休めることは、大事だ。
私の故郷は、乾燥した内陸の国で主に貿易で栄えた街だった。
ここの人々、いや、この辺り一体の人々は男も女もよく働く。
時間があれば、仕事を探し、交渉し、働くほどである。
それを見て育った子どもたちも、また、よく働く。
たまに、働き過ぎだと感じるほどである。
彼らは、贅沢を好まない。
これは、旅路の話しである。
私の旅路の移動手段は、荷が多い時はラクダ。普段は馬が多い。
しかし、私の案内人は皆、馬にも、ラクダにも、乗らない。
何故かと問うと、贅沢に慣れると困るからと、口を揃えた。
そして、彼らは僅かな空白の時間を見逃さない。
休む時は短くともしっかり休み、働く時は短くとも真面目に働く。
恐らく、その習慣が彼らを支えいるように感じた。
だから、この街やこの辺り一体は、貧しくとも栄えたのだろう。
と、ふと思った。
拳を握り締める。
手を開くと、血が流れていた。
私の悪い癖が出た。
感情を抑えるために、必死に握り締めた拳。
私は、多くの……数え切れないほどの……人を殺した。
殺人は、罪だ。
例え、それが上からの命令だとしても……。
私は、数々の戦場で……数多の理由から……、
多くの、途方もない数の人を殺してきた。
なのに、どうして、私は………、
一度たりとも……罪を問われることも、罪を裁かれることも、無いのだ。
自己の選択で、多くの人々を殺した。
多くの人々の人生を狂わし、奪ってきた。
なのに、どうしてだろう。
私は、疾うの昔に…人を捨てたからだろうか。
それとも、職務を全うしてきたからだろうか。
私は、何故、罪を裁かれないのだろう。
罪の無き、人々までも……平然と殺してきた。
なのに、どうして、私の罪は裁かれない。
どれだけ、王に懇願しても、叶わない。
本来なら、疾うに処刑にされるべきなのに。
私のような者は、生きるために多くを奪える者は……、生きてはいけない。
私のような者は、いつか…必ず…又…罪を犯す。
なのに、王は……部下たちは……同業者たちは……この国の民たちは……、
皆、そんなことはないと……、あなたは被害者だと……、私を慰める。
その優しさが、どうしようもなく、辛かった。
私の重ねてきた、重罪ともいえる罪は……いつ裁かれるのだろうか。
美しく舞う。
その人は、凛としていて……誰よりも、泰然自若な人だった。
たとえ、なにをいわれようとも、いつも、己の正しさを貫く人だった。
舞いは、その人の全てを映すと思う。
舞いをどれだけ努めたか、どれだけ表現したいか、どれだけ想っているか。
だから、舞いには……その人の思いが籠もる。
その人の舞いは 力強く、かろやかで、やわらかい。
そして、指先から爪先の細部まで、美しい。
決して、観客を退屈させない……それどころか、魅せられる。
その人の舞いには、人を惹き込ませる力が在った。
恐らく、それほどまで、その人は……舞いに命を賭けているのだろう。
たった一つ、その振り付けに 鮮烈な思いを籠める。
いつか、必ず…わたしは、貴方とともに舞う。
それが、わたしの夢だった。
運が良い。それは、生まれながらに在ると思う。裕福な家に生まれたり、
良い親の元に生まれたり、『運が良い』の基準は人により…様々だろう。
どうしようも成らないことは、この世に沢山在る。
恐らく、どんなに時代を経ても、種類は変われど、ずっと残り続ける。
でも、困難を乗り越えた先に学べることは多い。
だから、苦労して、努力して、成功した人は、口々に『私は、運が良い』と
言うのだろう。
私は、まだ、『運が良い。』とは、到底、言えそうに無い。
私は、まだ、私より苦しみ…乗り越えた人を、この目を通して
見たことは無い。
私は、まだ、私より苦しんだ人を聞いたことは…無い。
内心、分かってる。
見聞きしたことが無いからと言って、存在しないことには…ならない。
私が見聞きした事が、全てでは……無い。
でも、どうしても、まだ、飲み込めないのだ。
頭では分かっていても、感情が追いつかないのだ。
きっと、私は……まだ、無知なのだ。
だから、まだ認められないのだ。
私より、苦労してきた人々のことを……。
私は、世間知らずの只の子どもだということが、まだ認められないのだ。
人生は、退屈だ。
物語の主人公たちのような優れた才能も、悪に対抗するほどの志しも、
和多志は持っておらず、周囲に流され、生きてきた。
和多志は、凡人。
其れは、兄様や弟たちを見ていて、幼いながらに感じた。
兄様のような聡明さも、弟たちのような優れた身体能力も、
和多志は持ち合わせて居なかった。
だからと言って、不幸では無かった。
若き時は、兄弟たちの持つ天賦の才が羨ましくて……堪らなかった。
幼き頃、兄弟の中で……和多志にだけ、優れた才が無いことに苦しんだ。
大人になり、気がついた。
優れた才が無いからと言って、人の価値が決まらぬことに……。
だから、理想の自分に成れないことを、恥じなくて良いことに……。
例え、理想の人生を歩めなかったとしても、それを恥じなくて良い。
一日一日を精一杯…生き抜くことは、決して…容易なことでは無い。
苦しくとも…辛くとも…生きてきた和多志や貴方を、何よりも誇って良い。
苦しみを生き抜いてきた、和多志や貴方なら……。
きっと、大丈夫。
和多志や貴方の生きる明日は…、未来は…きっと明るい。
和多志は、そう信じてる。