息を深く、吸う。
息を吐きながら、中段に刀を構える。
眼の前の相手は、私と互角の強さ…いや、私より強い。
此れは、一騎討ちなのだ。
少しだけ、心と身体をつなぐ糸を切る。
かつての、痛みを感じぬ身体に戻す。
この糸を完全に絶ち切っては、ならない。
絶ち切ってしまうと、そう簡単には…つながらない。
最初は、相手の出方を見る。
相手の攻撃を受け流しながら、相手の隙を伺う。
私の動きは、ゆっくりだ。
徐々に間合いを詰めていく。
その間、私は仕掛けない。
相手の集中が切れた、その時、相手の防御に隙ができる。
相手は、私のゆっくりした動きに慣れている。
そうすると、隙を突く、速い動きには…付いて来れなくなる。
そこを狙うのだ。
速さの濃淡と、でも言うのだろうか。
私の刃は、相手に届いた。
相手の肉を削ぐ、音、香り、感覚が……鮮明に脳裏に焼き付く。
相手の胸から腹にかけて、深く斬った。
相手の表情は、穏やかなものだった。
「安らかに眠れ。」
他に、なんと声を掛ければ……良いのだろう。
私は、首切り処刑人だった。
人を殺すことには、慣れている。
しかし、言葉に表せられぬ、気持ちが湧き出て……止まらない。
思考が停止する。気持ちを切り換えねば……。
嗚呼、そうか、初めて罪のない人を殺したからか。
もしかすると、これが俗に言う、罪悪感なのかもしれない。
11/23/2023, 11:23:13 AM