kiliu yoa

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9/24/2023, 3:58:28 PM

  繋がり、縁、etc……

 女は、それらが何よりも、嫌いだった。

 なにせ、それらに常に振り回されてきたからだ。

 ただ、生きているだけ。ただ、少々他者より秀でたものがあるだけ。

 それだけで、命を狙われた。

 だから、努めた。自分の持つ、全てを……。嫌っていた、それらまでも。

 
 しかし、それはもう……『わたし』では無かった。 

 動物を愛していた…、民を愛していた…、親しき人々を愛していた…、

 この国を愛して……やまなかった、

 『わたし』は、もう……居なかった。


 そこに居たのは、……薬を手放せない、常に仮面を被り……役を演じ続け

 ……他者の隙に漬け込み、他者を操り、利用し、切り捨て続けた、

 空虚で、哀れで、滑稽な女だった。


 そして、気付いた。

 わたしの器では……、わたしのような者は……、

 この地位は……、この権力は……、持たぬ方が良いことを……。

 このように、成り果てた。

 それは、何よりの証拠だと云うことを。

 だから、愛しき……あの子に譲ろうと思った。

 あの子なら、きっと……大丈夫。

 あの子なら、この地位を……、この資産を……、この権力を……、

 わたしの名を……、わたしの全てを……、有するに相応しい。

 私とは違い、あの子は芯がある。

 竹のように靭やかで、睡蓮のように泥の中でも咲き誇れる。

 そんな人に、きっと成れるだろう。
 
 
 

 

 

9/18/2023, 2:45:14 PM

 暗闇が怖かった。 
 
 日が暮れるのが恐ろしくて……、一時期は夜に寝つけぬほどだった。

 恥ずかしながら、今でもやはり一人だけの夜は怖い。

 ただ、昔から冬の夜の空は好きだった。

 幼い頃、いつも母に車で迎えに来てもらっていた。

 その時間帯の冬は、もう訪うに日が暮れ、辺りは夜のように暗かった。

 駐車場から家までの少し歩く距離の道。

 空を、見上げる。

 其処には、ネオンブルーのアパタイトが細かく砕け、

 金青色の夜空、いっぱいに散らばり……輝く、数多の星。

 その光景は、冬の厳しい寒さを忘れるほどに、脳裏に深く焼き付くほどに、

 鮮烈で、美しかった。

 

 




 

 

 

9/13/2023, 10:50:37 AM

 目が覚めて、香を焚く。わたしの好きな香りをこの部屋に焚き染める。

 此の人は、とても寂しがり。

 此の人は、わたしと一緒に朝を迎えたい。

 でも、其れは叶えられない。

 此の人は、わたしを初めて守ってくれた人。

 此の人は、わたしを初めて…心から愛してくれた人。
 
 此の人は、わたしを初めて抱いた人。

 わたしは、貴方を愛してる。でも、貴方と一緒には成れない。

 もうすぐ、わたしは嫁ぐ。決められた相手のもとへ……。
 
 さようなら、これで貴方とはお別れ。
 
 じゃあね、愛しの貴方。

 『愛してるわ。』

 

 
 

 

 

9/10/2023, 2:49:27 PM

 私が初めて惚れた人は、高級妓楼の妓女だった。

 彼女は、色では無く、芸を売る妓女だった。

 将棋や囲碁などの盤上遊戯と、二胡の演奏が評判の妓女だった。

 容姿は整い、美人の部類だが、此れと言った特徴は無い、

 どの街にも一人は居そうな普通の娘だった。

 どこか儚げで、優しく、柔順な彼女は、瞬く間に値は吊り上がっていった。

 武官の私でさえ、三カ月に一回通うことが限界な程だった。

 彼女に身請け話をした、そんな矢先の事だった。

 父が、亡くなったのだ。 

 亡き母は、父から最も愛された妾だった。

 其の子たる私は、本妻から真っ先に家を追い出されたのである。

 まさか、この時は……家督を取り戻すのに四年もの月日が掛かるとは、

 思わなかった。

 やっとの思いで、早馬を走らせ、彼女に逢いに行った。

 すると、彼女は私の顔を見て……、涙を流したのである。

 私は思わず、彼女に駆け寄り、抱きしめる。

 そして、絹のハンカチを差し出した。

「あゝ、良かった。貴方を信じて……。」と、彼女は泣き崩れる。

「翡翠」私は、彼女の名を呼ぶ。

「はい。」彼女は、俯く顔をそっと上げる。

 其の顔は、涙が溢れながらも喜びに満ちていた。

「ごめんね。迎えに来るのが、遅くなって。」と、私は穏やかな声色を保つ。

見栄を張り、溢れる感情の涙をぐっと堪えながら…。


 

9/8/2023, 4:05:01 PM

 深く……、息を吐く。 

 身体を清め、純白の着物に袖を通し、純白の袴を着ける。

 小袖に白い襷を掛け、腰帯に一口の刀を差す。

 今日も……和多志は、人を殺める。

 死刑執行人として、死罪人の最期に立ち会う。

 

 ……丁寧に、……相手を死の苦しみを和らげるように。

 刀を振り下ろす速度……込める力……刃の角度……を寸分の狂い無く、

 首の皮一枚残し、刀を抜く……其の瞬間まで、相手の身体に合わせる。

 僅か、一瞬。

 其の一瞬で、相手の最期を…、人生を…、変えることが出来ると思う。

 例え、地獄のような苦しみの人生だとしても……。

 最期だけは、苦しみを和らげられる。

 相手を安らかに眠れるように……、人として最期を迎えられるように。

 相手の最期を見届け、自らの手で奪った命を生涯背負う。

 

 ……其れが、和多志に出来る、唯一の弔いだった。





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