夜空を駆ける流れ星は
あっという間に消えていく
僕の願いを託そうにも
考えているうちに行ってしまうから
まずは自分がどうしたいかをきちんと決めて
行動に移すことにした
そうしてある夜
忙しない星のひとつに僕の決意を述べた
そうしたらその星は
輝かしい笑顔を僕に向けて
君は願いを叶えたねとそう言った
僕がその意味が分からず首を傾げると
今に分かるよ
まずは心のままに生きてごらんと告げられる
迷いなく流れ星を引き止められるほど
強く決意した想いなら
絶対に大丈夫だから
【流れ星に願いを】
僕らの街は高い壁に囲まれている。
それは僕が生まれた時からそこにあった。
この壁の向こうに何があるのか僕は知らない。知りたいとも思っていなかった。
だって知らないままでも、別に不自由なことなどなかった。だから、考えにも及ばなかったのだ。
ある日、街の子供がひとり、壁を越えて外へ出て行ってしまった。そんなこと初めてだったから僕は驚いた。
その子供は僕より年上で、僕も顔くらいは見たことのある子だった。誰か大人が連れ戻しに行くんだろうなと漠然と考えていたけれど、その子はとうとう街へ帰って来なかった。
どうしてだろう。僕には分からなかった。
だって、誰もその子を探しに行かなかったのだ。
外は危険かもしれないのに。
もしかしたらその子は何か事情があって戻れなくなっていて、ひとりで困っているかもしれないのに。
僕はとうとうたまらなくなって聞いてみた。
どうして誰もその子を迎えに行ってあげないのと。
僕の疑問に街の大人達は、だってあの子は自分からこの街を出ていったんだ、それを止める権利は私達にはないよ、と、そう言った。
大人達は口を揃えて僕に教える。
街を出るのはいつだって自由だ。嫌なら出ていったって誰も文句は言わない。その代わり何があっても、もうこの街には戻れない。それがルールなんだよ。
ここはルールという壁にずっと守られているんだ。だから私達は安心して日々を過ごせているんだよ、と。
なるほど。
そうだったのか。
僕はやっとこの壁の意味を理解した。
ルールとは忠実な者には常に優しくて、逸脱した者にはただ無関心なんだと。
だから僕らは何も考えずに、規律に縛られる楽を好むのかと。
【ルール】
本日はあいにくの朝からどんよりとした曇り空。鬱々とした灰色の厚い雲が、僕らの頭上を覆っていた。
そうして僕はとなりを歩く彼女を見遣る。
何だか雨が降りそうだねと、軽い調子で語り掛けてきた彼女の控えめな笑顔に向けて問い掛ける。
「昨日、何かあった?」
彼女の口端がぴくりと、一瞬だけ引き攣る。
僕はそれに敢えて気付かないふりをして空を見上げる。
「別に言いたくなければいいんだけど、もし誰かに話して楽になるなら、僕で良ければ聞くよ」
そう言った途端、となりから「うん……」と小さな返事が返され、すぐ後に鼻を啜るような音が聞こえる。
ぽつり、ぽつり、と。僕の鼻先に水滴が当たった。となりに視線を戻すと彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちていて、僕は急いで小脇に抱えていた傘を開いて、彼女と僕の頭上に翳す。
「何でわかったの?」
「ん?」
「何で私が今日落ち込んでるってわかったの?」
彼女は泣きながら僕に問い掛ける。
「だって君は分かりやすいから」
僕がそう答えると。
「そんなこと言うの君だけだよ」
と彼女はまた鼻を啜る。
私隠すの上手いはずなのに、どうして君には通じないのかな。
そんな独り言を呟いた彼女のとなりで、僕は今日の天気を予測する。
たぶん大粒の雨が降った後、それが嘘だったみたいにからりと晴れるだろう。
彼女の心模様と天気が連動していると気付いたのは、彼女と付き合うようになってしばらく経ってからのこと。本人すらも知らないこの秘密を僕は今のところ誰にも明かさずに楽しんでいる。
いや、僕以外の誰かになんて、絶対に教える気なんかないけどね。
【今日の心模様】
「いいか。よく聞けお前ら!」
メガホンを片手に高台に登ったその男は、高らかに叫ぶ。
「この戦いに勝つための手段なら何でもやれ、何でも利用しろ。仲間の命を守り、敵を倒すためならば、どんな汚いことをしても俺が許す」
軍服を身に纏い、一糸乱れぬ整列を組んだ部下達に向かい、男はさらに声に力を込めた。
「世間が何と言おうが、上のお偉いさんがどう命令してこようが、俺はお前らの命が何より大事だ。規律なんてクソくらえ。戦場に出ないで吠えるだけの犬のことなど気にするな」
男はそこでいったん言葉を切ると、すうっと息を吸い込んだ。
「お前らのすることは、俺が全て肯定してやる。外の人間がたとえそのやり方を間違いだと否定してきても、俺が全て信じてやる。だから──」
──絶対に全員生きて帰ってこい。
男がそう告げた瞬間、あちこちから拳が天高く突き上げられ、力強い咆哮が迸った。
【たとえ間違いだったとしても】
お前らが命を散らすことほど、間違いなことなんてないのだから。
ぽたり。
ぽたり。
ぽたり。
ぽたり。
小さな雫が水面に落ちる。
ぽたり。
ぽたり。
ぽたり。
ぽたり。
私はそのゆっくりと落下していく様をじいっと眺めながら。
いいなぁと、羨ましく思う。
最初は小さな小さな水滴でしかなかったはずの雫が、今は寄り集まって大きな大きな水溜まりを形作っている。
私もこんなふうに。
自分の一部を切り離してでもいいから。
何か大きなものの一部になりたかった。
だってそうであったなら。
こんなに寂しくて虚しい気持ちに捕らわれて。
泣くことなんて、なかったはずだもの。
【雫】