「ごめんね!仕事遅くなる」
付き合ってる彼にそんな電話をもらったクリスマスイブ。
私は早めに仕事を切り上げた時間を持て余して、ご馳走を並べた机を見回してはため息をついた。
彼が忙しい職種なのは分かってる。
デートもなかなか都合が合わないし、会えても長くは一緒にいられない。
そんな彼が、イブこそ一緒にいよう、と言ってくれたから・・・
期待しちゃったんだろうなぁ、と、自分の落ち込み方に苦笑してしまう。
彼とお祝い出来るようにシャンパンもケーキも、プレゼントも用意している。
「さすがに、きついなぁ」
机に伏せてつぶやく。
彼が今日来れるか分からないって必死に謝ってた。
仕事のトラブルだって・・・
トラブルなら、仕方ないよね・・・
でも会いたかった・・・
ふっと目を覚ます。
私はあのまま眠ってしまったみたいだった。
時計を確認すると23時50 分。
もう、来ないかぁ。ご馳走どうしよう・・・
そう思っていると・・・
ピンポーン
開けると息を弾ませた彼が立っていた。
「ごめん、待たせて。トラブル速攻で解決して、走って駆けつけてきた!!」
彼の息は乱れて、ここまで頑張って走ってきてくれたことが分かる。
「イブに、間に合ったね」
びっくりしたのと嬉しさが混ざりあった気持ちを感じながら私は彼に言葉をかける。
「うん、間に合わせた。君と過ごしたかったから。約束しただろ?」
「約束、した。守ってくれて嬉しい」
私は彼に抱きつくと、彼は私をぎゅっと抱きしめ返した。
「ずっと一日、会えるの楽しみにしてたよ」
彼の言葉に、私も笑顔になる。
「うん、私も!」
私と彼は今日あった事を話しながら食卓へ向かう。
イブという特別な日に約束を守って駆けつけてくれた彼。
私には最高のクリスマスプレゼントだと思った。
「はい、どーぞ!」
ニコッ
輝くような笑顔でプレゼントを渡された俺。
会社を出た所で後輩に呼び止められ、銀色の包みに緑のリボンのかけられたプレゼントをもらってしまったのだ。
「え、ええと?」
「メリークリスマス!」
後輩はそれだけ言うと、フワッとカールがかかった髪を翻して駅の方角へ去ってしまう。
「・・・え?」
俺はしばらくその場で固まってしまった。
(なんだこれ、なんだこれ、どーゆーこと?)
俺は帰宅後、包みを開封して困惑した。
包みの中に入っていたのは、ハンカチ。
俺が普段愛用しているブランドのものだ。
(どういう意図でこのプレゼント?これくらいなら他の社員にも渡してる可能性もあるよな。あの子、気配り上手だし)
いつも、落ち込んでいる時にさりげなく声かけしてくれたり、どこかへ行った時は必ずお土産をみんなに配ってくれたり。
そういう所、密かに好感を抱いていただけに・・・。
「お返し、したほうが、いいよな・・・」
でも、俺だけじゃなく皆に配っていたのに、俺が気合い入れたプレゼントを返したら、馬鹿にされるか?いや、あの子はそんな子じゃない・・・
思考が逡巡する。
俺は結局、その場で、決心すると女子が好きそうな雑貨屋で、バスボムセットを購入した。
次の日
「これ、昨日のお返し」
イブにもらって、クリスマスにお返しなら、まだ間に合うだろう。
後輩が退勤していった所を追いかけて、購入したプレゼントを渡す。
「あ、お返し、用意してくれたんですか?良かったのに、皆にあげてたから」
後輩の目が驚きで一瞬丸くなった後、微笑んでそう言われる。
・・・やってしまった。
なんか凄く恥ずかしくなってきた・・・
俺は顔がかぁぁと赤面するのを感じる。
「ごめっ」
言いかけると、後輩の顔が至近距離まで近づいてくる。
「なんて、嘘です。先輩にしかあげてませんよ」
俺がきょとんとした顔で見ると、後輩は小悪魔的な笑みを浮かべる。
「昨日は、私のこと沢山考えてくれましたか?」
「・・・!」
俺の図星をつかれた顔を見て、後輩はフフッと笑った。
「今日も沢山私のこと考えてくださいね」
そう言うと駅へと歩き始める後輩。
俺は腰が抜けそうになっていた・・・。
(怖い!怖い・・・!!あの子は俺の第六感が要注意と告げている・・・)
そう強く感じるのに、それと共に同じ位強い予感を感じる。
(それでも・・・それでも、今日も俺はあの子の事で頭を一杯にしてしまうんだろうな)
俺は後輩が姿を消した後もずっと、まるで恋い焦がれているかのように後輩の消えた闇の跡を見つめていた。
「はぁー」
仕事から帰宅して、カバンを放り出し、コートを脱ぎ捨てる。
