三日月を見て、私はため息をついた。
「どうしたの?」
横で彼氏が呑気に聞く。
どうしたの、じゃないわよ、思い出さないの?!
と私は腹立たしく思う。
私はいつも三日月を見ると、幼い頃から思い出してたある場面がある。
きらびやかな服を来て、アラビアのお姫様のような格好をした大人の私。色とりどりの煌めく刺繍が綺麗で。
一番印象深いのは、薄い紫と青の間のような色の空に、異様に黄色い三日月が輝いていたこと。
私と一緒にいるのはアラビアのこれまた王子様みたいな格好をした男性。私と男性は踊っている。
そして、その男性というのは今、横にいる彼氏の顔と同じだったのだ。
私は恐らく前世の記憶なんじゃないかと思っている。
確かめようはないんだけど。
小さい頃からの記憶。親や、友達に話しても夢だと笑われて来たけど、高校で出会った彼を見つけて、驚愕。
・・・話しても私のこと、思い出してくれなかったけど、私は猛アタックして、彼と付き合えた。
だって、幼い頃から、素敵だって、思っていたんだもの。
「月乃ってたまにそういうふうに不機嫌になるよね」
彼氏が機嫌を取るように私を覗き込む。
「いいの、だって、言ったって仕方ないことなんだもん」
私が拗ねると、彼氏の腕の中に抱き寄せられる。
「ごめんね、僕が覚えてれば月乃にそんな顔させないのに」
彼氏には出会ってからと、付き合ってから、2回、私の夢の話はしていた。だけど、全然そんな記憶もないし、夢でも見ないと言われた。
「私が覚えてるからいいよ」
私は寂しそうに笑うと、彼にキスをされた。
彼氏が前世の人がどうかも分からないけど。
三日月の日になると強く幼い頃からの記憶が蘇る。
その記憶があったからこそ、今の彼氏に会えたのだから。
彼との時間を大事にしよう。
そして、いつまでも、この不思議な記憶は、私の中で大切に記憶の中に留めておこう。
生憎の雨の日。
私は観光で行っていた県の有名なタワーに遊びに来ていた。
妹と一緒に来たものの、展望台に登るエレベーターを待ちながら、暗い顔で二人で顔を見合わせる。
「折角来たのにね」
「ね、今日わざわざ降らなくてもいいのに」
そうは言うものの、ここまで来たのだから、と上に上がってみる事にした。
展望台に到着すると、窓には水滴が付いていて、外の景色は見えにくい。
「ちょっとぼんやりしてるね」
私が妹に話しかけると、
「うん、そうだね・・・」
妹は、展望台のガラスの側に行って、窓の向こうに目をこらした。
「向こうは、晴れてたら綺麗な海が見えるんだって・・・あっ!」
いきなりの声に私は驚いて尋ねる。
「どうしたの?」
「お姉ちゃん、ちょっとちょっと」
手で私を招く妹の側に行くと・・・
「下、下」
ジェスチャーで下を覗くように言われた。
下を見ると、色とりどりの傘が沢山見えた。
丁度今、下は、飾りのイルミネーションが点灯していて、雨の雫が景色をぼんやりと歪めて、幻想的に見える。
「みんな下で順番待ってるんだね。傘が綺麗だね〜」
私がそう言うと、妹も隣で頷く。
「しかも、今しか見られない色の組み合わせだよね!」
「確かに!」
私達はしばらくその色とりどりの傘が動く姿を眺めていた。
なんだか、景色は、望み通りに見られなかったのに、妙な満足感を感じた私と妹だった。
寒いな・・・
仕事帰り、私はてくてくと夜道を歩いていた。
疲れた・・・。
今日も1日大変だったな〜。
1日を思い返す。
クレームが一件入って、仕事進まなかったし、他の社員がミスして、みんなでデータ入力手伝ってたし・・・。
ふう・・・。
ため息が出た私は、いつも、帰りがけに通るコンビニに寄る。
いつも買うラインナップは、温かいホットレモン。
疲れると、凄く飲みたくなって。
後は、健康に気を使ってヨーグルト、今日は自分にお疲れの意味も込めて、おでんも追加。
ちょっと家に帰って料理する手間だけ、自分に自由時間あげようっと。
買い物を済ませコンビニを出る。
さむっっ
寒すぎて震えた私は早速購入したホットレモンを飲む。
暖かくて、優しい酸味が疲れを癒やしてくれる。
喉にもいい気がするしね!
