烏羽美空朗

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11/23/2022, 12:35:36 PM

高校生の頃、何故だか俺はボロボロの階段を上り、屋上へ向かうシチュエーションを狂ったように多用していた。

時に空に飛び立ち、時に花火の中で幼馴染との心中。おかしな少年に突き落とされる疲れたサラリーマン。

どうやら俺は、屋上からの飛び降りに憧れを持っていたらしい。
それは、決して自殺願望ではなく、落ちていく間の逆さまになった景色を想像するのが楽しかったからだ。

ビル群の星空、軽い足に重い頭、加速していく世界に、近づいてくる地面。
特に、きらきらと輝くビル群の星空は想像するだけで気分が高まったものだ。

……今夜の星空があまりにも綺麗だったもので、カーテンを全開にしてベッドに寝転がり、ふと昔のことを思い出していた。

人工の光ではない。本物の星々は、俺が眠りに落ちていくのを見守ってくれている。

落ちていく

11/22/2022, 11:11:15 AM

頭を空っぽにして雨の夜景を見つめていると、時々、ふと考えることがある。

彼女が生きていたら、俺達は今頃夫婦になっていたのだろうか?

なっていたとしたら、その形や色はどんな物だったのだろうか?

毎朝彼女が用意してくれているトーストと紅茶の香りで目が覚めて、出勤前にキスをして、特別な日でも、そうじゃなくても、二人で、ただ笑って日々を過ごしていく。

俺の読み書きする小説のジャンルは恋愛物ではないので、これくらいのメジャーでベタな想像しかできないけれど、もしそうなっていたら、それはきっと幸せな毎日だったに違いないと思う。

……それか、全くの真反対か。

共にいれば、嫌でも相手の悪い部分を知ってしまう。
売れない作家と、そんなどうしようもない奴を好きだといってくれた特別なファン。彼女の優しさに甘えて、俺は自分のダメな部分ばかりを見せてしまうだろうし、彼女もきっとそれを許し続けてくれたのだろう。

ずっとずっと、彼女から奪って、生きて。そして死んでしまった後でさえ、俺は彼女に負担をかけ続ける。

しかし、互いに持ちつ持たれつ……こんなダメ人間の例ほどではなくとも、きっと、夫婦とはそういうことなのだと思う。

夫婦

11/21/2022, 12:24:13 PM

気の赴くままに歩く日々の中、美しい物も醜い物も別け隔てなく拾い上げていく。それらが自分に与えてくれる感覚を頼りに、余すことなくポケットサイズのノートに書き殴った文字列。
ふとした時に引っ張り出し、パソコン内で辛うじて読める文章に変換していく。そこから何度も何度も言葉そのものや順番を入れ替え、時には新しく付け足したり、完全に取っ払ったり、拘りやなんとなくを織り交ぜながら、その時の自分の全力を書き出す。そして最後に納得した作品を原稿用紙に書き写して、俺の執筆活動は完了する。

何度も何度も繰り返してきた過程の中で、俺は毎回思うことがある。

何かが、足りない、と……。

勿論、技術や知識は一生を賭けても完成することはない。だがそうではなく、もっと根本的な…………「想い」というか、「熱量」と言うべきか。とにかく、作品を作る上で欠かせない物が、どうしても足りていないのだ。それは何なのか。それが分からなくて、ずっと悩まされている。

「独特で幻想的だ」「考察のしがいがある」「なんかかっこいい」などといった感想が読者からは聞こえてくるが、それはつまり「すんなりと理解できない」「単純な面白さがない」「お硬い話」と同義でもあるわけで。「わからないけど面白い!」と言ってくれる人もいるのだが、それはそれで俺にとっては不甲斐ない気持ちになる。

読者に伝えたいことが伝わらない物語など、書く意味はあるのだろうか。そもそも、俺の中には伝えたいことなんてあるのか?

……あぁ、だめだなこれは。こういう時はいつもこうなる。ネガティブ思考が止まらなくなる。考えれば考えるほど泥沼にはまっていき、やがて底無しの暗闇に放り出されるような気分になってくる。

俺の伝えたいことは、何だったのだろうか

それは、どうやって見つけるのだろうか

どうすればいいの?

11/20/2022, 11:03:35 AM

俺の宝物と言えば、何だろうか?
黄ばんだぬいぐるみ。手作りの栞とブックカバー。二十五代目のアイデア帳。白い烏の風切羽。ケサランパサラン。カラカラのペン先。俺には似合わない赤いマフラー……。

ぱっと思い浮かぶ物は実際に物体としてこの部屋にある物ばかりだ。
曲がりなりにも小説家なら、こういう時に抽象的で、幻想的な、ステンドガラスで描かれた女神のように美しい物をあげられれば良いのだが……。

やはり、俺の宝物はこの部屋のあちこちに飾られ、時に戸棚の奥の箱にしまわれている物ばかりである。
そして、その宝物に連なる記憶の総て。自分自身の脳内にしまわれている沢山の映像達も、宝物であることは確かだ。

宝物

11/19/2022, 12:32:59 PM

数年前に思いつきで買ってから今もなんとなく買ってきているミルク色のアロマキャンドルをガラスホルダーに入れ、ライターで火を点ける。
途端、白樺の香りが部屋に広がる。

……と言っても、本当に白樺がこんな香りなのかはわからないが、晴れわたる山の中の香りに似ている気もする。
薔薇やラベンダーの香りも好きだが、甘すぎない木の香りが一番落ち着き、読書や執筆が捗る……気もする。

正直、何かに集中している時、香りなど気にならない。完全に別世界に意識を飛ばしているからである。だから、この香りがいいとか悪いとかもあまり考えたことがない。

しかし、この香りが俺の集中を陰ながら手助けしてくれているのかもしれない。と、穏やかな香りを漂わせながら煌々と揺れる灯火を見つめていた。

キャンドル

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