変わらないモノ
変わらないキモチ
「ユイって凄いね、ずっと3年間先輩の事好きなんでしょ?」
友達に言われて頷く。
「うん、中1からずっと好きだった」
中高一貫の学校で、入学の時、生徒会で体育館の前にいた先輩に一目惚れした。
高1の大人っぽい先輩。
「よく続くよねー。片思い」
友達が呆れたような目で私を見る。
「私も驚いてる。こんなに長い間好きでいられるなんて」
キモチを操作できない。
先輩の近くにいると反応するし、すれ違うだけで、ドキドキ胸がうるさい。
「もうすぐ卒業式だよ?どうするの?」
そう言われると、心がドーンと重くなる。
挨拶位しか交わしていないから、私のこと認識してくれているかすら分からない。
だけど、4月から会えなくなってしまうことを思うと苦しくて仕方ない。
「告白、してみたら?」
そう友達に言われた言葉。
私は、考えに考えた挙げ句、先輩に想いを伝える事にした。
「好きです」
心臓が体から飛び出しそうな位ドクドクと鳴っている。
呼び出した先輩は、私の言葉を聞いて、ふんわりと微笑んだ。
「ありがとう・・・でも」
でも、付き合ってる彼女がいるからごめんね、好きでいてくれてありがとう
そう続いた言葉。
私はショックの中、取り繕うような笑顔で、一礼すると、走ってトイレに駆け込む。
言えた、言えて良かったという達成感と、先輩に彼女がいたという喪失感、悲しみが同時に襲ってくる。
胸の痛みを感じながら私は想う。
今までありがとう。と、
ずっと先輩を好きでいてくれた心にお礼をする。
変わらなかったキモチ。沢山の初めての感情を知れた。
だから後悔は一つもないよ。
私、先輩を好きになって良かった・・・。
先輩への気持ちはこれから変わって行くのかもしれない。
これから変化していく時間でどれだけ私の想いが変わっていっても、今までの想いを決して否定したりしない。
あんなに先輩を大好きだった気持ちだけは・・・。
涙がひとすじ、ツゥーと流れていった。
今日だけ、今日だけ泣いたらまた明日から頑張ろう。
私は次々にこぼれ落ちてくる涙をハンカチで拭いながらそう思っていた。
「今日は休みだよ、どこ行こっか〜?」
俺の妻がニコッと笑顔で笑いかける。
「そうだな、クリスマスだしね、折角」
俺は頷いて答えた。
妻も俺も今日から有給消化週間とかで、早めの休みを取っていた。
同じ会社ながら、夫婦は他部署になるので、平日はなかなか一緒の時間が取れない。
特に俺の部署は残業が多くて、久しぶりの二人でゆっくりできる平日だった。
「買い物でもいこっか〜?新しく出来たモールに行きたいな」
妻のお願いに、俺はもちろんオッケーし、俺達は車で、新しく出来たモールに向かう。
妻は、少しおめかしして、気合を入れて化粧していたみたいだ。
いつもより綺麗だし、髪もアップにして、バレッタで止めていて可愛い。
「似合うね、綺麗だよ」
と言うと柄にもなく、顔を赤くしてうつむいていた。
そういう仕草も妻の魅力だと思っている。
モールはクリスマスとあって混んでいた。
平日だけど、大学生なんかはお休みなんだろう。
俺と妻は服を見たり、雑貨を見て回ったり、本屋さんを覗いたりして過ごした。
少ししてカフェに休憩に入った俺達。
妻は、ニコニコして、頼んだシナモンラテを手にしている。
「どうしたの?ご機嫌だね」
俺が声をかけると、
「そりゃ、そうだよ、久しぶりのあなたとのデートなんだもん」
微笑みかけられ、俺の鼓動も早まる。
「結婚前のこと、思い出しちゃった。学生時代は、沢山デートしたよね」
そう話すとシナモンラテを、口に含む妻。
「そうだな。学生時代は、暇があれば会いたかったし、会えたしな」
俺が言うと、不機嫌な顔になる妻。
「えっ?今は会いたくないの?」
妻の膨れている顔も可愛いな、と笑顔でこたえる。
「そんな訳ないだろ。今日君と過ごせて俺は世界一幸せだと思ってるよ」
俺の言葉に、妻はとたんに機嫌を直して、
「えへへーそっかー」
と両頬に手を当てて照れているようだった。
その姿を見ていたら、俺の口から自然に言葉がこぼれる。
「もう、帰らない?」
「ええ〜なんで?」
妻の膨れ顔の頬に手を伸ばす。
「早く二人きりになりたいから」
俺の眼差しを受けて、妻は赤面する。
「あ、う・・・分かった」
そうして、楽しいデートを楽しんだ俺達は、今度はお家でのんびりクリスマスの1日を過ごすことに決めたのだった。
「ごめんね!仕事遅くなる」
付き合ってる彼にそんな電話をもらったクリスマスイブ。
私は早めに仕事を切り上げた時間を持て余して、ご馳走を並べた机を見回してはため息をついた。
彼が忙しい職種なのは分かってる。
デートもなかなか都合が合わないし、会えても長くは一緒にいられない。
そんな彼が、イブこそ一緒にいよう、と言ってくれたから・・・
期待しちゃったんだろうなぁ、と、自分の落ち込み方に苦笑してしまう。
彼とお祝い出来るようにシャンパンもケーキも、プレゼントも用意している。
「さすがに、きついなぁ」
机に伏せてつぶやく。
彼が今日来れるか分からないって必死に謝ってた。
仕事のトラブルだって・・・
トラブルなら、仕方ないよね・・・
でも会いたかった・・・
ふっと目を覚ます。
私はあのまま眠ってしまったみたいだった。
時計を確認すると23時50 分。
もう、来ないかぁ。ご馳走どうしよう・・・
そう思っていると・・・
ピンポーン
開けると息を弾ませた彼が立っていた。
「ごめん、待たせて。トラブル速攻で解決して、走って駆けつけてきた!!」
彼の息は乱れて、ここまで頑張って走ってきてくれたことが分かる。
「イブに、間に合ったね」
びっくりしたのと嬉しさが混ざりあった気持ちを感じながら私は彼に言葉をかける。
「うん、間に合わせた。君と過ごしたかったから。約束しただろ?」
「約束、した。守ってくれて嬉しい」
私は彼に抱きつくと、彼は私をぎゅっと抱きしめ返した。
「ずっと一日、会えるの楽しみにしてたよ」
彼の言葉に、私も笑顔になる。
「うん、私も!」
私と彼は今日あった事を話しながら食卓へ向かう。
イブという特別な日に約束を守って駆けつけてくれた彼。
私には最高のクリスマスプレゼントだと思った。
「はい、どーぞ!」
ニコッ
輝くような笑顔でプレゼントを渡された俺。
会社を出た所で後輩に呼び止められ、銀色の包みに緑のリボンのかけられたプレゼントをもらってしまったのだ。
「え、ええと?」
「メリークリスマス!」
後輩はそれだけ言うと、フワッとカールがかかった髪を翻して駅の方角へ去ってしまう。
「・・・え?」
俺はしばらくその場で固まってしまった。
(なんだこれ、なんだこれ、どーゆーこと?)