私はレジ袋を腕にかけて、ホットレモンをカイロ代わりに歩き出す。
と、、、。
「ゆき・・・?」
白い紙片みたいなものが目前を横切った。
上を見ると、沢山の雪。
わー、雪だ!と思わず見とれる。
黒い空に白い色が映えるな〜と思って見ていると・・・。
クシャン
あまりの寒さにくしゃみが出てしまう。
(いけない、早く帰らないと風邪引いちゃう)
急ぎ足になる私は、家への帰路を急ぐ。
両手にはホットレモンがある安心感。
私はこくっと一口またホットレモンを飲む。
ひらひらと降る雪も、暖かいホットレモンのおかげで少し余裕を見て眺められる。
きっとなかったら寒い〜って、走り抜けてただろうな・・・。
そしてそんな私は、明日もまた絶対に、ホットレモン買おう、と心に決めていたのだった。
「ずっと一緒にいたいね」
約束していたのに。
去年はこの木の下で一緒に帰り難くてずっと話してた。
私は、隣に誰もいないガランとした空間を眺めた。
「一緒にいると幸せだね」
って、瞳を見合わせて笑ったことも・・・
「やっぱ帰したくない」
って、帰ろうとする私を引き止めて抱きしめてくれたことも・・・
全部全部、あなたのあの一言を聞いた瞬間に終わってしまった。
「他に好きな人が出来たから別れて欲しい」
一瞬で地の底に叩きつけられたような衝撃。
その後のことはほとんど途切れ途切れの記憶。
泣いて泣いて泣きつかれて
頭痛がしてそれから・・・。
ねえ、あの時言ってくれた事は・・・嘘だったの?
その質問だけが頭を繰り返し浮かんでいた。
あなたが次の日には冗談だって言ってくれること、期待してたのに・・・もちろんそんなことはなく。
私は今、この木の下に立っている。
好きだったよ。
大好きだったよ、たとえ、私の一方通行だったとしても。
ウソつき。でも好きだった。
今はまだ忘れられないあなたとの記憶。
いつか風花できるのかな?
私はその時が来ることを願いながらただ、ここに立ちつくすことしか出来なかった・・・。
ある冬の日。
私は散歩大好きな愛犬のミルクと散歩に出た。
休日の早朝
お年寄りの夫婦がランニングをしたり、同じ犬を散歩に連れた人がチラホラと見える。
早朝の朝の光は、日光に反射してキラキラ光って見える。
「気持ちいいねー!」
可愛い私の犬に話しかけると、ワンッと元気がいい返事が帰ってきた。
フワフワの茶色い毛の生えた頭を、ナデナデすると、ワン、と嬉しそうにしっぽをふるミルク。
「よーし、今日は天気もいいし、気分いいからちょっと遠回りしようか?」
私が言っている言葉を分かってかどうか、ミルクは、もう一度ワンッ、と元気良く跳ねる。
私とミルクは、勢いよく走り出す。
朝の誰もいない細い道に入り走り出すと、私達二人だけの世界のような気がする。
「このまま、この道を出たらどこか異世界へ出たらどうする?」
私がそう言うと、
「ワーン?」
ミルクは不思議そうな顔で一瞬立ち止まった。
「冗談だよ、さ、行こう!」
私達は細い道を出た。すると・・・。
辺り一面、綺麗な花が一面敷き詰められていた。
「わああ、って、え?本当に、異世界?」
不思議に思っていると、
「新年のセールです!お花、いかがですか?」
と、横からお姉さんに話しかけられた。
「あ・・・買います」
財布がちょうどポケットにあったのと、急に話しかけられた動揺から、ついつい購入してしまう。
「ビックリしたね、でもいい匂いでしょ」
ミルクの鼻に花を近づけると、ミルクはクンクンと匂いをかぎ、ワンッと私を見た。
「よーし、後で飾ろうね。じゃあ、新たな冒険に出発!」
そう行って、私とミルクは再び朝の新鮮な空気の中を走り出したのだった。