我は、戦の無いな世を短い期間だが知っている。
戦乱の世から、戦乱の無い世に移ったが民は皆、怯えていた。
むしろ、戦乱の世の方が……活き活きしていたように思う。
しかし、戦の無い世も永くは続かず、この国は民によって滅ぼされた。
そして、今、新しい国が出来ようとしている。
我は、かつて滅びた国の王に仕えていた。
王は、痛みを知っていた。
だから、この戦乱の世を終わらせ、戦乱の無い世を志し、
その不可能と云われた、偉業を成した。
しかし、我らは気が付かなかった。
否、違う。
我らは、民の顔を全く見ていなかった。
民在ってこそ、我らが在ることを忘れていた。
そして、我らは何のために平和な世を望んだか……忘れしまっていた。
民の痛みも苦しみも、これ以上長引かせぬ為だったことを……。
これから先、何百年と戦乱の世を続けない為だったことを……。
だから、我らの国は滅んだのだ。
その事実を新しい王に伝える為、これ以上民を苦しめぬ為、
今日も、我の命を掛け、新しい王の御前に立った。
3/10/2024, 12:33:53 PM