kiliu yoa

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8/19/2023, 10:23:34 AM

今日は、晴れ。
 辺りは、もう暗く、まだ空の片隅は、西日の名残りがある。淡い朱色から、徐々に淡い藍色に変わっていた。

 俗に云う、黄昏時である。

 ちょうど今のような時から、私たちの仕事は始まる。

 喪服に革靴、そして、白手袋をつける。最後は、入念に姿見を確認する。

 私たちの仕事は、決して葬儀屋や火葬屋では無く、暗殺された死体を処理と後始末である。

 遺体の状態に、部屋の状態などを細かく記憶し、主(上司)に伝えることまで私たちの役目だ。(資料には、決して残せないため)

 先ほど述べた状態は、暗殺者の腕によって大きく異なる。

今回の現場は、『ウェスト』…西の死神と呼ばれる方の後始末だった。

 此の方の特徴は、首の皮一枚だけ残し、斬首することだった。

 そして、いつも遺体は穏やかな表情で、身体に傷跡などの抵抗した痕跡などは残されていない。

 百を超える暗殺後の現場に立ち会ってきたが、ここまで遺体が美しい方は、他には…居なかった。

 器物の破損や紛失などは無く、僅かしか散っていない血飛沫を、拭き取とり、消毒して、清掃は終了。色移りも無かった。

 できるだけ、生前の彼らの暮らした家の状態に近づけることも、私たちの役目だった。

 最後は、それぞれの遺体を棺桶に…。霊柩車で火葬場まで運び、其処からは別の役職の方々に繋ぐ。

 それまでが、私たちの仕事。

 世間的に、誉められる仕事では無い。

 それでも…私からすると、自慢の誇れる仕事だった。
 

8/17/2023, 3:57:35 PM

 かつて、純白だった色は黄みがかり、艷やかだった光沢は失われた。

 色鮮やかだった刺繍は、色褪せて不鮮明になった。

 でも、これは最愛の妻から、初めての贈り物だった。

遠き故郷の私の母に逢うために、彼女自ら赴き、初めて教わった刺繍だった。

 時を重ねた繊細で美しい刺繍を施されたハンカチは、真新しいものとも違う良さがあった。

そのハンカチには、華やかさは無い。ただ、洗練された品の良さが在った。

 もう使うことは難しいが、今でもクローゼットで大切に保管している。

 

 

 
 
 

8/15/2023, 12:30:47 PM

 明るい港。街には、多くの明かりが灯る。多くの人々が着飾り、馬車に乗りこの街に集まる。みな、年に一度どの祭りを楽しみにしていた。

 この時期は、身分関係なく、多くの人々で賑わう。

 ある者が広場で、音を奏でる。すると、また、ある者は踊り出す。また、ある者は、その音に合わせ、また別の旋律を奏で出した。また、ある者は、その演奏と踊りを見て、楽しんだ。

 夜が更けるにつれ、広場には多くの人々が音を奏で、多くの人が踊り、多くの人々が見て、楽しんだ。

 その周囲には、人々が集い、酒や串焼きなどの露店を楽しんでいた。

     この街は、かつて、無法地帯だった。

出自によっての貧富の差が大きく、生活の質が雲泥ほど開いていた。

 ある貴族の青年が武功を挙げ、王から褒美として、公爵の爵位と街の統治権を与えられた。

 それから、この街は大きく変わった。

 貧しいの人々に職と家を与え、裕福な人々に貧しい人々を支援できる仕組みを作り、貧しい人々の施し方を教えた。

 全ての街の住人に無償で、質の高い学を習えるようにするなど、無謀と云われた数々の政策を実行した。

 いつしか、その青年は、年に一度、祭りを開くようになる。その祭りを通じ、青年と街の人々につながりが出来るようになった。

 それをきっかけに彼は、街の住人から愛されるように成っていった。

普段の彼は、寡黙で多くは語らず、常に堅い表情だったと云う。

彼の死後に、彼の奥方様たちはこう語った。
「祭りのことだけは、街の人々との思い出を語るときだけは、いつも笑みを溢していたの。
 わたしたち家族と、他愛のない話しをする時より、嬉しそうだったのよ。」と、彼女たちも嬉しそうに微笑み、口を揃えた。
 

8/13/2023, 3:13:34 PM

 気持ちとは、難しい。保つことは、大切だ。

 でも、時にはその揺らぎがあっても良いと思う。

 『完璧である必要は無い。』と、わたしは感じる。

 完璧を求めすぎれば、破滅する。

 時には、運に身を任すことも大切だ。

 望まぬ運命が、不幸とは限らない。

驕り高ぶり、欲に溺れては、やがて、自分を見失う。

 足るを知ることも、大切だと思う。

 しかし、自分を殺し、型にはめることは、決して無い。

 ありのままの自分を受けいれ、たまに厳しく、時には寛容に。

 そして、自分の声に耳を傾け、一息つき、整える。

 気長に、自分の心が整うまで待つ。

 無理に、その場を動くことは無い。

 自分を責めなくて良い。

 この一時が、大切なのだ。せめて、この時だけは、自分を見つめ、どんなに些細なことでも、認めて褒めてあげて。

 気長に待ち、整ったら、自分に『ありがとう』を伝えよう。

 以前のようには行かなくとも、ゆっくりと進めば良い。一息つき、整え、そして、また、進めば良い。
 

 

8/11/2023, 1:46:48 PM

 それは、昔、まだ身を隠して生きてきた頃の思い出。

 ある老夫婦に、お世話になっていた。その年は、いつもより暑い夏で、小さなため池は干上がるほどの暑さだった。

 その日は、一段と暑い日で、早朝には暑さで目が覚めた。いつものように、水差しから桶に水を注ぎ、顔を洗い、かたく絞った手ぬぐいで、体を拭いた。

 机の上の硬い黒パンをちぎり、口に運ぶ。しかし、いつもの量の3分の1しか喉を通らなかった。

 いつものように畑に出て、植物に水をやり、雑草を摘んでいた時だった。

  突然、汗が全身から吹き出で止まらなくなり、指先が震え出した。

 気がついた時には、ベットで横になっていた。

 ベットの横には、老夫婦が居た。「ああ、良かった。本当によかった。目が覚めた。」と、老夫婦は泣きながら、喜んでくれた。

      そして、ぎゅっと僕を抱きしめてくれた。

 それから、間もなくお医者さまが家に来て、診察してくれた。
「数日間、安静に過ごしたら、体調も回復するよ。それと外では、帽子を被るように。そして、こまめに水を飲むようにね。なにか有れば、また呼んで下さい。では、これで失礼します。」と、お医者さまは、帰っていった。

 その翌日には、おばあさんが、おじいさんと僕の分の麦わらで帽子を編んでくれた。

 麦わらで出来た帽子は、農作業になくては、ならない必需品となった。

 今では、もう小さくなって被れないが、これだけは手放せず、手元に残している。

 




 

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