それは、昔、まだ身を隠して生きてきた頃の思い出。
ある老夫婦に、お世話になっていた。その年は、いつもより暑い夏で、小さなため池は干上がるほどの暑さだった。
その日は、一段と暑い日で、早朝には暑さで目が覚めた。いつものように、水差しから桶に水を注ぎ、顔を洗い、かたく絞った手ぬぐいで、体を拭いた。
机の上の硬い黒パンをちぎり、口に運ぶ。しかし、いつもの量の3分の1しか喉を通らなかった。
いつものように畑に出て、植物に水をやり、雑草を摘んでいた時だった。
突然、汗が全身から吹き出で止まらなくなり、指先が震え出した。
気がついた時には、ベットで横になっていた。
ベットの横には、老夫婦が居た。「ああ、良かった。本当によかった。目が覚めた。」と、老夫婦は泣きながら、喜んでくれた。
そして、ぎゅっと僕を抱きしめてくれた。
それから、間もなくお医者さまが家に来て、診察してくれた。
「数日間、安静に過ごしたら、体調も回復するよ。それと外では、帽子を被るように。そして、こまめに水を飲むようにね。なにか有れば、また呼んで下さい。では、これで失礼します。」と、お医者さまは、帰っていった。
その翌日には、おばあさんが、おじいさんと僕の分の麦わらで帽子を編んでくれた。
麦わらで出来た帽子は、農作業になくては、ならない必需品となった。
今では、もう小さくなって被れないが、これだけは手放せず、手元に残している。
8/11/2023, 1:46:48 PM