kiliu yoa

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11/27/2023, 2:26:27 PM

私の母は、そよ風みたいな人だった。

月白色の髪を一本の三つ編みにして、紫翠石みたいな綺麗な目をしていて、

白磁器みたいなすべすべした温かい肌で、よく私の頭を撫でてくれた。

私には、たくさんの兄弟姉妹がいたけど、皆、一人ひとりを見てくれた。

母は仕事が忙しくて、あまり家に居なかったけど、

私たちの面倒を見る人たちが、たくさんいて、その人たちが色々してくれた。

母は、よく私たち一人ひとりを抱きしめて『世界一の宝物』と言っていた。

それを言われると、私は嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。

たくさんの愛情を注ぎ、時には諌め、よく褒めてくれる、そんな母だった。

時は経ち、旅立つ頃に成った。

その時、気が付いた。いや、ずっと…どころか、違和感が在った。

何故、そんなに若いのだろう…と。

何故、そんなに仕事を教えてくれないのだろう…と。

何故、容姿が全く似ていないのだろう…と。

そう、母と私では…どう考えても年齢的に親子では無いこと。

そして、私は後に知ることになる。

本来なら、赤子の頃に家族と共に秘密裏に処刑されていたことを。

当時処刑人だった、まだ子どもだった母が、私を匿い、戸籍を変え、

私が成人するまで育ててくれたことを。

そして、私の実の家族を処刑した人でも、在ったことを。

もし、あなたが最低な人だったら、激怒し、恨むことが出来たのに。

もし、あなたが沢山の愛情を注いでくれなかったら……。


あなたは、私の家族を殺した人。

そして、あなたは…誰がなんと言おうと、唯一の私の母だ。

血の繋がりは、無い。

でも、あなたが私に沢山の愛を注ぎ、育ててくれたは、何一つ違わぬ事実だ。

だから、私は…あなたを…母を…赦す。

だから、私は…これまで通りに母に接する、大好きな娘として。


『─親愛なるお母さまへ
     
 本当のことを話してくれて、ありがとう。
 
 これまでも、これからも、あなたのことが大好きな娘より』
      






11/26/2023, 3:06:51 PM

『あなた、いってらしゃいませ。』

どこか儚げな、優しい妻の声。

『おかえりなさい、あなた。』

どこか嬉しそうな、優しい妻の声。

『誰よりも、あなたをお慕い申しております。』

どこか凛々しさのある、優しい妻の声。

ゆっくりと瞼が開く。

私は病のとき、いつも夢を見る。

今迄は、悪夢が多かった。

しかし、今日は違った。

夢に出てきたのは、妻だった。

「目を覚まされましたのですね、良かった。」

そよ風のように、優しく穏やかな妻の声。

嗚呼、安心する。

「嗚呼。」と、私は応える。

私の額に、手をあてる妻。

その手が少し冷たくて、心地良かった。

「微熱程度まで下がりましたね。」

どこか、安心したような妻の微笑。

ああ、良かった。心から笑ってくれた。

私のせいで歪む、妻の表情ほど辛いものは無い。

「病の時くらいは、しっかり休んで下さいね。いつも、激務なのですから。」

「嗚呼、そうする。有難う。」

私は、ゆっくりと瞼を閉じる。

ここから、記憶は無い。

目が覚める。

寝台にもたれるように、妻は寝ていた。

頬には、涙の流れた跡があった。

夫の看病など、召使いに任せればいいのに。

妻を寝台に寝かせ、掛け布団をそっと掛ける。

嗚呼、本当に…私には勿体ないほど出来た人だ。

「有難う。いつも言えないが、私も誰よりも…あなたを愛している。」

そう言って、妻の髪を耳に掛けた。

気のせいか、少し妻の表情が微笑んだように想った。







11/25/2023, 10:36:14 AM

紙飛行機を飛ばす。

風に乗り、進む。

しかし、しばらくすると落ちてきた。

ここで諦めず、もう一度、紙飛行機を飛ばす。

たぶん、こういう人は何度も立ち上がる。

何度…転んでも、何度…失敗しても、起き上がる。

生きることを諦めないのだろう。

私の友人のように。

彼らは、決して、最後まで生を…生きることを諦めない。

何が在ろうと、最後まで最善を尽くす。

例えば、紙飛行機をより長い距離飛ばしたいとしよう。

多くの人は、まず紙飛行機の飛ばし方を工夫するだろう。

しかし、それでは何の変化も無かった場合、多くの人は其処で諦める。

しかし、彼らは違った。まずは紙飛行機の設計を見直した。

決して、諦めることが悪いという訳では無い。時に、諦めは必要だ。

ただ、諦める前に最善を尽くすことが大切なのだ。

もしも、あの時…こうしていれば。

もしも、あの時…ああしていれば。と、過去を悔やまぬ為に。

年寄りの説教は、終わりにしよう。

要は、太陽の下で堂々と生きよ。早々に生きることを諦めるな。

胸を張り、しっかり呼吸してみよ。

案外、人生は面白いぞ。









11/24/2023, 1:06:37 PM

編み物は、本当に複雑だ。

私には、気が遠くなる。

でも、あの人の為なら……頑張れる。

やはり、どこか不格好。

お義母さまや義叔母さまのような均等な編み目も、

鮮やかな色彩に繊細な模様も、私には未だ出来ない。

悔しい。あー、もう暖炉で燃やしたい。

でも、それはしない。

何故なら、この不格好な編み物の完成を待ってくれる人が居るから。

これの何が良いのかしら。

私には、分からない。

ふふ、我ながら上出来でしょう。

セーターを優しく、抱きしめる。

来年も、また作ろう。

そしたら、少しずつでも上達するだろう。

来年も、又、あの人の故郷に行こう。

そして、お義母さまや義叔母さまに習おう。

ふふ、本当に楽しみ。

ああ、幸せ。

なんて、幸せなんだろう。

今日も、あの人の帰りが待ち遠しい。







11/23/2023, 11:23:13 AM

息を深く、吸う。

息を吐きながら、中段に刀を構える。

眼の前の相手は、私と互角の強さ…いや、私より強い。

此れは、一騎討ちなのだ。

少しだけ、心と身体をつなぐ糸を切る。

かつての、痛みを感じぬ身体に戻す。

この糸を完全に絶ち切っては、ならない。

絶ち切ってしまうと、そう簡単には…つながらない。

最初は、相手の出方を見る。

相手の攻撃を受け流しながら、相手の隙を伺う。

私の動きは、ゆっくりだ。

徐々に間合いを詰めていく。

その間、私は仕掛けない。

相手の集中が切れた、その時、相手の防御に隙ができる。

相手は、私のゆっくりした動きに慣れている。

そうすると、隙を突く、速い動きには…付いて来れなくなる。

そこを狙うのだ。

速さの濃淡と、でも言うのだろうか。

私の刃は、相手に届いた。

相手の肉を削ぐ、音、香り、感覚が……鮮明に脳裏に焼き付く。

相手の胸から腹にかけて、深く斬った。

相手の表情は、穏やかなものだった。

「安らかに眠れ。」

他に、なんと声を掛ければ……良いのだろう。

私は、首切り処刑人だった。

人を殺すことには、慣れている。

しかし、言葉に表せられぬ、気持ちが湧き出て……止まらない。

思考が停止する。気持ちを切り換えねば……。


嗚呼、そうか、初めて罪のない人を殺したからか。

もしかすると、これが俗に言う、罪悪感なのかもしれない。













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