kiliu yoa

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3/13/2024, 10:55:47 AM

「きれいな顔ね。そして、冷たい目は彼を彷彿とさせる。」

貴女は、私の顔の輪郭を両手で覆い、優しく微笑みながら、

私と一瞬、目を合わせてそう言った。

「こいつで間違えないか?」

鋭い目つきの男は、ぶっきら棒に貴女に問う。

「ええ、彼で間違えない。」

貴女は微笑み、満足そうに青年に答えた。

「金は?」

「いつも通りよ。」

「分かった。」

そういうと、男はこの場を去った。

再度、貴女は私を見て言った。

「今日から貴男は、わたしの夫になるの。」


ふと、目が覚める。

昔の記憶の夢か…。

あの頃は、まだ私の方が背が低かった。

今も変わらぬ、穏やかで美しい、魅惑な貴女。

今日も、貴女は私のとなりにいる。







3/12/2024, 2:31:42 PM

初めて、貴女様にお会いした時のことは、今でも鮮明に憶えています。


その日は、とても麗らかで、

日陰はまだ肌寒く、日なたはもう暖かい日でした。

そして、貴女様の門出を祝うように、

我が家の庭にある、花蘇芳が見事に咲き誇っていました。


正直、私は不安でありました。

なにせ、私は卑賤の生まれであり、本来の婚約者では無かったからです。

貴女様の兄君の性分を、私自身よく存じて居りましたから、

貴女様の本来の婚約を勝手に破棄し、貴女様の意に添わず、

私と勝手に婚約させたことが、容易に想像できたからです。

当時の婚姻とは家の為にするものでしたから、

こういうことが罷り通る時代でした。


婚姻の儀の後、堅い面持ちの貴女様に、私はお声を掛けました。

「おなごだからと、妻だからと、私に無理に付き従わないで欲しい。

 互いに手を取り合い、支え合い、生きて行きたい。」と。

すると、貴女様は涙を流された。

「なにか、貴女様を傷付けることを述べたのなら、申し訳ありません。」

急いで、絹の手ぬぐいを差し出す。

柄にもなく、内心、かなり動揺してしまいました。


貴女様は少し涙ぐみながら、ゆっくりと仰れたのです。

「いいえ、違います。傷付いた訳では、ありません。

 兄…いえ、当主からは貴男のことを何も聞かされませんでしたから、

 長らく、不安だったのです。

 今の貴男の言葉をお聞きして、安心してしまって……。」

「そうだったのですね。それなら、良かった。」


この時から、私は貴女様のことを知りたいと想った。


 


 

 







