠気覚ましにコーヒーを4杯ほど飲んだっけ?
あっ、やっぱ、振り返ると、これはコーヒーが悪かった気がするなぁ。
飲みすぎたかも。今、心臓もどくどくいってるし。
でもさ、クラスメートの悪口も意外と私のアドレナリンを活発にさせてるわ。
マジで意味わかんない。あいつだって、そんなに成績良い訳じゃないのに、宿題忘れたからってあんなにからかわなくても・・・。
どうでもいいことでいつも突っ掛かってくる・・・。
さては、私のこと好きなのかな?
いつもいつも突っ掛かってくるの、逆に好意があるからとか?
いや、それでもかなり迷惑だわ。
というか、そもそも私別にあいつのことタイプじゃなかった・・・。
そんなことを考えていた私はもう一度反射的に時計の時間を確認すると、2時28分・・・。
いい加減眠りたいよ〜と思いながらも、まだまだ先が長い予感がする真夜中だった。
雷の日
私は家でブルブル震えていた。
雷が凄い音で鳴り響いてる。
怖い、怖い、怖い・・・!
中学になった今でも、雷だけは克服できない。
ひときわ近づいてくる雷に、私は思わず毛布を被って隣の部屋へ行く。
ガチャ
扉を開けると、お兄ちゃんがベットで本を読んでた。
「何?どうしたの?お前」
毛布を被ったままのお兄ちゃんがあっけに取られた顔をする。
が、次の瞬間、合点がいったように頷いた。
「そっか、雷弱かったもんな。怖くなっちゃったんだ?」
からかうように言われて、私はお兄ちゃんを睨みつける・・・ものの、雷の音に、たまらず、お兄ちゃんのベッドに入り込んだ。
「ちょっと、お前、何してるんだよ!」
抗議の声も聞こえないふり。
ここでいれば安心だ。
両親は共働きで二人共帰るのは遅いし。
もうここしか安息の場所はない。
「もー仕方ないな、おい、もうちょっと横にずれろよ。狭いだろ」
お兄ちゃんの声に、横にずれる。
人が側にいる気配に、私は心からホッとする。
「お兄ちゃん、雷止むまでここでいていい?」
私が聞くと、
「好きにすれば。お母さん帰ってきたら下に行けよ」
お兄ちゃんは、本を読みながら答えた。
私は本をめくる音を聞きながら目をつむる。
時折強い雷が来たら、お兄ちゃんの服の裾を握ってしまったけど、何も言われなかった。
一人じゃ心細くて恐怖で死にそうだったけど
私にお兄ちゃんがいてよかったな、と思った瞬間だった。
そして、私は段々と引き込まれるような睡魔に襲われながら夢の中へと落ちていったのだった。