It's snow.
Really,snow.
lot of snow.
We really got a lot of snow.
Come on, what shall we do to play?
私には、ふたりの母が居る。
ひとりは、産みの母。
もうひとりは、育ての母。
産みの母たる実母は、今思うと、大和撫子のような人だった。
私は、朧げで僅かながら、実母の姿を憶えている。
いつも父の三歩後ろを歩き、上品な着物姿に白い日傘を差しており、
いつも優しく私の手を握り、いつも優しく私を抱きしめてくれる、
その手には白いレースの手ぶくろをしていた。
育ての母たる継母は、朝顔の斎院ような人だった。
私たち前妻の子を実子のように、継母は心から愛し寄り添ってくれた。
とても教養のある聡明な人で、いつも冷静さと敬意と一線を忘れず、
少しの言葉と多くの行いで、私たちを導いてくれた。
実母のように抱きしめてくれることは無かったけれど、
不安な時は、いつも手を握ってくれた。
その手には、いつも実母の遺した、白いレースの手ぶくろをしていた。
実母と継母、ふたりの母から沢山の愛情を与えらて育った。
この白いレースの手ぶくろは、今では黄みがかった白色と変わり、
レースの手ぶくろは、妻が大切に使ってくれている。
改めて、妻と生涯をともに出来て、本当に良かった。
妻が帰ってきたら、そう伝えようと想った。
わたしは、夫を見る。
夫との関係は、正直、微妙だ。
家の都合で、結婚した人だということも有るかもしれない。
わたしは、それを望んだから結婚したのだけれど、
夫は、どうやら違ったらしい。
折角のクリスマスでさえ、わたしたちは会わなかった。
しかし、今年は異なる。
何故か、今年は共に過ごす方がいないそうだ。
だから、わたしと過ごすらしい。
当たり障りの無い、会話と食事を済ませる。
もう子供は、いる。
だから、夫に用は無い。
養育費も頂いている、子供にも丁寧に父として接してくれる。
ならば、もうこれ以上は望まない。
何もかも欲する妻では、在りたくない。
「じゃあね、ちゃんとごはん食べるのよ。」
わたしは、夫にそう伝える。
「うん、ちゃんと食べるよ。」
夫は、わたしと目を合わせた。
いつぶりだろうか、夫の目を見たのは。
夫は、わたしの唇に口吻をした。
「またね。」
この口吻は、どんな意味があるのだろうか。
色恋に疎い、わたしには口吻の意味が分からず、
「また、来年。」
と、返した。
「おばあさま、今日は大変芳しい香りがいたしますね。」
ゆっくり、はっきりと話しかける。
「ええ、柚子の香りでしょうね。」
おばあさまも、ゆっくりとお話しを続けました。
「わたくしは、昔、柚子の花と呼ばれたものです。」
懐かしそうに目を細められました。
「ふふ、見た目は控えめでも、柚子の花は芳しい香りを持ちますでしょ。
柚子のように中身の薫る人と成りなさい。と、母は仰っていました。」
それはそれは嬉しそうに、おばあさまらお話しになられました。
「父さま、お伝えしたいことがあります。」
「なんだ。」
私は、喉の渇きを少しでも癒すために唾液を飲み込んだ。
「私は家を離れ、婿として他家に嫁ぎたいと考えています。」
指先が震えてきた。
「何故だ、己の立場を理解しているのか。」
父さまの威厳ある声が響く。
「私が家の流れを汲む、嫡男であることは理解しています。
しかし、この家を継ぐことが出来るほどの器は、私に在りません。
それ故、他家に嫁ぎたいと存じます。」
父さまの反応を伺う。
「己の器をその年で理解するか。
己の器を理解出来るほどの頭を有しながら、
他家に嫁ぐとは、何と惜しいことだろうか。
これも、きっと天の思し召しか。
良かろう、ならば他家の婿養子となり、生涯を全うせよ。」
父さまは、冷静に名残惜しいそうに私を見つめた。
「感謝致します。この御恩は、生涯忘れません。」
私は頭を深く下げた。
これが我が家の流れ、女系の始まりでした。