kiliu yoa

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7/24/2024, 2:31:06 PM

草原に寝そべる。

辺りには何も無く、麗らかな風が年中吹く。

今日は、晴天。

ここでは、公爵家の当主でも、王の従兄弟でも、富豪でも無い、

ありのままの自分で居られる。

ここでは、華美に着飾らなくても、厳しい作法を徹底しなくても良い。

ここだけは、自分の好きな格好、自分の好きな姿勢で居られる。

そよ風が私の頬を優しく触れ、草花は私を癒やしてくれる。


いつも通り、私は草原に寝そべり、顔に軽い読み物を乗せる。

ものの数十秒で、顔に乗せた軽い読み物は浮き上がった。

いや、持ち上げられたのだ。

眩しくて、私は目を細める。

「よぉ。」

低い青年の声がした。私は、この声の主を知っていた。

「王よ、何をするのですか。」

「ここでは、王と呼ぶな。休暇くらい、王の冠を取らせろ。」

「分かったよ、ルイ。」

「おっ、やっと俺の名前を呼んだな。それで良い。

 従兄弟のおまえくらい、俺の名前を呼んでくれ。」

「で、何しに来たの?」

「ランチ出来たってさ。」

「メインは?」

「チキンのステーキ。」

「了解。じゃあ、食べようかな。」

私は、起き上がる。

「カミーユ、おまえいい加減、偏食治せよ。」

「うるさいなー、治そうと思って治るもんじゃ無いんだよ。」

私は立ち上がり、ルイと一緒に別荘に戻った。











7/23/2024, 3:52:13 PM

光沢のある白いシャツに、紺色の小紋柄のネクタイ、

紺色の襟なしのベストの上には、紺色の無地のジャケット。

髪型は、上品なオールバック。

色白い端正な顔立ち、青年だった。


私が齢十八頃、親の薦めで半ば強引にお見合いをさせられた。

相手の家は、私の家よりも高貴な家格と血筋を持つ家で、

正直、私の家とは不釣り合いの見合いの席だった。

「很高兴见到你,我叫蔡 礼静。
(初めまして、ツァイ・リージンと申します。)」

彼は、澄んだ声で静かに名乗った。

こんなに穏やかな声の男性は初めてで、私は内心とても驚いていた。

そして、同時に『ああ、この人は本当に優しい人なのだな。』と、直感した。

「我也很高兴见到你,我叫胡 思涵。
(こちらこそ、初めまして、フー・スーハンと申します。)」

この方に自然と合わせて、私は優しい声で名乗った。

途切れ、途切れの会話ではあったけれど、彼との会話は心地良かった。

私は漢詩が好きだと言うと、彼も漢詩が好きだと教えてくれた。

流れで、庭園に咲いていた梅の花で、互いに漢詩を詠んだ。

彼は、私の詠んだ漢詩を絶賛してくれて、本当に嬉しかった。

この時、初めて漢詩が得意で良かったと思えた。


その後、彼との見合い話は順調に進み、今は彼と夫婦となった。

今でも彼は昔と変わらず、優しく穏やかで静かでありながら、

今では、揺るがぬ軸が在るように思う。

そんな夫のことが、堪らなく愛おしい。

いつも、ありがとう。そして、あなたを誰よりも愛しているわ。

                       あなたを愛する妻より














7/1/2024, 2:19:09 PM

窓を開けようとした時、一瞬だけ小さく白い光が見えた。

窓を開けた瞬間、私の左肩は紅く染まった。


ゆっくりと血飛沫が空中に舞い、遅れて強烈な痛みが走る。

私は、衝撃で後ろに倒れる最中であった。


噫々、此処が私の最期の場所か。

悪くない、むしろ良いくらいだ。

生家で死ねるなんて、夢にも思わなかった。

まだ、実感が湧かない。

幾度も死際を潜り抜けてきたから…だろうか。

いつもなら、逃げ切れると確信する。

しかし、今回は違う確信が頭を過ぎる。


『死』の文字が、何度も頭を過ぎる。

熱かった左肩は、徐々に冷たく、左腕の感覚は無に等しい。


ガチャ…、玄関のドアが開いた音が聞こえる。

トン…、トン…、トン…。倒れている私に、足音が近づいて来る。

カチャ…。ピストルのロックを外す音が、左から聞こえた。

「さらば、哀れな者よ。」男、否、青年の冷たい声が聞こえた。

まだ若いのに、その腕前か。

なんと、世界は不平等なのだろう。

バン…。ピストルを発砲した音を最期に、私の意識は事切れた。












6/26/2024, 11:54:48 PM

品の良い、しかし、何か蠢くものを感じる微笑みを貴女は浮かべる。

美しく、儚げで、聡く、穏やかな貴女。

貴女のような人を、きっと妖艶というのだろう。


貴女が私のもとを去ってからは、すべてが灰色だ。

貴女さえ居れば、もう他には何もいらない。

貴女が望むものなら、何だって叶えよう。

私のすべてを貴女にだったら、捧げていい。

だから、どうか、戻ってきて欲しい、私のもとに。


純白の肌、月白の髪、紫翠の眼を持つ、そよ風みたいな貴女。

キャペリンとワンピースを好み、とても似合っていた貴女。


生涯で貴女ほど、愛した人は他に居ない。

今でも忘れられない、否、決して忘れたくない。

私の初恋の人。


「さようなら、わたしが最も愛した人よ。」

貴女はそう言って、私のもとを去っていった。









6/18/2024, 4:19:53 PM

「なんと、哀れな。」

青年は、不敵に笑う。

青年の目線の先には、肥え太った男がいた。

肥え太った男は欲に目が眩み、青年の誘いに魅せられて、たった今失脚した。

肥え太った男は、何やら喚き立てている。

しかし、青年に肥え太った男の喚きは届かない。


肥え太った男は、知らなかった。

欲に目が眩む、恐ろしさを。

他人を蔑ろにした、代償を。


興味が無ければ、人は居ないも同然であることを。




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