備忘録

Open App

「ユキ」
そう声をかけると風に吹かれるセミロングの隙間から翡翠の目がこちらを向いた。
「ナギ!ひさしぶり」
隣に腰掛けて別れた時から一切変わらない片割れをまじまじと見つめる。ユキも珍しいものを見るようにじっとこちらを見つめている。
「ナギ、おっきくなったね?」
すっとユキの手が晒している左耳に伸びた。チャリ、とピアスに触れ、いくつか穴の空いた耳を撫でる。
「ピアスもあけたんだ。大人だね」
「そうね、ユキを置いて大人になっちゃった」
「ピアスにあってる」
「ユキとお揃いにしたかった」
びゅうと一際強く風が吹いて、右側を重めに垂らしている前髪が乱れる。一瞬だったが見えてしまったのだろう。耳に触れていた手が右のこめかみに向かう。
「いたい?」
「いんや。もう全く」
温かい体温がこめかみを当たる。
「傷跡になっちゃったんだ」
「だいぶ強くぶつけたから。ちょっと掻きむしったりしちゃったし」
「師匠に治してもらえなかった?」
「治して欲しくなかった。自分の戒めに」
労わるように撫でられるのがこそばゆくて、痛そうに顔を曇らせるユキを見たくなくてそっと手を握って傷跡から離す。
「ね、あのさ」
「なぁに?」
「抱きしめてもいい?」
「子供のころのナギはそんなこと聞かなかったよ?」
「んふふ、じゃあ遠慮なく」
軽い身体を膝に乗せてぎゅうと抱きしめる。ユキだ。ずっと、ずっとこうしたかった。
「ごめんね、ユキ」
「いいんだよ。ナギはなにも悪くない」
「あたしが死ねばよかった」
「あたしはナギが無事ならそれでよかったの」
「助けるのに時間がかかってごめんね」
「それこそ良いんだよぉ、見つけてくれてありがとう」
小さな腕を背中に回して宥めるようにさすってくれるものだから。言うつもりのなかったことが口からこぼれ落ちる。
「今度は、あたしも連れてってくれる?」
「だーめ」
「なんで」
「ナギにはもっとお土産話持ってきてほしいから」
「ユキがいないと生きていけないよ」
「大丈夫だよ。だって、ナギはあたしを探してる時一人で生きてたもん」
「ユキに会いたかったからだよ」
「もう一人で歩けるでしょ」
「やだ。ユキといたい」
段々体温が消えていく。膝の上の重みが無くなっていく。どうしても一緒に連れていって欲しくてさらに抱きしめた。
「いたいよ」
「あたしたち双子でしょ。一緒にいてよ」
「双子だけど、もう二人で一人じゃないよ」
「やだ、やだ。ユキと一緒にいたい」
「ナギ、泣かないで」
「っないてない」
「ナギ大好き。長く長く生きて。ずっと待ってる。助けてくれてありがとう。もうあたしに囚われないで」
消えていく。会いたくてたまらなくて、探し求めてさまよった、たった一人の家族が。終わりは呆気なくて、言いたいことだけ言って、あの世の両親の元へ逝ってしまった。
「大好きなら一緒に連れて行ってよ……」
ユキのいない世界に生きている意味なんてないのに。長く生きてなんて、残酷だ。

4/27/2026, 2:36:30 PM