理想と現実。
どちらも、重要だ。
だが、どちらか偏ると諸刃の剣となる。
我が主君たる、あの方は其の重要性をよく理解されている。
だから、あの方は策を練られる際に理想と現実の割合を重要視する。
そういえば、あの方に忠誠を誓ったのも、
理想と現実のバランスが取れた方だったからだ。
私には、理想像を描くことが出来ない。
だが、現実像を把握することは出来る。
其処をあの方に買われ、側近となった。
あの方の右腕たる、筆頭は理想像を描くことが出来る者だった。
筆頭が理想像を描き、私が現実像を把握し、あの方が調整する。
そして、筆頭の弟子と私の弟子が実行する。
これが私達の最善の進め方であり、やり方だった。
n:意味を理解しているのか。
e:嗚呼、勿論。
w:賛成だ。
s:ハハハッ、面白い。私も賛成しよう。
e:盤上一致だな。
n:私は賛同していない。
s:まあ、良いじゃないか。
w:あなたなら、大丈夫だろう。
n:はぁ、分かった。賛同しよう。
e:よし、ならば決まりだ。
『我ら四人の名に誓い、
いつ如何なる時も、我らは何より民を最優先し、
己が滅びの道を辿ることに成ろうとも、
民の自由と平和を守ることを、此処に誓う。
N.E.W.S』
たまに、帰りたくなる。
此処より陸路で東へ進み、海を渡った先にある、
極東と呼ばれる、私の故郷に帰りたくなる。
今、この大陸の国は他国に侵攻している。
侵攻は周辺の国々を滅ぼし、飲み込むまで続く。
国々を完全に飲み込み、安定するまでは帰れない。
其れが達せられるのは、最低でも十五年後の事だろう。
其れまでは、帰れない。
この侵攻は、永き戦乱の世を終わらせる為のものだ。
幸い、この国の大王は人の痛みを知る人だ。
だからこそ、この永きの戦乱の世を終わらせようとして居られる。
私は、この国に恩がある。
その恩を返す為に…私は此処で生きている。
あと、何万人の人々が犠牲になるのだろうか。
この大陸に平和は、本当に訪れるのだろうか。
それらを考えるだけで、辛くなる。
大王や其れに尽力する人々は、この苦しみをどうやって……
乗り越えているのだろう。
愛しき、貴男。
貴男は、多くを背負う強き方。
貴男は、誰よりも人の上に立つ器を有する方。
でも、貴男だって心の拠り所が必要よ。
わたしと同じ人間なのだから……。
いい加減、あの方を、貴男の心の拠り所を、迎えに行きなさい。
貴男には、あの方が必要よ。
それは、わたしたちでは担えない。
悲しいけれど、あの方しか…貴男を救えない。
わたしたちに遠慮せず、あの方を迎えていいの。
だから、どうか、これからは泣かないで。
吐息は、白く色づく。
頬は赤らみ、より鮮明に肌の白さが目立つ。
毛糸の手袋に厚めのトレンチコート、ウールで出来たブーツ。
夜明けは遅く、日暮れは早い。
冬の銀世界は美しいが、寒さはキツい。
とくに、悴むと色々と…めんどうだ。