俺は帰宅後、包みを開封して困惑した。
包みの中に入っていたのは、ハンカチ。
俺が普段愛用しているブランドのものだ。
(どういう意図でこのプレゼント?これくらいなら他の社員にも渡してる可能性もあるよな。あの子、気配り上手だし)
いつも、落ち込んでいる時にさりげなく声かけしてくれたり、どこかへ行った時は必ずお土産をみんなに配ってくれたり。
そういう所、密かに好感を抱いていただけに・・・。
「お返し、したほうが、いいよな・・・」
でも、俺だけじゃなく皆に配っていたのに、俺が気合い入れたプレゼントを返したら、馬鹿にされるか?いや、あの子はそんな子じゃない・・・
思考が逡巡する。
俺は結局、その場で、決心すると女子が好きそうな雑貨屋で、バスボムセットを購入した。
次の日
「これ、昨日のお返し」
イブにもらって、クリスマスにお返しなら、まだ間に合うだろう。
後輩が退勤していった所を追いかけて、購入したプレゼントを渡す。
「あ、お返し、用意してくれたんですか?良かったのに、皆にあげてたから」
後輩の目が驚きで一瞬丸くなった後、微笑んでそう言われる。
・・・やってしまった。
なんか凄く恥ずかしくなってきた・・・
俺は顔がかぁぁと赤面するのを感じる。
「ごめっ」
言いかけると、後輩の顔が至近距離まで近づいてくる。
「なんて、嘘です。先輩にしかあげてませんよ」
俺がきょとんとした顔で見ると、後輩は小悪魔的な笑みを浮かべる。
「昨日は、私のこと沢山考えてくれましたか?」
「・・・!」
俺の図星をつかれた顔を見て、後輩はフフッと笑った。
「今日も沢山私のこと考えてくださいね」
そう言うと駅へと歩き始める後輩。
俺は腰が抜けそうになっていた・・・。
(怖い!怖い・・・!!あの子は俺の第六感が要注意と告げている・・・)
そう強く感じるのに、それと共に同じ位強い予感を感じる。
(それでも・・・それでも、今日も俺はあの子の事で頭を一杯にしてしまうんだろうな)
俺は後輩が姿を消した後もずっと、まるで恋い焦がれているかのように後輩の消えた闇の跡を見つめていた。
「はぁー」
仕事から帰宅して、カバンを放り出し、コートを脱ぎ捨てる。
それから、私はソファーに座ってクッションを抱えていた。
「失敗、しちゃったなぁ」
注文書の個数を間違えて記入しちゃった。
上司にガミガミ20分怒られて今ヘコミ中。
はぁぁぁぁ
久しぶりにやっちゃったなぁ
重いため息をついてしばらく動けない私。
彼氏に「仕事で失敗しちゃったよ〜(;_;)」とメールするとそのままグタッと手を降ろす。
お風呂、、、入らなきゃ、化粧も落として、、、
鈍った頭でようやく考えると、鉛のように重い体を動かす。
浴室に向かう途中で、足元にあるダンボールに目が入る。
実家から送られてきた野菜やお米。
その上にゆずが何個か置いてあった。
あ、ゆず湯にしよう
実家で冬になるとお母さんがやってくれてた。
お風呂を沸かしてゆずを浮かべ、ほんのり香る落ち着く匂いをまとった湯船に浸かる。
あああああ、きもちいーーーー
ふうううぅと、深いため息が出る。
体の隅々にゆずの香りが行き渡っているような気がした。
目を開くと、湯気に包まれた浴室で、湯船に浮かんでいるゆずをすくい上げる。
大丈夫
自分に言い聞かせる
大丈夫、あなたはよくやってる
ゆずの香りを吸い込むと、甘酸っぱい香りが私の気持ちを落ち着かせてくれる。
明日になればきっともっと大丈夫になる。
そう思いながら、癒やされた気持ちでお風呂を上がる。
ふと気づくとメールの着信音
「元気出せよ!俺はいつでも味方だから。週末、愚痴ならいくらでも聞くぞ」
彼のメールに思わず微笑む
「ありがとう、元気出た!」
そう返信して髪を乾かしベッドへ倒れ込む。
ほのかに香るゆずの香りがいつまでも私を優しく包んでいた。