夢とは、美しい。
夢とは、その人自身の核を現すもののように思う。
それは、個々がそれぞれ描く、多くの悩みと多くの幸せの結晶。
さあ、今日はどんな夢をみるのだろうか。
もうすぐ、聴取が始まる。
我(わたし)の主君が謀反を起こしたからだ。
我ほど、最悪な腹心はいないだろう。
主君の無実を信じる事も、主君を庇い弁明することも、
我は、何もしなかった。
否、何も出来なかった。
それは、悪手だと感じたからだ。
だから、我はこう述べた。
「我は、我ら腹心は…何も知らなかった。」
例え、主君を侮辱されても反論せず、こう述べることしか……、
その手法しか、我ら腹心が生き残る道は無かった。
「見事に、憚られたな。」
我(わたし)は、左手で目元を覆い、苦笑した。
皆、呆然と立ちすくむ。
それは、あまりにも突然訪れた。
「王弟が謀反を起こし、国が派遣した討伐軍により、敗死した。
謀反に加担したものは、皆、斬死された。」と、いうものだった。
王弟、それは……我ら腹心が忠義を尽くしてきた、主君だった。
主君が謀反を起こそうと考えている事すら、我ら腹心は知らなかった。
我ら腹心から見た主君は、そんな……お方では無かった。
兄君たる王を支えるため、日々、努力を重ねられていた方だった。
政敵など、両手では数え切れない。
しかし、裏で糸を引く人物には、検討がついた。
そして、主君は……その人物の政の手腕で敗れたのだった。
「きれいな顔ね。そして、冷たい目は彼を彷彿とさせる。」
貴女は、私の顔の輪郭を両手で覆い、優しく微笑みながら、
私と一瞬、目を合わせてそう言った。
「こいつで間違えないか?」
鋭い目つきの男は、ぶっきら棒に貴女に問う。
「ええ、彼で間違えない。」
貴女は微笑み、満足そうに青年に答えた。
「金は?」
「いつも通りよ。」
「分かった。」
そういうと、男はこの場を去った。
再度、貴女は私を見て言った。
「今日から貴男は、わたしの夫になるの。」
ふと、目が覚める。
昔の記憶の夢か…。
あの頃は、まだ私の方が背が低かった。
今も変わらぬ、穏やかで美しい、魅惑な貴女。
今日も、貴女は私のとなりにいる。
初めて、貴女様にお会いした時のことは、今でも鮮明に憶えています。
その日は、とても麗らかで、
日陰はまだ肌寒く、日なたはもう暖かい日でした。
そして、貴女様の門出を祝うように、
我が家の庭にある、花蘇芳が見事に咲き誇っていました。
正直、私は不安でありました。
なにせ、私は卑賤の生まれであり、本来の婚約者では無かったからです。
貴女様の兄君の性分を、私自身よく存じて居りましたから、
貴女様の本来の婚約を勝手に破棄し、貴女様の意に添わず、
私と勝手に婚約させたことが、容易に想像できたからです。
当時の婚姻とは家の為にするものでしたから、
こういうことが罷り通る時代でした。
婚姻の儀の後、堅い面持ちの貴女様に、私はお声を掛けました。
「おなごだからと、妻だからと、私に無理に付き従わないで欲しい。
互いに手を取り合い、支え合い、生きて行きたい。」と。
すると、貴女様は涙を流された。
「なにか、貴女様を傷付けることを述べたのなら、申し訳ありません。」
急いで、絹の手ぬぐいを差し出す。
柄にもなく、内心、かなり動揺してしまいました。
貴女様は少し涙ぐみながら、ゆっくりと仰れたのです。
「いいえ、違います。傷付いた訳では、ありません。
兄…いえ、当主からは貴男のことを何も聞かされませんでしたから、
長らく、不安だったのです。
今の貴男の言葉をお聞きして、安心してしまって……。」
「そうだったのですね。それなら、良かった。」
この時から、私は貴女様のことを知りたいと想った。