世界のおわり

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3/24/2026, 3:20:20 PM

《ところにより雨》
僕を拾って手当してくれたニンゲンは目の見えないお人好しだった。
僕はだいたいの身体的特徴はニンゲンであるため、だと勘違いしてしまったのだと思う。
僕は恩を返したらすぐに家を出ていこうと決めていたのだが、目が見えない分普通よりも危なっかしい。
恩を受けた子が命を落とすのは目覚めが悪い為、ここまで成長したら出ていこうということを繰り返している内に長い時間を共にすごした。
ここまでくると自分の仲間だと認識する他ない。
もうでていく気はなくなった。
邪魔者になるまで、ニンゲンの傍で一生を見守ることを決めた。




私が拾った同居人はやさしいヒトだ。
私のことを幼子とでも思っているのか、とても過保護だ。
私は目が見えない代わりに他の五感はより敏感だ。
だけど、私は目が見えないから、ヒトと違うところを見つけることはできない。
だから、可愛い同居人はヒトなのである。

だってあなたの秘密を知ることより、あなたを失ってまたひとりぼっちになるほうが怖かったのだから。
少し嘘つきで私を傍で見守ってくれるあなたが大好きだったから。


ニンゲンに寿命が迫ってきた。
何かやりたいことはないか、と聞いても
「あなたといつも通りの日々を」としか望まれない。
だから、ニンゲンの死臭に気が付かぬふりをして、いつも通りの日常を送ることしかできない。
ニンゲンは眠ることが多くなった。
日課の散歩も満足に歩けずに、僕が抱きかかえるようになった。
僕を忘れた。
お兄さんと呼んで慕ってくれるようになった。



ニンゲンが死ぬ日になった。
何故か今日死ぬという確信があった。
自己紹介をして、散歩をする。
ちゃんと、ちゃんと。
いつも通りの日々を。

散歩の途中に、ニンゲンが船を漕いで段々目を閉じていく。
「また起きたらあそぼう」
まだ寝ない、とグズるニンゲンにそう約束をする。
何かの間違いでもう一度会えないかの下心もある。


「今日の天気は晴れときどき雨だ」
寝ているニンゲンに対してそう呟く。
雨が降るかもしれないのだから、傘も差さないで寝ているニンゲンに水滴の跡が残るのは、当然のことなのだ。



今日もまた、いつもの家を出て、散歩をする。
ニンゲンにまた会う日を待っている。

3/23/2026, 2:28:39 PM

《特別な存在》
私、あなたの『特別な存在』になりたかったの。
でもね、あなたの大切な人の座はもう収まっている人がいる。
なら、こうするしかないでしょう?




あなたの大切な人を、これ以上ないくらいぐちゃぐちゃにして、私を一生忘れないように、刻みつけるの。
そうすれば、あなたは命尽きぬ限り、私を見続ける。
あなたの愛はとてつもなく重い。
私がどれだけの力を持ったって、あなたはどれだけのコストをかけてでも、私の元へたどり着いて私の全てを滅ぼすのでしょう。
どのような不可能も可能にしてみせるのでしょう。
その目に初めて私が刻みつけられたその時から、私はあなたが私の元へ来るのを楽しみに待っているわ。

3/20/2026, 9:41:48 AM

《胸が高鳴る》
まち望んだその瞬間に私の胸が抑えきれず高鳴る。
ようやくあの方の屈辱をはらすことができる。

綺麗で美しい、輝くあなたに言われることは分かっている。
「こんな馬鹿なマネはやめて!!」
「そんなことは本人も望んでないよ!!」
「そんなことやったって帰ってこない!!」

そんなことは私も身に染みてわかってる。
だから、何だ?
あの方が穢され、貶められ、辱められた。
その末に命を落とされた。
その事実は変わらない。
私はあの方に侍るもの。
あの方がどのような道を進もうと、道の終わりまで付き従うが我が使命。
なら、その使命を果たすことが出来なかったら?
自分が至らぬせいで、自分が誓った忠義に反してしまったなら?
しかも、主人が貶められたのなら?
その時傍に控えなかった自分の不手際を置いておいて、
まずその要因を排除し、報いを受けさせる。
その後、主人に向けて詫びるため、切腹する。


