備忘録

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近づいては行けないと何度も言われていた危ない魔導書が並ぶ書架の方に転がって行った鉛筆を追いかけたのが、全ての始まりだった。大して傾斜もないはずの床をコロコロ転がっていく六角鉛筆。まるでナニカにおびき寄せられるような、そんな不自然さに気付けずに、ただ止まらない鉛筆を追いかけた。
「ナギ?ねぇ。そっちはだめって師匠が」
いつもならそう言われたら素直に諦められるのに。なぜかユキの声が妙に遠くに感じた。だって、まだ鉛筆を拾ってない。あの鉛筆を拾わなくちゃ。
少し奥にあった簡素な木机の足にぶつかってやっと止まった鉛筆を拾い上げる。さぁ、ユキの元に戻らなくちゃ。振り返った刹那、
「ナギっ!」
ユキの声。ドンッと突き飛ばされて右のこめかみに衝撃が走る。驚きが勝って痛みが飛ぶ。全ては一瞬だった。クラクラする視界を何とか持ち上げて自分の立っていた場所に目をやった。大きく開いたページにじわじわと吸い込まれていくユキを見た。
「っ、ぅ」
抵抗している呻き声。でも、本は無情にも閉じられていく。
「……ゅ、き……」
手を伸ばす。助けたくて。でも届かない。視界がブレる。バチン、ブラックアウト。次に目を覚ました時には、もうユキは遠く、遠くに行ってしまった後だった。

あの時、完全に本が閉じる前にこちらを見たユキの顔がどうしても思い出せずにいる。

4/28/2026, 2:41:03 PM