それから、私はソファーに座ってクッションを抱えていた。
「失敗、しちゃったなぁ」
注文書の個数を間違えて記入しちゃった。
上司にガミガミ20分怒られて今ヘコミ中。
はぁぁぁぁ
久しぶりにやっちゃったなぁ
重いため息をついてしばらく動けない私。
彼氏に「仕事で失敗しちゃったよ〜(;_;)」とメールするとそのままグタッと手を降ろす。
お風呂、、、入らなきゃ、化粧も落として、、、
鈍った頭でようやく考えると、鉛のように重い体を動かす。
浴室に向かう途中で、足元にあるダンボールに目が入る。
実家から送られてきた野菜やお米。
その上にゆずが何個か置いてあった。
あ、ゆず湯にしよう
実家で冬になるとお母さんがやってくれてた。
お風呂を沸かしてゆずを浮かべ、ほんのり香る落ち着く匂いをまとった湯船に浸かる。
あああああ、きもちいーーーー
ふうううぅと、深いため息が出る。
体の隅々にゆずの香りが行き渡っているような気がした。
目を開くと、湯気に包まれた浴室で、湯船に浮かんでいるゆずをすくい上げる。
大丈夫
自分に言い聞かせる
大丈夫、あなたはよくやってる
ゆずの香りを吸い込むと、甘酸っぱい香りが私の気持ちを落ち着かせてくれる。
明日になればきっともっと大丈夫になる。
そう思いながら、癒やされた気持ちでお風呂を上がる。
ふと気づくとメールの着信音
「元気出せよ!俺はいつでも味方だから。週末、愚痴ならいくらでも聞くぞ」
彼のメールに思わず微笑む
「ありがとう、元気出た!」
そう返信して髪を乾かしベッドへ倒れ込む。
ほのかに香るゆずの香りがいつまでも私を優しく包んでいた。
「イカロスが大空に飛び立った気持ち、わかるなぁ」
私が空を見上げながら言うと、隣で彼氏が不思議そうな声で問いかける。
「どうして?」
「だって、こんなに広い空の向こうに何があるか気になるよ、ずっとずっと空の果てに行ってみたくなる」
私は手を日光を遮るようにおでこにあてながら綺麗なコバルトブルーの果てしない空を見渡す。
「イカロスは墜落したけど?」
隣の彼氏の意地悪な返答にめげずに話す。
「それは、そうだけどさ、その気持ちは誰にも邪魔できないでしょ?人の想いは誰にも止められないし自由なんだよ」
私の言葉に彼氏は沈黙した。
あれ?怒っちゃったかな?
そう思っていると、不意にぎゅっと抱きしめられる。
「行っちゃだめだよ」
彼氏の低い声が耳元で響く。
私は彼氏を抱きしめ返した。
「当たり前でしょ、もー本気にして」
私は苦笑しながらポンポンと彼氏の頭を軽く撫でた。
「だって、君って掴まえてないとどっか行っちゃいそうで」
彼の言葉が少し不安げに聞こえる。
彼の頭越しに広い広い大空が見える。
ああ、どうして空のこの色は私を魅了してやまないんだろう。
私はしばらくその空の青さから目が離せないでいた。
チリリリリン
自転車のベルの音にハッと後ろを見ると幼馴染の彼の姿
自転車にまたがって私に笑いかけてた
「今帰り?」
「・・・うん」
二人でなんとなく並ぶ
でも中学に入ってからはほとんど話すことがなくなった私達
きまづい沈黙が続く
二人の住むマンションが近づいてくる
「・・・寒いよな」
ポツンと話す彼に、私は同意して頷いた
「今年一番の寒さってニュースでやってたよ」
「マジで?どうりで」
少しの沈黙の後、私はひやっと頬に冷たさを感じる
「・・・雪だよ!」
空から降り注ぐ白い塊に手をかざしてはしゃぐ私
彼と良く冬の寒い日にマンションの外を走り回った事を思い出していた
「子供みてー」
彼の苦笑に
「どーせっ」
フンッとすねてみせる私
そして二人で笑い合う
まるで昔に戻ったようだった
マンションのエントランスに着いた時、彼が照れくさそうに話した
「今度どっか遊びにいかない?映画でも」
「えっ?」
ドキッとする私
「あ、いや、あまり学校でも話さなくなったじゃん?久しぶりに話せたし、また游んだりしたいなって」
頭を掻きながら話す彼の言葉を聞いて、なぜが顔が赤くなるのを感じた
「い、いいけど?」
私の言葉に彼は嬉しそうに笑顔になった
「マジで?じゃあ、また映画の内容はラインするわ」
「あ、わかった・・・」
私は彼に返事をした後、二人でエレベーターに乗る
どうしてだろう
幼馴染の彼の隣がむずがゆく感じる
彼の笑顔を思い出すと、何だか胸騒ぎがする
私は自分の胸のざわつきに?マークを抱きながら彼とエレベーターを降りてバイバイした