Yushiki

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 僕らの街は高い壁に囲まれている。
 それは僕が生まれた時からそこにあった。
 この壁の向こうに何があるのか僕は知らない。知りたいとも思っていなかった。
 だって知らないままでも、別に不自由なことなどなかった。だから、考えにも及ばなかったのだ。

 ある日、街の子供がひとり、壁を越えて外へ出て行ってしまった。そんなこと初めてだったから僕は驚いた。
 その子供は僕より年上で、僕も顔くらいは見たことのある子だった。誰か大人が連れ戻しに行くんだろうなと漠然と考えていたけれど、その子はとうとう街へ帰って来なかった。

 どうしてだろう。僕には分からなかった。
 だって、誰もその子を探しに行かなかったのだ。
 外は危険かもしれないのに。
 もしかしたらその子は何か事情があって戻れなくなっていて、ひとりで困っているかもしれないのに。

 僕はとうとうたまらなくなって聞いてみた。
 どうして誰もその子を迎えに行ってあげないのと。
 僕の疑問に街の大人達は、だってあの子は自分からこの街を出ていったんだ、それを止める権利は私達にはないよ、と、そう言った。

 大人達は口を揃えて僕に教える。
 街を出るのはいつだって自由だ。嫌なら出ていったって誰も文句は言わない。その代わり何があっても、もうこの街には戻れない。それがルールなんだよ。
 ここはルールという壁にずっと守られているんだ。だから私達は安心して日々を過ごせているんだよ、と。

 なるほど。
 そうだったのか。
 僕はやっとこの壁の意味を理解した。
 ルールとは忠実な者には常に優しくて、逸脱した者にはただ無関心なんだと。
 だから僕らは何も考えずに、規律に縛られる楽を好むのかと。


 
【ルール】

4/25/2023, 6:10:59 AM