kiliu yoa

Open App
8/1/2024, 4:00:11 PM

晴れ渡った、麗らかな日。

貴男とわたしは、結婚届けに署名し、結婚した。


わたしが貴男と結婚した理由は、家筋が良かったから。

そして、わたしの家の遠縁にあたる氏族だったから。

両家の家格の釣り合いのとれた、普通の結婚。

『女の幸せは、結婚すること。』

祖母や母から何度も聞かされてきた、

この言葉は、わたしの人生においては正しい。

正しく、その通りだった。


わたしは、貴男と結婚して『想う』という満ち足りる心を知った。

わたしは、貴男と結婚して『安心』という余裕ができた。

わたしは、貴男と結婚して『楽』という穏和な日々を得た。


しかし、全ての人々が求めるものでは無いとも感じた。


幸せとは、自分が求める時を過ごすこと。


その時とは、人の数だけ多様に存在するように思う。


だから、わたしはこの言葉を娘たちに掛けない。


幸せとは人の数だけ多様であり、自分で決めるものだと知って欲しいから。










7/28/2024, 11:34:45 PM

舞の奉納。

沢山の楽器から音が奏でられ、私は音に合わせて舞う。

全身は力を抜き、感覚を研ぎ澄ませる。

舞は靭やかで、柔らかい動きを意識するが、

私は男なので、どうしても女性の舞より硬くなる。

しかし、同時に私の舞は力強く、冴えがある。


それぞれの舞に良さがある。


しゃらしゃらと鈴を鳴らしながら、舞う。

  ひらひらと扇子を反しながら、舞う。

  ふわふわと羽衣を翻しながら、舞う。


舞を奉納する時、いつも感じる。

まるで、私は人間では無くなったようだと。


不思議と緊張せず、寧ろ、落ち着く。

沢山の奏でられた、美しい音を聴き続けたくなる。

ゆっくりと時が進み、ずっと舞っていたくなる。

ずっと、此処に居たくなる。


夢見心地とは、きっとこの事を言うのだろう。

この時が、永遠に続けば良いのに。


















7/26/2024, 4:05:19 PM

私の今の役目は、戦争を起こさせないこと。または、仲裁すること。

要は外交。国家間の外交とは異なる、個人間の外交。

『調停者』とでも言うのだろうか。

それが、我が家の代々の務めだった。

何時の頃からか、始めていた『調停者』。

記録も曖昧なほど昔に、先祖が流れで始めた務め。

その務めを代々受け継ぎ、我らは努めてきた。


もしかしたら、今の世にはもう必要の無い務めなのかも知れない。


しかし、私は『調停者』という務めを辞めない。

何故なら、私は知っている。我が家の人間なら、必ず教わる。

『正解とは、百年後の世の人間が決めること。

 今を生きる人間が決めることでは無い。』

だから、私は続ける。この務めを果たす。

今、私に出来る最善を尽くす。

成果など全く挙げられなくとも、この務めを放棄する訳にはいかない。

先祖から受け継いたものを、後世に伝えるために歴史を紡ぎ続ける。

この『調停者』としての務めを、次の世代に繋げる。


それが今の私に出来る、唯一のこと。

だから、私はこの『調停者』という役を務める。

この『調停者』という務めは、私が後世のために出来る、

最善で在ることを願い、祈る。













7/26/2024, 3:59:08 AM

いつも通り、地下鉄のホームから電車に乗る。

人混みに紛れながら、誤って肩を相手に当ててしまうふりをする。

その隙に、掏(す)る。

それが、俺の日常。


電車に乗ると、すぐにターゲットを見つけた。

身なりの良い、アジア人の青年。

革製のバッグ、ホワイトのシャツに、ネイビーのスリーピーススーツ、

ブルーのネクタイを締め、袖の裾からはシルバーの腕時計が覗いていた。

彼の服装は、明らかに周囲から浮いていた。


電車の中では、決して掏らない。

ターゲットが降りた駅で掏る。

なぜなら、降りた時に気が抜けるからだ。

大丈夫だったと…、掏られなかったと。

警戒が緩む、その時を狙う。


ターゲットが電車を降りる。

俺は、彼の後ろを歩く。

俺は、いつものようにターゲットの肩の当たったふりをする。

その隙に、財布を掏ろうとした。

バッグから手を抜く瞬間、腕を掴まれた。

そこからは何が起こったか、分からない。

視界が回転し、気がついたら、彼は俺を馬乗りにして、

顎にピストルを突き付けられていた。

『殺される。』と思った。

そして、彼は電話していた。

アナウンスからして、救急番号に電話を掛けていた。

そこから、記憶が無い。



気づいたら、病院のベッドの上だった。

そして、ベッドの隣には彼が居た。

「すみませんでした。」と、彼は謝ってきた。

何故、謝られているのだろうか。

悪いのは、掏る側だろう。

呆然としていると、札束と連絡先を渡された。

「すみません。航空券の関係で、もう病院を出なくては行けません。

 何かありましたら、この連絡先に電話して下さい。」

彼はそう言うと、足早に去っていった。


俺、いや、私は彼を見誤っていた。

身なりからして、裕福だから安全な籠の中で育った鳥だと、思い込んでいた。

否、彼は富裕層で貴族だ。籠の鳥に間違いは、無い。

しかし、何か感じた。

金持ち特有の余裕と品の良さに相反するような、

異質なものをピストルを向けられた、一瞬感じた。

容易く人を殺せる側、特有の言葉表せられないほどの何かを感じた。

関わってはならない、本能的に感じるほどの恐怖に駆られた。


彼は、何者なのだろう。

一体、どんな風に生きれば、ああ成るのだろうか。











7/24/2024, 2:31:06 PM

草原に寝そべる。

辺りには何も無く、麗らかな風が年中吹く。

今日は、晴天。

ここでは、公爵家の当主でも、王の従兄弟でも、富豪でも無い、

ありのままの自分で居られる。

ここでは、華美に着飾らなくても、厳しい作法を徹底しなくても良い。

ここだけは、自分の好きな格好、自分の好きな姿勢で居られる。

そよ風が私の頬を優しく触れ、草花は私を癒やしてくれる。


いつも通り、私は草原に寝そべり、顔に軽い読み物を乗せる。

ものの数十秒で、顔に乗せた軽い読み物は浮き上がった。

いや、持ち上げられたのだ。

眩しくて、私は目を細める。

「よぉ。」

低い青年の声がした。私は、この声の主を知っていた。

「王よ、何をするのですか。」

「ここでは、王と呼ぶな。休暇くらい、王の冠を取らせろ。」

「分かったよ、ルイ。」

「おっ、やっと俺の名前を呼んだな。それで良い。

 従兄弟のおまえくらい、俺の名前を呼んでくれ。」

「で、何しに来たの?」

「ランチ出来たってさ。」

「メインは?」

「チキンのステーキ。」

「了解。じゃあ、食べようかな。」

私は、起き上がる。

「カミーユ、おまえいい加減、偏食治せよ。」

「うるさいなー、治そうと思って治るもんじゃ無いんだよ。」

私は立ち上がり、ルイと一緒に別荘に戻った。











Next