kiliu yoa

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12/10/2023, 1:50:37 PM

「もう、こんな仕事やめてやる。」

酒瓶を片手に愚痴る男が居た。

「おい、大丈夫か。酔っ払い。」

私は、この男を昔から知っている。

「五月蝿い。俺は酔ってない。」

その口調は、完全に酔いが回っていた。

「いや、完全に酔ってる。一人称、変わってる。」

そして、この男は酔いが回ると、一人称が俺に変わる。昔のように…。

「五月蝿い!おまえに何が分かる。」

一従者たる私には、あなたの苦労は到底…分かりかねない。

「どんなに嘆こうとも、この仕事は辞められないって。

 どうしても辞めたいなら、僕、自ら殺してやろうか。」

昔のように冗談を言ってみる。

「嗚呼、頼む。もう、私は全て終いにしたい。」

頭が真っ白に成った。

「いつ、酔いから覚めた。」

何故なら、その声にその口調はシラフの彼の口調だったから。

「僕、自ら殺してやろうか。って、ところから。」

バシッ「ふざけるな!」

思いっきり頬を引っ叩いて、大声を上げて、あいつの胸ぐらを掴んでいた。

「其れだけは、絶対言うな!其れだけは、言わぬ約束だろう!」

私は激情に駆られ、怒鳴ってしまった。

分かっている、今のは私が悪い。

誰だって、たまには弱音を吐きたくなるし、死にたくなるものだ。

でも、あの日、あの時、誓ったことを忘れていた、彼が許せなかった。

彼は、ひどく驚いた表情をして、安堵したような表情に成った。

「嗚呼、そうだったな。昔、誓ったのだったな。すまない。」

「こちらこそ、大人気なく感情的になってしまい、すみませんでした。」

あっ、彼の顔付きが変わった。

憑き物が落ちた、晴々とした表情に変わっていた。





12/9/2023, 12:42:48 PM

『ルネさん』

『ルネさま』

『ルネ』

『あなた』

『お母さま』

『母上』

『母さま』


ハッ、ハーハァ、ハーハァ、スゥーッ、ハアー。

びっくりした…。

何で何度も、誰かに呼ばれた。

ハッハッハ…、何だ…夢か。

此れが俗に言う、走馬灯なのか?

右手を上げようと、ふと、右手を見た。

お母さまに右手を握られ、上げられなかった。

辺りを見回して、分かった。

此処は、病室だった。

嗚呼、なるほど。

だから、たくさん呼ばれたのか。

「お母さま、おはようございます。」

「お母さま、」

「ふふふ、起きてますよ。おはよう、ルネ。」

「おはようございます。」

嬉しくて思わず、頬が上がる。

「先ほど、たくさん、私が呼ばれる夢を見ました。」

「ああ…それは、此処に駆け付けた方々の声じゃないかしら。」

「そういうことでしたか。」

私の中で、納得した。

「ええ、あなたは生死を彷徨っていましたから。

 本当に良かった。あなたの声をもう一度、聞けて。」

お母さまの声は、どこか安堵した声だった。

「ごめんなさい、心配をお掛けしました。」

「もう、謝らないの。家族にくらい、心配かけて良いの!」

「ありがとう。お母さま。」

「良いのよ…それくらい。わたしも謝らないといけないの。」

お母さまは、どこか申し訳なさそうな表情をした。

「あのね、あなたの家族のことなのだけど…。」

「どうしたの?」

「あなたを心配して、三日三晩ずっと…あなたのそばを離れなかったから、

あなたの容態が安定した時に、半ば強引に家に返したの。ごめんなさいね。」

「ううん、ありがとう。寧ろ、助かったよ。」

「久しぶりにあなたの手を繋いだわ。」

「あの時、以来ですね。」

「あなたが私の娘に成ってくれた日、以来ね。」

「はい。」

穏やかな時間が流れた。

「あっ、いけない。早く、あなたの目が覚めたことを皆に知らせないと。」

私は、幸せ者だな。そう、改めて思えた日でした。

 








12/8/2023, 5:10:50 PM

あっ、死ぬかもしれない。

肩から横腹まで、斜めに斬られた。

幸い、予想してたより痛くない。

でも、もう無理かもしれない。

相手がおおきく振りかぶった。

『どうか、お気お付けて。ご武運を祈っております。』

凛とした、覚悟を決めた、妻の表情が蘇る。

一瞬の走馬灯。

もう、身体が動かない。

貴女と人生を共に過ごせて、歩めて、本当に幸せだった。

之まで、ありがとう。

そして、約束を果てせなくて、ごめん。














12/7/2023, 11:46:30 AM


最高級品の和紙に文鎮を置き、硯で墨を磨る。

墨汁は便利だが、硯で磨った墨には敵わない。

筆に墨を吸わせ、硯の端で墨を拭う。

一文字、一文字、集中し過ぎないよう意識しながら、文字を書き連ねる。

そして、和多志の名を署名し、筆を置く。

最後に、玉印に朱肉を付け、署名の下に玉印を押す。

之で終わり。

重要書類を書いた後は、どっと疲れる。

之ばかりは、未だに慣れない。

窓から外を見ると、日は沈みかけ、空を朱く染めていた。

『たまには早く帰って、家族と過ごせ。そう云う時間は、無限では無いよ。』

上司に云われた言葉を思い出す。

今日は、早く帰ろう。








12/5/2023, 1:29:25 PM

今夜は空気が澄み、月が美しい。

こういう日は、月見酒がしたくなる。

夜分遅くに仕事が終わり、久々に誰かと呑みたくなった。

「なるほど、それで和多志のところへ訪ねてきたと。」

そして、同僚の男を何の約束無く、夜分遅くに訪ねた。

「はい。酒瓶は、持ってきました。」

「和多志が明日、仕事なのをご存知ですか。」

「はい。たまには、こういうのも悪くないと思いまして。」

男同士、年齢も一つか、二つしか変わらぬ為、

悪びれもなく、図々しく呑みに誘ってみる。

「お断りします。と、言いたいところですが、今日は付き合います。」

「有難うございます。一つ、借しにして下さい。」

「いえ、以前こちらが借しを作ったので、これで帳消しです。」

縁側に二人で座り、杯では無く、湯のみに酒瓶を傾けて酒を注ぐ。

「「乾杯。」」

「やはり、仕事終わりの酒は別格です。」

「……どこの清酒ですか。」

「知人が酒蔵をやっていまして、そこの少し良い酒です。」

「良い酒だ。」

「そうでしょう。知人に伝えときます。」

「今夜の月は、見事なものです。」

「だから、誘ったのです。」

そこからは無言のまま…酒瓶の酒が尽きるまで、月を見ながら呑んだ。

「では、帰ります。」

「清酒、有難うございました。」

「いえ、こちらこそ、呑みに付き合って頂きましたから。」

「では、又。」


灯籠の要らぬほど明るい、良い月夜でした。







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