帰燕[Kien]

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12/10/2024, 2:47:40 PM

作品No.254【2024/12/10 テーマ:仲間】


「何してんだよ!」
 ソウヤが、俺に向かって叫ぶ。俺は振り向いて、
「見りゃわかるだろ」
と、返答した。俺を見るソウヤの顔は、怒りと戸惑いに満ちていた。
「わかんねえから訊いてんだよ!」
「そうだよ、ミヤオくん! 何のつもりなの⁉︎」
 数日前に怪我をしたソウヤに肩を貸しているカヤマの顔もやはり、戸惑いの表情だ。俺は、そんな二人に首を傾げる。
「ただ食事してるだけなんだけど……何かおかしいのか?」
「……お前、本気で言ってんのか?」
「ミヤオくん……本当に、どうしちゃったの?」
 二人の顔に、また別の色が浮かぶ。それは、理解し難いモノを見るような表情だった。長年一緒にいたはずの俺に向ける表情ではない。
「ミヤオ、お前——今自分が何食べてるかわかってんのか?」
 ソウヤが、言いながら腕を動かす。その腕は、細かく震えていた。
「〝それ〟——」
 ソウヤの指が、震えながら俺の持っているモノを指し示す。
「キシじゃねえかよ……」
 〝キシ〟が、イコール、俺達三人と行動を共にしている仲間の一人だと思い至り、俺は手に持ったそれを見下ろした。それは、目を見開いたままのキシの首だった。右頬だけが欠損している——まるで、何かに喰われたように。
「何で、仲間を食べてるんだよ……」
「キシさん——ミヤオくん、何で……?」
 呆然とするソウヤとカヤマだが、正直俺も呆然としていた。
 キシは確かに仲間——のはずだ。それを俺は、どうやら殺して喰っているらしい。〝何でこんなことをしたのか?〟なんて、俺が一番知りたいくらいだった。
 だが、どこかで冷静な俺が告げている。その冷静な俺が、俺の体を乗っ取るように口を動かした。
「仲間だろうがなんだろうが——」
 そうか、俺は——いや、〝俺だけ〟が違ったんだな。
 俺は、〝仲間〟じゃなかったんだ。
「腹減ったら、喰うのは当たり前だろ?」

12/9/2024, 2:43:06 PM

作品No.253【2024/12/09 テーマ:手を繋いで】

※半角丸括弧内はルビです。


 あ、ねえねえ! 昨日はありがとね!
 ……え、「何のこと?」って——やだなー、恥ずかしいからってごまかさないでよ。
 昨日、あたし、熱出して寝込んでたじゃん? ダルいし、苦しいしで、なかなか眠れなかったんだけど、きみが手を繋いでくれたら、不思議とスーッと眠りに入れたんだよ。
 ほんっと! ありがとね! おかげさまで、全回復だよ!
 ……って、さっきから、反応悪くない? そんなに恥ずかしいことじゃないでしょ? あたし達が付き合ってて、お互いの部屋に泊まることもあるなんて、ここにいる人は大体知ってるし。
 え? 「昨日は酔い潰れて、店から近所だった篠山(しのやま)の家に泊まった」? 「お見舞い行くつもりだったのに行けなくてごめん、何も連絡もできなくてごめん——って、謝るつもりだった」? 何、言ってんの? だって……ずっと手、繋いでくれてたじゃん。
 じゃあ、アレは、あの〝手〟は——一体何だったの?

12/8/2024, 2:56:15 PM

作品No.252【2024/12/08 テーマ:ありがとう、ごめんね】


 〝ありがとう〟も〝ごめんね〟も、いくつ、どれだけ、言っても足りない。
 私を愛してくれて、ありがとう。
 泣いて見送ることになって、ごめんね。

12/7/2024, 2:58:19 PM

作品No.251【2024/12/07 テーマ:部屋の片隅で】


 部屋の片隅で、ただ、考える。
 自分の命が終わるときのことを。
 年齢で考えれば、この家族の中で最後に死ぬのは私だろう。だが、本当にそうなるだろうか。
 つい先日、まだ三十代の従兄を突然の病で亡くした身としては、必ずしも年齢順に終わりが来るなど有り得ないことくらいは、もうわかっている。従兄だって、彼の家族の中では最年少だったにもかかわらず亡くなっているのだ。つまりは、私の命だっていつ終わるかなど知れたものではない。事故にしろ、病気にしろ、はたまたそれ以外にしろ——それがいつ来るのかなんて、わかりやしない。
 割と年齢の近い従兄を亡くしたから、ここ最近、唐突にそう考えることが増えた気がする。そして、いっそ自分が死ねばよかったのだと考え始める。
 それはきっと、彼の命を、彼の人生を、残された彼の家族を、そして、私の存在そのものを、冒涜しているとわかっているのに。
 夜、暗い部屋の片隅で、悶々と考える。答えの出ない問いを、取り留めもなく。

12/6/2024, 2:56:36 PM

作品No.250【2024/12/06 テーマ:逆さま】


 何度も何度も、きみは僕の前に現れる。
 時間も場所も選ばない。自分勝手なのは、まるで変わらない。
 きみが現れるようになってから、僕は部屋の窓を厚いカーテンで塞いだ。けれど、それは意味がなかった。
 そこに窓さえあれば、きみは僕の前に姿を現す。それは決まって、逆さまに落下していく姿で、しかも笑顔だった。
 せめて何か言ってくれればいいのに、きみはただ笑顔で落下していく逆さまの姿を、僕に見せつけるだけだ。
 もしかしたらそれが、きみなりの僕への復讐なのかな。だとしたら、もう充分だ。
「もう、やめてくれ」

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