3/10/2024, 12:33:53 PM

我は、戦の無いな世を短い期間だが知っている。

戦乱の世から、戦乱の無い世に移ったが民は皆、怯えていた。

むしろ、戦乱の世の方が……活き活きしていたように思う。

しかし、戦の無い世も永くは続かず、この国は民によって滅ぼされた。

そして、今、新しい国が出来ようとしている。


我は、かつて滅びた国の王に仕えていた。

王は、痛みを知っていた。

だから、この戦乱の世を終わらせ、戦乱の無い世を志し、

その不可能と云われた、偉業を成した。

しかし、我らは気が付かなかった。

否、違う。

我らは、民の顔を全く見ていなかった。

民在ってこそ、我らが在ることを忘れていた。

そして、我らは何のために平和な世を望んだか……忘れしまっていた。

民の痛みも苦しみも、これ以上長引かせぬ為だったことを……。

これから先、何百年と戦乱の世を続けない為だったことを……。



だから、我らの国は滅んだのだ。

その事実を新しい王に伝える為、これ以上民を苦しめぬ為、

今日も、我の命を掛け、新しい王の御前に立った。








3/9/2024, 10:22:36 AM

私には、五人の主君が居る。

一人目は、西の果てにある国の王弟。

二人目は、権謀術数に長けた文官。

三人目は、智と猛を持ち合わせた老将。

四人目は、大王の偉業に最も貢献した名将。

五人目は、海を渡った東の果てにある島国の御子。


皆、もう亡くなった。

一人目の主君は、兄たる大王を支える為にいつも努められていた。

しかし、その将来の有望さから政敵に冤罪をかけられ、

戦地で殺されたそうだ。

まだ齢十七の若さであった。

あの時ほど無力を覚えたことは、生涯……無かった。


二人目の主君は、一人目の主君の、王弟の腹心であり、

兄の主君でもあり、私の才を見い出した方でもあった。

策略で彼の右に出る者を、私は知らない。

今思うに、王弟の死が彼の才を急激に開花させた。

彼は、いつも飄々として冷徹だったが寛容で、

下々の者を決して軽んじなかった。


三人目の主君は、多くの部下に慕われていた老将だった。

病に伏したと聞いていたが、頭脳も身体も衰えを全く感じなかった。

新参者の私を快く受け入れ、軍法から武術まで細かく指導して貰った。

寝台に伏し亡くなる直前まで、よく笑い、よく食べ、よく慕われていた。


四人目の主君は、人間を熟知し、戦の何手先までも見通す方だった。

そして、私が最も長くお仕えした方だった。

どの戦の戦法も隙が無く、何手先までも計算され尽くされ、

的確な指示に、熟練した部下たちの強さ、どこを取っても弱点が無かった。

その中で私は、間者として少しずつ功を重ねた。

やがて、彼のご子息の指南役として仕え、戦場でも仕えるようになった。

彼には、数え切れないほどの経験と恩を受けた。

感謝しても、しきれない。


五人目の主君は、幼き頃から遊び相手として、お側に居た。

本来なら、初めから彼に仕えるはずだった。

しかし、父が勢力争いに敗れ、失脚した。

父と連なる私たち家族は国を追われ、

海を渡った先にあるという、大陸の国に行こうとした。

しかし、生き残ったのは姉と兄と私だけだった。

姉が舞妓となり、兄と私はその店の下働きをさせてもらっていた。

そして、姉はある貴族の青年に身請けされ、

兄と私を養子にしてくれたのだ。

貴族としての一通りの教育を施してもらった。

そこからは先ほど記した通り、一人目の主君に仕えetc……。

四人目の主君が亡った後、私は故郷に海を渡り命がけの帰路に立った。

当時の私の歳は、齢三十。

故郷では、もうすぐ死ぬ年齢だった。

それでも、彼に逢いたかった。

幼き頃に交わした……彼との約束を守りたかった。

ひと目見て、彼だと分かった。

無我夢中で彼のもとに走った。

彼も、私をひと目見て分かったようだった。

互いに抱きしめ合った。

彼は、涙ぐみながら

「よくぞ、生きていた。本当に良かった。」

視界は、もうぼやけて何も見えなかった。

私は、声を絞り出し

「幼き頃、あなたと交わした約束を果たしに参りました。」


そこから、短い期間ではあったが彼に仕えた。

短くとも、本当に濃い時間だった。

そして、彼は死ぬ間際に呟いた。

「貴殿と交わした約束、覚えておるか?」

「勿論でございます。」

『私が死す時は、必ず貴殿がお側に居るのだぞ。』

『はい、必ず貴方様のお側に居ります。』

老人の声のはずなのに、幼子のような声に聞こえた。

彼は、その言葉に安心したようで穏やかな顔をした。

それが、彼の最期だった。



老人の昔話を最後まで、読んでくれたことに感謝する。


最後に言葉を贈ろう。

一生とは過ぎれば、本当にあっという間だ。

時には、生を手放すことだって有りだと思う。

ただ、これだけは忘れないでほしい。

たくさん失敗して良い、たくさん迷惑かけて良い、たくさん逃げて良い、

泥臭くて良い、情けなくて良い、生きてみて。

案外、人生は愉しく……どうにか成るものだから。














3/8/2024, 11:52:23 AM

金よりも大切なもの、それは縁だ。

いくら金や名声を持とうとも、

人間の幸福を満たせるものは、結局、人間関係だと思う。

自分を大切にしてくれる人に感謝出来るようになるには、

自分自身の欠点に良さを、自分自身が認めなければ為らない。

それを知らぬ人は、割りかし多いように感じた。




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