「かすみさん、少しだけ構って。」
そう言って、彼は少しだけ微笑んだ。
その姿はわが夫ながら、あまりに可愛く、愛おしい。
「いいですよ。」
ソファに座ると、彼はわたしの太ももに頭を乗せる。
「珍しいこともあるものですね。」
「たまには、自分の奥さんに甘えたくなった。」
彼には、よそに多くの女性がいる。
それを了承した上で、わたしは彼とお見合いで結婚したから、
わたしに甘えるなんて思いもしなかった。
普段は、多分よその女性に甘えているはず。
だから、わたしに甘えるなんて初めてだった。
「まるで、源氏の君と大殿の君の夫婦円満な描写みたいですね。」
「うーん、確かに似てるかもね。
でも、ちょっとその例えは哀しいかな。」
「あら、どうしてですか。」
「だって、そのあと大殿の君は亡くなるから。
かすみさんが亡くなる、フラグみたい。」
「まあ、そんな風にわたしのことを想って下さっていたのですね。」
「僕は多くの女性と恋するけど、僕の妻はかすみさん唯一人だよ。」
「ふふ、嬉しいことを言って下さいますね。」
わたしは、彼の黒く美しい短髪を撫でた。
12/14/2024, 10:16:01 AM