今夜は空気が澄み、月が美しい。
こういう日は、月見酒がしたくなる。
夜分遅くに仕事が終わり、久々に誰かと呑みたくなった。
「なるほど、それで和多志のところへ訪ねてきたと。」
そして、同僚の男を何の約束無く、夜分遅くに訪ねた。
「はい。酒瓶は、持ってきました。」
「和多志が明日、仕事なのをご存知ですか。」
「はい。たまには、こういうのも悪くないと思いまして。」
男同士、年齢も一つか、二つしか変わらぬ為、
悪びれもなく、図々しく呑みに誘ってみる。
「お断りします。と、言いたいところですが、今日は付き合います。」
「有難うございます。一つ、借しにして下さい。」
「いえ、以前こちらが借しを作ったので、これで帳消しです。」
縁側に二人で座り、杯では無く、湯のみに酒瓶を傾けて酒を注ぐ。
「「乾杯。」」
「やはり、仕事終わりの酒は別格です。」
「……どこの清酒ですか。」
「知人が酒蔵をやっていまして、そこの少し良い酒です。」
「良い酒だ。」
「そうでしょう。知人に伝えときます。」
「今夜の月は、見事なものです。」
「だから、誘ったのです。」
そこからは無言のまま…酒瓶の酒が尽きるまで、月を見ながら呑んだ。
「では、帰ります。」
「清酒、有難うございました。」
「いえ、こちらこそ、呑みに付き合って頂きましたから。」
「では、又。」
灯籠の要らぬほど明るい、良い月夜でした。
12/5/2023, 1:29:25 PM