kiliu yoa

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12/24/2024, 3:29:52 PM

わたしは、夫を見る。

夫との関係は、正直、微妙だ。

家の都合で、結婚した人だということも有るかもしれない。

わたしは、それを望んだから結婚したのだけれど、

夫は、どうやら違ったらしい。

折角のクリスマスでさえ、わたしたちは会わなかった。

しかし、今年は異なる。

何故か、今年は共に過ごす方がいないそうだ。

だから、わたしと過ごすらしい。

当たり障りの無い、会話と食事を済ませる。

もう子供は、いる。

だから、夫に用は無い。

養育費も頂いている、子供にも丁寧に父として接してくれる。

ならば、もうこれ以上は望まない。

何もかも欲する妻では、在りたくない。

「じゃあね、ちゃんとごはん食べるのよ。」

わたしは、夫にそう伝える。

「うん、ちゃんと食べるよ。」

夫は、わたしと目を合わせた。

いつぶりだろうか、夫の目を見たのは。

夫は、わたしの唇に口吻をした。

「またね。」

この口吻は、どんな意味があるのだろうか。

色恋に疎い、わたしには口吻の意味が分からず、

「また、来年。」

と、返した。




12/22/2024, 2:06:31 PM

「おばあさま、今日は大変芳しい香りがいたしますね。」

ゆっくり、はっきりと話しかける。

「ええ、柚子の香りでしょうね。」

おばあさまも、ゆっくりとお話しを続けました。

「わたくしは、昔、柚子の花と呼ばれたものです。」

懐かしそうに目を細められました。

「ふふ、見た目は控えめでも、柚子の花は芳しい香りを持ちますでしょ。

 柚子のように中身の薫る人と成りなさい。と、母は仰っていました。」

それはそれは嬉しそうに、おばあさまらお話しになられました。



 

12/20/2024, 7:09:36 AM

「父さま、お伝えしたいことがあります。」

「なんだ。」

私は、喉の渇きを少しでも癒すために唾液を飲み込んだ。

「私は家を離れ、婿として他家に嫁ぎたいと考えています。」

指先が震えてきた。

「何故だ、己の立場を理解しているのか。」

父さまの威厳ある声が響く。

「私が家の流れを汲む、嫡男であることは理解しています。

 しかし、この家を継ぐことが出来るほどの器は、私に在りません。

 それ故、他家に嫁ぎたいと存じます。」

父さまの反応を伺う。

「己の器をその年で理解するか。

 己の器を理解出来るほどの頭を有しながら、

 他家に嫁ぐとは、何と惜しいことだろうか。

 これも、きっと天の思し召しか。

 良かろう、ならば他家の婿養子となり、生涯を全うせよ。」

父さまは、冷静に名残惜しいそうに私を見つめた。

「感謝致します。この御恩は、生涯忘れません。」

私は頭を深く下げた。



これが我が家の流れ、女系の始まりでした。


 

 




12/16/2024, 12:10:54 AM

あるところに、雪柳の君と呼ばれた、

高貴な血を引く、さほど家格の高くない生まれの女性がおりました。

彼女の事を良く云えば、凛々しく聡明な御方、

悪く云えば、手厳しく気強い御方でした。

彼女は、成人して間もなく、かつての財閥家の男性と婚約。

大学院を卒業後、弁護士となり、かの男性と婚姻しました。

彼女の手腕により、わが家を後に再興させるに至る、

きっかけと基盤を作ったと伝わります。

現在において、このような形容は好ましく無いとは思いますが、

女性でありながら、わが家を再興させるに至る、

きっかけと基盤をお作りになった功績は、

何時の世においても、素晴らしいものだと思われるでしょう。


それが、私の祖母だと言うのだから驚きです。

私のおばあちゃんは、今では普通のおばあちゃんです。

私を含め、孫たちには皆優しくて、いつも温かく迎えてくれて、

たくさんの食べ物を勧めてきます。

旅行に行く時のお土産や誕生日プレゼントを贈るときなど、

私が「何が良い?」と聞くと、いつも決まってこう言います。

「お茶っ葉(おちゃっぱ)が良いです。」簡潔に丁寧に応えてくれます。

私は、その誰に対しても丁寧さを忘れないところ、

そのいつも迷いの無い簡潔な回答が大好きで、

分かっていても、欲しいもの尋ねる際は必ず聞きます。

例え、孫の前でもデレない、自慢のおばあちゃんです。

いつも、アフタヌーンティーにお友達を招待して、老後を愉しんでいます。

最近では、大人になった孫たちを一人ひとり誘ってくれます。

今日、私も初めて誘われました。

おばあちゃんのアフタヌーンティーに、

ひとりで誘われると大人になったと認められたような気がします。

本当に嬉しく、愉しみです。

それでは、また、お会いしましょう。

最後まで、お付き合い頂き、ありがとうございました。
                             かしこ











12/14/2024, 10:16:01 AM

「かすみさん、少しだけ構って。」

そう言って、彼は少しだけ微笑んだ。

その姿はわが夫ながら、あまりに可愛く、愛おしい。

「いいですよ。」

ソファに座ると、彼はわたしの太ももに頭を乗せる。

「珍しいこともあるものですね。」

「たまには、自分の奥さんに甘えたくなった。」

彼には、よそに多くの女性がいる。

それを了承した上で、わたしは彼とお見合いで結婚したから、

わたしに甘えるなんて思いもしなかった。

普段は、多分よその女性に甘えているはず。

だから、わたしに甘えるなんて初めてだった。

「まるで、源氏の君と大殿の君の夫婦円満な描写みたいですね。」

「うーん、確かに似てるかもね。

 でも、ちょっとその例えは哀しいかな。」

「あら、どうしてですか。」

「だって、そのあと大殿の君は亡くなるから。

 かすみさんが亡くなる、フラグみたい。」

「まあ、そんな風にわたしのことを想って下さっていたのですね。」

「僕は多くの女性と恋するけど、僕の妻はかすみさん唯一人だよ。」

「ふふ、嬉しいことを言って下さいますね。」

わたしは、彼の黒く美しい短髪を撫でた。

 




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