もう一度、あなたの傍へいくのを許されるのならば、あなたの笑顔がみられるならば、私は、

3/17/2026, 4:57:18 PM

《泣かないよ》
私の愛した人は、ある人を崇拝していました。
その人全てが優先で、私になんてちっとも振り向いてはくれなかった。
我ながら男の趣味が悪いですよね。
でも、惚れてしまったのだから、仕方がありません。
彼の崇拝する人のことを語る表情がこの世の何よりも尊くみえたのですから。

私が危険に晒されたそのときも、彼は崇拝する人のことを優先して避難させました。
そうでなければ私の愛する彼ではありません。
私のことも迎えに来ると約束してくださいました。
あのような状況で、私のことを思い出してくれた、それほど思われていたのだと、実感できた。
その瞬間は本当にしあわせでした。
私が死んだところであなたは泣いてはくれないでしょう。
あなたの全ては崇拝する彼のことで満ちている。
ただ、あなたが崇拝する彼のことを語るとき、少しくらいは私を思い出して欲しい。
最期なのだから、我儘を





変な女だった。
俺があの方を語っているとき、驚くほど優しい顔を俺に向けて、話をよく聞く、できた女だった。
いつしか、其奴にしかあの方の話をしなくなった。
他の奴ではどうしても何か物足りなかった。
それだけの、女だった。


彼奴が死んだ。
約束通り迎えに行ったときには、息絶えていた。
選択を間違ったとも思わないし、後悔もしない。
彼奴もそのあり方を分かっていたし、「お待ちしております」と言っただけだった。
人の死には慣れている。
いつものように遺体をゴミ袋に詰めようとしたが、気分が変わった。
彼奴が入るくらいの箱に遺体をしまった。
そんで周りをコンクリートで固めて海へ沈めた。


「やっぱ兄貴には勿体ねぇいい女」
それが俺たちの姐さんに対する最終の評価だ。
姐さんの恋は絶対に報われないことは明白だった。
『強いやつが偉い』が常識のこの世界でか弱くて雑用ばっかの姐さんははっきり塵芥のような存在だ。
ただあの兄貴を最期まで愛し尽くしたところで姐さんと呼ばれるようになった。
普通ノータイムで絶対絶命の自分を見捨てる判断を支持できるか?
それが愛した男だって貫けるか?
あそこまでの愛をみせつけられちゃ俺らも姐さんとお呼びするしかねぇ。
それに、姐さんの愛は報われた。
あの雑に部下に遺体をバラしてゴミ袋に詰めるように指示する兄貴が、わざわざ箱に壊れないように入れてコンクリートで固めて海へ沈めるなんて金もかかる面倒くさいこと、本当に気に入ってなきゃしねぇよ。
しかも死体を入れんのは兄貴自ら、なんてよ。
まぁ、あの兄貴が素面だと姐さん以外にボスについて語らなくなったり、酔ってても語る前に姐さんの名前を二、三回呼んで俺らを姐さんと勘違いして語り始めるんだから、なんとなく、お気に入りなんだろうとは思ってたんだけどな。

兄貴は姐さんが死んだことについて泣いたことはない。
ただ、いつも通り俺らにボスについて語るときに、ふと何か違うと首を傾げるのだ。
それは兄貴が亡くなるそのときまで変わらなかった。









3/16/2026, 9:57:02 AM

《星が溢れる》
その星を閉じ込めたようにきらきらと輝くその瞳が、俺の汚さを浮き彫りにする気がして大嫌いだった。



最初は、生き残るために近づいた。
彼女のその身分に、金に用があったから。
俺は演技が上手な子供だった。
「私自身を見て欲しい」
と大人の汚い欲に疲れた彼女に、本音を隠してそしらぬ顔をして、慰めた。
結果俺は彼女の懐に入り込んで、専属の付き人にまでなることができた。
俺の身分からするとありえないことだった。
俺にとって彼女はただの生き残る手段でしかない。
強いて言うなら目をあまりみたくない。彼女に対する認識はその程度だった。


、、、はずなのに。

なんで俺は彼女を庇って重傷を負った?
本当に自分の行動が理解できない。

目の前が霞んでくる。
俺の最期の光景は日々嫌というほど目に入る彼女の星が溢れるように輝きを放つ瞳。
最期くらいは見ずに済めばよかったのに。
はっきりとは見えないことが温情なのかもしれない。


オジョウサマへ
俺はあなたの目が嫌いでした。
でも、あなたへ仕えた日々は意外と楽しかった。
お世話になった恩を込めて、
あなたの生涯のしあわせをお祈り申し上げます。

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