備忘録

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4/29/2026, 2:06:28 PM

ゴウンゴウンと音を立てる洗濯機の前で読書に勤しむ。チラリと窓に視線をやって天気を見ると透き通ったスカイブルー。本日は晴天、洗濯日和なり。そろそろ春が来るのか凍てつくような寒さがゆっくりと溶け始め、日差しも暖かくなってきたような気がする。良きかなと1人頷いてまた本に目を落とした。

数十分の後に洗濯終了と声をあげる洗濯機から衣服を取り出してカゴに移す。ここ最近は少々忙しく洗濯の暇がなかったからこんもりと積み上がった衣服に面倒くささを感じてしまう。ふー、と溜息をつきつつカゴを持ち上げ裏庭へ向かう。
外に出ると風に乗って春の香りがする。これだけ天気も風力も良いのならきっとすぐに乾くだろう。シーツや掛布団も一緒に干したっていいかもしれない。取り込む頃には温かくて優しいお日様の匂いを堪能出来るはずだ。良いな、お日様を堪能したい。堪能しよう。そうと決まれば話は早い。まずは目の前の洗濯物を終わらせなければ。そんなご褒美に思いを馳せて、カゴの1番上にあったタオルを手に取った。

4/28/2026, 2:41:03 PM

近づいては行けないと何度も言われていた危ない魔導書が並ぶ書架の方に転がって行った鉛筆を追いかけたのが、全ての始まりだった。大して傾斜もないはずの床をコロコロ転がっていく六角鉛筆。まるでナニカにおびき寄せられるような、そんな不自然さに気付けずに、ただ止まらない鉛筆を追いかけた。
「ナギ?ねぇ。そっちはだめって師匠が」
いつもならそう言われたら素直に諦められるのに。なぜかユキの声が妙に遠くに感じた。だって、まだ鉛筆を拾ってない。あの鉛筆を拾わなくちゃ。
少し奥にあった簡素な木机の足にぶつかってやっと止まった鉛筆を拾い上げる。さぁ、ユキの元に戻らなくちゃ。振り返った刹那、
「ナギっ!」
ユキの声。ドンッと突き飛ばされて右のこめかみに衝撃が走る。驚きが勝って痛みが飛ぶ。全ては一瞬だった。クラクラする視界を何とか持ち上げて自分の立っていた場所に目をやった。大きく開いたページにじわじわと吸い込まれていくユキを見た。
「っ、ぅ」
抵抗している呻き声。でも、本は無情にも閉じられていく。
「……ゅ、き……」
手を伸ばす。助けたくて。でも届かない。視界がブレる。バチン、ブラックアウト。次に目を覚ました時には、もうユキは遠く、遠くに行ってしまった後だった。

あの時、完全に本が閉じる前にこちらを見たユキの顔がどうしても思い出せずにいる。

4/27/2026, 2:36:30 PM

「ユキ」
そう声をかけると風に吹かれるセミロングの隙間から翡翠の目がこちらを向いた。
「ナギ!ひさしぶり」
隣に腰掛けて別れた時から一切変わらない片割れをまじまじと見つめる。ユキも珍しいものを見るようにじっとこちらを見つめている。
「ナギ、おっきくなったね?」
すっとユキの手が晒している左耳に伸びた。チャリ、とピアスに触れ、いくつか穴の空いた耳を撫でる。
「ピアスもあけたんだ。大人だね」
「そうね、ユキを置いて大人になっちゃった」
「ピアスにあってる」
「ユキとお揃いにしたかった」
びゅうと一際強く風が吹いて、右側を重めに垂らしている前髪が乱れる。一瞬だったが見えてしまったのだろう。耳に触れていた手が右のこめかみに向かう。
「いたい?」
「いんや。もう全く」
温かい体温がこめかみを当たる。
「傷跡になっちゃったんだ」
「だいぶ強くぶつけたから。ちょっと掻きむしったりしちゃったし」
「師匠に治してもらえなかった?」
「治して欲しくなかった。自分の戒めに」
労わるように撫でられるのがこそばゆくて、痛そうに顔を曇らせるユキを見たくなくてそっと手を握って傷跡から離す。
「ね、あのさ」
「なぁに?」
「抱きしめてもいい?」
「子供のころのナギはそんなこと聞かなかったよ?」
「んふふ、じゃあ遠慮なく」
軽い身体を膝に乗せてぎゅうと抱きしめる。ユキだ。ずっと、ずっとこうしたかった。
「ごめんね、ユキ」
「いいんだよ。ナギはなにも悪くない」
「あたしが死ねばよかった」
「あたしはナギが無事ならそれでよかったの」
「助けるのに時間がかかってごめんね」
「それこそ良いんだよぉ、見つけてくれてありがとう」
小さな腕を背中に回して宥めるようにさすってくれるものだから。言うつもりのなかったことが口からこぼれ落ちる。
「今度は、あたしも連れてってくれる?」
「だーめ」
「なんで」
「ナギにはもっとお土産話持ってきてほしいから」
「ユキがいないと生きていけないよ」
「大丈夫だよ。だって、ナギはあたしを探してる時一人で生きてたもん」
「ユキに会いたかったからだよ」
「もう一人で歩けるでしょ」
「やだ。ユキといたい」
段々体温が消えていく。膝の上の重みが無くなっていく。どうしても一緒に連れていって欲しくてさらに抱きしめた。
「いたいよ」
「あたしたち双子でしょ。一緒にいてよ」
「双子だけど、もう二人で一人じゃないよ」
「やだ、やだ。ユキと一緒にいたい」
「ナギ、泣かないで」
「っないてない」
「ナギ大好き。長く長く生きて。ずっと待ってる。助けてくれてありがとう。もうあたしに囚われないで」
消えていく。会いたくてたまらなくて、探し求めてさまよった、たった一人の家族が。終わりは呆気なくて、言いたいことだけ言って、あの世の両親の元へ逝ってしまった。
「大好きなら一緒に連れて行ってよ……」
ユキのいない世界に生きている意味なんてないのに。長く生きてなんて、残酷だ。

4/26/2026, 1:32:51 AM

「お、流れた」
雲ひとつない星空に滑るように流れる星が一つ、二つ。
日が落ちても上着がいらないくらい過ごしやすくなった今日この頃。なんちゃら流星群が見られると兄弟子から聞いてふらりと星詠をする時に使う丘へ足を向けてみた。
今はいない姉と見た時から随分時間が経っているのに、未だに天体とか星の逸話とかそういった話は苦手なままだった。身長も伸びて、切っていない髪も手入れが面倒くさくなるほど長くなった。見てくれは変わったのに、中身はあの頃のまま。ずっと、姉を探し続けている。
「3回願いをいえば、叶うんだっけ」
願えば叶えてくれるだろうか。どんなに神様に願ったって叶えてくれなかったこの願いを。
降りしきる雨のように光っては消えていく星達のどれかは叶えてくれるだろうか。
お願いします。なんだってするから。代償に何を取られてもいいから。どうか叶えて。

「ユキに会いたい」

4/14/2026, 1:53:40 PM

かみさまへ
あしたのあさ、おきたらいつもないてるおかあさんがやさしいおかあさんにもどっていますように。
おそらにいったおとうさんがかえってきますように。
ユキのわらったかおがみれますように。
おたんじょうびにいくやくそくだったどうぶつえんにいけますように。


神様へ
ユキとずっと一緒にいられますように


神様へ
本当はいないくせに

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