櫻の散り際の見事な花吹雪。
この散り際の美しさに敵う花など無いように、私は思う。
それほどまでに、美しい。
そして、その美しさには、晴れ渡る青い空が欠かせない。
晴れ渡る春の空があってこそ、櫻の花吹雪は美しさは際立つように感じた。
わたしは、むかしから恋愛がよく分からなかった。
自分自身の気持ちを聞かれることも、苦手だった。
考えや思ったことは有るのだが、それに感情が乗らないのだと思う。
だからか、『浮気とか不倫は、いや!絶対に無理!』
だと言っている人間の気持ちが、よく分からなかった。
人間は、ゴリラとチンパンジーの間の生物で
ゴリラは一夫多妻制、チンパンジーは乱婚、と、わたしは聞いた。
ならば、不倫や浮気は仕方ない。と、わたしは思う。
そんな常識外れのわたしの夫は、とんでもなく女遊びが好きだった。
お見合いの席で、
「結婚後も、あなた以外の女の人と遊んで良い?」
と、言う程に……。
そんな彼に、わたしはこう返した。
「別に良いよ。わたしは、むかしから恋愛感情が分からないから。
わたしを束縛しないなら、不倫や浮気も大歓迎する。
でも、約束して欲しいことがあるの。」
彼は首を傾げて、微笑んだ。
「どんなこと?」
わたしは、応えた。
「わたしも、相手の女の人も、大切にすること。約束できる?」
彼は、先程と異なり、真剣な表情と声で言った。
「うん、約束するよ。あなたも、他の女の人も、大切にする。」
あれから色々あったけど、夫との関係は良好で、
ずっと約束を守ってくれている。
わたしは、今も幸せな生活を送っています。
こんな幸せな人生を歩ませてくれた夫には、感謝しかない。
改めて、今日は夫に感謝を伝えてみようと思う。
過ぎれば、どんなに長い月日も……本当にあっと言う間だ。
私の家は、彼の家に仕えて、もう2245年目になるように。
そして、私の家は今尚、家を、一族を保ち続けている。
正直、今の時代には家や一族など必要無い。
貴族制は廃れた上、この国では、みな等しく同じ教育が受ける権利がある。
身分問わず、好きな職に就く権利が保証されている。
だから、正直、家は必要無い。
では、何故、家や一族を保ち続けているのだろう。
と、疑問に思うだろう。
それは、簡単だ。
唯、昔話がしたいからだ。
家を保ち続けるのも、
古くからの友人を亡くしてしまうようで、寂しいからだ。
過去を忘れられてしまったら、それはもう無かったことになってしまう。
それが、何よりも恐ろしく、怖いのだ。
あの時、共に乗り越えた困難の記憶も、
あの時、共に分かち合った記憶も、
忘れ去られてしまったら、もう元には戻れなくなる。
だから、私の家は時を紡ぐ。
私にとっての時を紡ぐとは、先祖代々の記憶を語り継ぐこと。
忘れてしまわぬように、無かったことにならぬように、
長年、紡いできた糸を解けてしまわぬように、
私の家と彼の家、他の縁ある家々は、
今日も又、家を保ち続ける為、互いに助け合い、努めている。
「もう、貴方とはお別れです。」
そう、彼女から告げられた。
私は、その言葉に何も思わなかった。
私自身、薄々感じていたから。
「そうですか。分かりました。今迄、有難う御座いました。」
私は、彼女に頭を下げた。
「こちらこそ、今まで、ありがとうございました。」
そう言って、彼女も頭を下げた。
「私自身、もう別れだと感じていましたから。」
微笑もうとしたけど、少しぎこちなくなった。
「では、さようなら。」
そう言って、彼女は私に背を向け、去っていった。
最後の最後まで彼女は、涙の一滴も見せず、颯爽としていた。
きっと、こういう彼女の姿に……私は惚れ込んだのだろう。
一筋の涙が流れる、私を見ぬように夕日は……もう沈んでいた。
彼は、いつも私の先を歩む人だった。
彼の家に私の家は、代々仕えてきて実感する。
彼らは、天才だということに。
その所以は、明確だ。
いつの時代も彼らは、正気を保ち続け、飄々としていた。
いつの時代も彼らは、俯瞰的で合理的で、冷静な判断を瞬時に下した。
だから、私の代まで家は続いてきた。
正直、悔しくて羨ましかった。
その一種の人間離れした、天賦の才が欲しかった。
私も、いつの時代も正気を保ち続けたかった。
しかし、それは叶わない。
何故なら、彼と私は、他人なのだから。
至極、当然のことだと思うだろう。
だが、私は気が付かなかったのだ。
何せ、彼と私は、対極的な人間なのだから。
対極な人間……だからこそ、互いの欠点を補うことが出来た。
だからこそ、彼の家と私の家は、現在まで続いたのだ。