帰り道は、何気に好きだ。
当たり前の風景は夕日で朱や紫に染まり、
昼に見る風景とは、又異なる風景に変わる姿が好きだった。
家々には、明かりが灯り始める。
日が暮れ出すと、「家に帰りたくない。」と親に訴える、子どもたち。
走って、帰える子どもたち。
ふと、家庭環境によって、そのあたりは変わることに気づく。
今の子どもは、働くことが出来ないことの方が多い。
子どもたちがたくさん遊べたり、勉強や部活に集中できる良い面も有る。
しかし、子どもが親から逃げられないという、悪い面も有るように思った。
私の偏見だが、そういう親の子どもほど、頼れる人が居ない気がした。
いつか、私が大人に成れたのなら、
そういう子どもたちの第三の居場所を作りたいと思った。
家や学校、職場の次に永く居れる場所。
もしくは、家や学校、職場より永く居て良い場所を作れたらな。
空間は難しいとも、そういう逃げれる場所を提供したいと思った。
休めることは、大事だ。
私の故郷は、乾燥した内陸の国で主に貿易で栄えた街だった。
ここの人々、いや、この辺り一体の人々は男も女もよく働く。
時間があれば、仕事を探し、交渉し、働くほどである。
それを見て育った子どもたちも、また、よく働く。
たまに、働き過ぎだと感じるほどである。
彼らは、贅沢を好まない。
これは、旅路の話しである。
私の旅路の移動手段は、荷が多い時はラクダ。普段は馬が多い。
しかし、私の案内人は皆、馬にも、ラクダにも、乗らない。
何故かと問うと、贅沢に慣れると困るからと、口を揃えた。
そして、彼らは僅かな空白の時間を見逃さない。
休む時は短くともしっかり休み、働く時は短くとも真面目に働く。
恐らく、その習慣が彼らを支えいるように感じた。
だから、この街やこの辺り一体は、貧しくとも栄えたのだろう。
と、ふと思った。
拳を握り締める。
手を開くと、血が流れていた。
私の悪い癖が出た。
感情を抑えるために、必死に握り締めた拳。
私は、多くの……数え切れないほどの……人を殺した。
殺人は、罪だ。
例え、それが上からの命令だとしても……。
私は、数々の戦場で……数多の理由から……、
多くの、途方もない数の人を殺してきた。
なのに、どうして、私は………、
一度たりとも……罪を問われることも、罪を裁かれることも、無いのだ。
自己の選択で、多くの人々を殺した。
多くの人々の人生を狂わし、奪ってきた。
なのに、どうしてだろう。
私は、疾うの昔に…人を捨てたからだろうか。
それとも、職務を全うしてきたからだろうか。
私は、何故、罪を裁かれないのだろう。
罪の無き、人々までも……平然と殺してきた。
なのに、どうして、私の罪は裁かれない。
どれだけ、王に懇願しても、叶わない。
本来なら、疾うに処刑にされるべきなのに。
私のような者は、生きるために多くを奪える者は……、生きてはいけない。
私のような者は、いつか…必ず…又…罪を犯す。
なのに、王は……部下たちは……同業者たちは……この国の民たちは……、
皆、そんなことはないと……、あなたは被害者だと……、私を慰める。
その優しさが、どうしようもなく、辛かった。
私の重ねてきた、重罪ともいえる罪は……いつ裁かれるのだろうか。
美しく舞う。
その人は、凛としていて……誰よりも、泰然自若な人だった。
たとえ、なにをいわれようとも、いつも、己の正しさを貫く人だった。
舞いは、その人の全てを映すと思う。
舞いをどれだけ努めたか、どれだけ表現したいか、どれだけ想っているか。
だから、舞いには……その人の思いが籠もる。
その人の舞いは 力強く、かろやかで、やわらかい。
そして、指先から爪先の細部まで、美しい。
決して、観客を退屈させない……それどころか、魅せられる。
その人の舞いには、人を惹き込ませる力が在った。
恐らく、それほどまで、その人は……舞いに命を賭けているのだろう。
たった一つ、その振り付けに 鮮烈な思いを籠める。
いつか、必ず…わたしは、貴方とともに舞う。
それが、わたしの夢だった。
運が良い。それは、生まれながらに在ると思う。裕福な家に生まれたり、
良い親の元に生まれたり、『運が良い』の基準は人により…様々だろう。
どうしようも成らないことは、この世に沢山在る。
恐らく、どんなに時代を経ても、種類は変われど、ずっと残り続ける。
でも、困難を乗り越えた先に学べることは多い。
だから、苦労して、努力して、成功した人は、口々に『私は、運が良い』と
言うのだろう。
私は、まだ、『運が良い。』とは、到底、言えそうに無い。
私は、まだ、私より苦しみ…乗り越えた人を、この目を通して
見たことは無い。
私は、まだ、私より苦しんだ人を聞いたことは…無い。
内心、分かってる。
見聞きしたことが無いからと言って、存在しないことには…ならない。
私が見聞きした事が、全てでは……無い。
でも、どうしても、まだ、飲み込めないのだ。
頭では分かっていても、感情が追いつかないのだ。
きっと、私は……まだ、無知なのだ。
だから、まだ認められないのだ。
私より、苦労してきた人々のことを……。
私は、世間知らずの只の子どもだということが、まだ認められないのだ。