本日はあいにくの朝からどんよりとした曇り空。鬱々とした灰色の厚い雲が、僕らの頭上を覆っていた。
そうして僕はとなりを歩く彼女を見遣る。
何だか雨が降りそうだねと、軽い調子で語り掛けてきた彼女の控えめな笑顔に向けて問い掛ける。
「昨日、何かあった?」
彼女の口端がぴくりと、一瞬だけ引き攣る。
僕はそれに敢えて気付かないふりをして空を見上げる。
「別に言いたくなければいいんだけど、もし誰かに話して楽になるなら、僕で良ければ聞くよ」
そう言った途端、となりから「うん……」と小さな返事が返され、すぐ後に鼻を啜るような音が聞こえる。
ぽつり、ぽつり、と。僕の鼻先に水滴が当たった。となりに視線を戻すと彼女の目から大粒の涙がこぼれ落ちていて、僕は急いで小脇に抱えていた傘を開いて、彼女と僕の頭上に翳す。
「何でわかったの?」
「ん?」
「何で私が今日落ち込んでるってわかったの?」
彼女は泣きながら僕に問い掛ける。
「だって君は分かりやすいから」
僕がそう答えると。
「そんなこと言うの君だけだよ」
と彼女はまた鼻を啜る。
私隠すの上手いはずなのに、どうして君には通じないのかな。
そんな独り言を呟いた彼女のとなりで、僕は今日の天気を予測する。
たぶん大粒の雨が降った後、それが嘘だったみたいにからりと晴れるだろう。
彼女の心模様と天気が連動していると気付いたのは、彼女と付き合うようになってしばらく経ってからのこと。本人すらも知らないこの秘密を僕は今のところ誰にも明かさずに楽しんでいる。
いや、僕以外の誰かになんて、絶対に教える気なんかないけどね。
【今日の心模様】
4/24/2023, 4:23:56 AM