「もう、こんな仕事やめてやる。」
酒瓶を片手に愚痴る男が居た。
「おい、大丈夫か。酔っ払い。」
私は、この男を昔から知っている。
「五月蝿い。俺は酔ってない。」
その口調は、完全に酔いが回っていた。
「いや、完全に酔ってる。一人称、変わってる。」
そして、この男は酔いが回ると、一人称が俺に変わる。昔のように…。
「五月蝿い!おまえに何が分かる。」
一従者たる私には、あなたの苦労は到底…分かりかねない。
「どんなに嘆こうとも、この仕事は辞められないって。
どうしても辞めたいなら、僕、自ら殺してやろうか。」
昔のように冗談を言ってみる。
「嗚呼、頼む。もう、私は全て終いにしたい。」
頭が真っ白に成った。
「いつ、酔いから覚めた。」
何故なら、その声にその口調はシラフの彼の口調だったから。
「僕、自ら殺してやろうか。って、ところから。」
バシッ「ふざけるな!」
思いっきり頬を引っ叩いて、大声を上げて、あいつの胸ぐらを掴んでいた。
「其れだけは、絶対言うな!其れだけは、言わぬ約束だろう!」
私は激情に駆られ、怒鳴ってしまった。
分かっている、今のは私が悪い。
誰だって、たまには弱音を吐きたくなるし、死にたくなるものだ。
でも、あの日、あの時、誓ったことを忘れていた、彼が許せなかった。
彼は、ひどく驚いた表情をして、安堵したような表情に成った。
「嗚呼、そうだったな。昔、誓ったのだったな。すまない。」
「こちらこそ、大人気なく感情的になってしまい、すみませんでした。」
あっ、彼の顔付きが変わった。
憑き物が落ちた、晴々とした表情に変わっていた。
12/10/2023, 1:50:37 PM